• 前田敦子

――そんなウズベキスタンの方々も驚くと思いますが、葉子が撮影のために、今にも壊れそうな絶叫マシーンに繰り返し乗るシーンが印象的でした。

あれ、日本ではアウトな乗り物ですよね(笑)。

――すごくつらそうでした(笑)。実際に乗ったんですよね。

はい、本当は連続で乗っちゃいけないみたいです(笑)。係の人もいましたが、「そんなにたくさん乗るものじゃない」とおっしゃっていて。もともと絶叫マシーンは大丈夫なんですが、あれはちょっと危ないと思います(笑)。でも、「やるしかない」と思ってやりました。「早く終われ!」と念じながら(笑)。一緒に乗った加瀬さんは大変そうでしたよ。無口な役なので、必死にリアクションを我慢されていました。

――その加瀬さん演じるカメラマン・岩尾に、葉子が「本当にやりたいことから、どんどんずれていっている気がする」と相談するシーンがありました。夢を抱きながら、「このままでいいのか」と漠然とした不安を感じることは誰にでもあることだと思います。前田さんは、このセリフについてどう感じましたか?

誰でも絶対に考えますよね。でも、何が理想なのかは分からない。常に変化を求めるのが人間なんだろうなと思うようにはしているんですけど……アイドル時代にそういうことを思っていたかもしれないです。アイドルは立ち止まれないんですよ。握手会やライブ、劇場公演の日程で仕事のすべてが決められている中で、それが延々と続く。だから、止まれない。一人だけが、「ちょっと休みます」とはなかなか言えないので、その時は立ち止まれない自分と向き合うことが多かったような気がします。

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――AKB48を卒業直後、ニューヨークに短期留学したのも立ち止まる一環だったということですか?

そうですね。その他にもいろいろなことをしました。自分の稼ぎで生きるようになってから、「時間を作る」ということをしたことがなかったので。学生時代は何となく過ごしますよね? とりあえず、「時間を作る」ことをやってみよう.。そう思ったのが辞めた直後でした。最初は時間があることにも焦りましたけど、「ちょっと待てよ」「このままの生き方でいいのか」と。アイドルとして生きていた時代も貴重な時間でしたが、それは特殊な時間でもあったんだと。卒業後、そんなことに気づかされました。

――アイドル卒業後、役者の仕事をしている時に「ずれているのではないか」と感じることはありましたか?

憧れていた山下敦弘監督とご一緒できたのも、運だと思うんです(『苦役列車』・『もらとりあむタマ子』)。「ずれている」というよりも、むしろ恵まれている。会いたい方に会えてお仕事ができているのは今も変わらないので、今のお仕事に関して「ずれている」と感じることはないのかなと思います。

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    (C)2019「旅のおわり世界のはじまり」製作委員会/UZBEKKINO

■淡々となる日常で「止まってなんかいられない」

――以前の取材では、撮影現場に入った時に「アイドルから来た自分」という思いがどこかにあって気後れすることもあったと。アイドルよりも女優1本の時代が長くなった今、変化はありますか?

「仕事だから」というのもあると思うんですけど、いつまでも夢見る自分じゃいられないというか(笑)。生きていくためには現実と向き合わないと。そして、とにかく働かないといけない。年齢を重ねるごとに、そうやって何かが淡々となっていきますよね。十代の頃は夢を追いかけることが生きていくことではあったのですが、今はそんな甘ったるいこと言ってられないなと(笑)。

そういう意味ではたくましくなったと自分でも感じますし、十代の頃に抱いていた「言葉にできないようなモヤモヤ」は、なくなっていったのかもしれないですね。たぶん、私だけじゃなくて、みなさんもそうやって生きていらっしゃると思います。周りの友達もキラキラした話をしなくなるんですよね。結婚して子供を産むと、結婚生活や子供とかリアルな話をする機会が増えて、仕事に対する理想論はあまり周りでも聞かなくなりました。そうやって、日常が淡々となっていってるような気がします(笑)。

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――確かに。私自身も、結婚などを通して自身の価値観が変化していくのを感じます。何事も身をもって経験することって大事なんですね。

私も全く同じです。結婚して、妊娠して、出産することは、現実にとことん向き合うことだと感じています。私にとっては、人生の一大事。自分の考えがどれだけ甘かったか知ることができましたが、他にも経験してみないと分からないことはたくさんあるんだと思います。

――仕事のモチベーションも、「生きるため」に変わったと。

そうですね。だからもっとしっかりしないと(笑)。そういう意味では、キャリアアップしていくことも大切だと思います。いろいろな意味で、止まってなんかいられない(笑)。

  • 前田敦子

――働く上で、「お子さんのため」と考えることも多くなりましたか?

私は今まで、「とりあえず試してみる」ということができていました。そうやって、これからもいろいろなことに挑戦していけると思うんですけど、自分の子どもにもそういう「道」は作ってあげたいですね。いろいろ挑戦した先にある景色を見せてあげたいというか。生まれた時点で、その子にはその子の人生があって、今はもちろん一緒にいないといけないですが、私ができる限りのいろいろなことを見せてあげたい。

最近は、母がついてきてくれるので、仕事の現場にも子どもと一緒に行っています。そこで、いろいろな方にお会いして楽しそうなんですよ。人見知りしなくて、誰に抱っこされても笑ってるんです(笑)。そうやって、息子のいろいろな可能性を試してあげたい。家でずっと一緒にいてママと息子の関係は成立すると思うんですけど、開放的にいろいろな人に会わせることによっていろいろな可能性が広がっていくんじゃないか。そんな、試行錯誤の毎日です。

そういう環境に慣れた時、私がお仕事に復帰することがベストかきちんと考えたい。産んだばかりの頃は、大きくなるまではずっとそばにいてあげたいと思ってたんですけど、たまたま公開作品と重なったのでこうして早めに復帰させてもらっていますが、今後はまだ分かりません。でも、このやり方も間違いではないんじゃないかなと思いますし、家族と相談しながらなんですけど、私もいろいろやらせてもらっています。子どもが振り回されるといけないので、何よりも子どもは一番。そうやって、一緒にいろいろな環境を試しています。

■前田敦子
前田敦子1991年7月10日生まれ。千葉県出身。2005年、AKB48結成時からメンバーとして活動し、2012年8月に卒業。2007年の映画『あしたの私の作り方』で銀幕デビューを果たし、映画初主演作『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(11年)で第35回日本アカデミー賞話題賞(俳優部門)、『苦役列車』(12年)で第4回TAMA映画賞最優秀新進女優賞を受賞。2019年は、『マスカレード・ホテル』、『コンフィデンスマンJP-ロマンス編-』、『町田くんの世界』が公開され、『旅のおわり世界のはじまり』(6月14日公開)、『葬式の名人』(9月20日公開)の計5作品に出演する。