バッテリーとモーターだけで走るEQCだが、だからといって、決して単純なクルマだと侮ってはいけない。メルセデスは様々な工夫を凝らし、ドライバーの使い方をアシストしようと機能を作りこんでいる。例えば、次の充電スポットまでの距離を計算し、出力を制御する機能なども搭載されているので、無駄のない走行が可能だ。最大効率モードで走ると出力は低下するものの、バッテリーの電力はセーブされる。

スルッとアクセルペダルを踏み込めば、静かでトルクフルな加速が味わえる。前後モーターのトルクは後輪が主導的な役割を果たし、タイヤのスリップを見ながら前輪にトルクが発生する仕組みとなっている。つまり、オンデマンド型の駆動配分なのだ。アクセルが奥のほうで重くなるのは、パフォーマンスが切り替わるポイントをドライバーに教えるため。重くなってもさらに踏む込むと、加速は最大となるが電費は悪化する。メルセデス・ベンツのエンジニアは、「EVは電気の使い方を工夫しないといけないクルマなので、ガソリン車を作る以上に難しいんです」とうれしい悲鳴をあげる。「なぜうれしいの」と聞けば、EVでは色々なことができるので、エンジニア冥利に尽きるとのことだった。

EQCの車両重量は2.5トンもあるので、乗り心地には重厚感がある。その感覚は「Sクラス」のスピンオフモデルのようだが、ハンドリングはAMGのようにスポーティーだ。重いクルマではあるが、バッテリーが床下に配置されているので、重心はスポーツカーなみに低い。つまり、ハンドリングはご機嫌なのだ。パッケージ的にも、ラゲッジスペースは500Lと十分な広さを確保しているから、よきファミリーカーとしても使える。

  • メルセデス・ベンツ「EQC」の荷室

    「EQC」にはファミリーカーとしての利便性も備わっている

試乗の途中、充電スポットで30分ほど時間を費やした。そこで出会ったEVの女性ユーザーに話を聞くと、「電気はただみたいに安いし、排気ガスが臭くない。しかも、朝のラッシュ時は、EVならタクシーやバスの専用レーンを走ることができる。お金をためて、メルセデスのEQCを買いたいわ」とのことだった。

  • メルセデス・ベンツ「EQC」を充電しているところ

    充電スポットでは現地の女性EVユーザーから話を聞いた

メルセデスも直面するバッテリーの課題

EVの今後の課題が「重さ」と「コスト」であることは周知の事実だが、EQCの車重2.5トンのうち、約650キロが80kWhのバッテリーと聞いて、改めてバッテリーの重量がネックとなっていることがわかった。軽自動車1台分のバッテリーを背負って走るのは、確かに大変だろう。

ユーザーとしては、バッテリーの電気残量が気になる。おなかいっぱいに充電するには2通りのやり方がある。1つは通常の電源から充電するタイプで、AC(交流=16アンペア)で約11時間かかる。自宅の電源を使って夜から朝まで充電できる人なら、この使い方がいいだろう。バッテリーの疲労も抑えることが可能だからだ。急いでいる場合はDC(直流)の急速充電を使うことになるが、条件(気温など)が整っていれば、残り10%となったバッテリーを約40分で80%まで充電できる。

  • メルセデス・ベンツ「EQC」

    急速充電であれば、残り10%まで使ったバッテリーを約40分で80%まで充電することが可能だ

EQCの公式資料には、「電費:19.7~20.8kWh/100km、CO2排出量:0g/km」というメッセージがトップページに記載されている。 つまり、「100キロ走るためには約20kWhの電力を消費するが、CO2排出はゼロである」ということを、重要なメッセージとして発信しているのだ。

確かに、EQCにテールパイプ(マフラー)は付いていないので、走行中はCO2を排出しない。もちろん、人体に有害となりやすい窒素酸化物(NOx)もゼロだ。だから、EVは環境に優しいのだ、と多くの人が理解している。

でも、本当にそうなのだろうか?

確かに、走るクルマとしては「ゼロエミッション」(排出ゼロ)だが、気にしなければならないのは、電気を作る段階でどのくらいのCO2を排出しているかだ。石炭発電、天然ガス発電、風力、水力、原子力と、発電には色々なチョイスがあり、それぞれの国で構成は異なる。ノルウェーでは水力発電が主力なので、発電時のCO2排出は限りなくゼロに近いだろう。だが、石炭発電で大部分の電力をまかなっている「かの国」ではどうなのか。エネルギーを上流から見て、電気を使う段階までの総合的なCO2排出量で考える必要があるのだが、「かの国」の「ある資料」を見ると、EVよりも、むしろプリウスのほうがCO2排出が少ないという結果となっている。

今回、メルセデスの発表資料の中にも、20万キロ走ったときの総合的なCO2排出量は、ライフサイクルで計算すると水素燃料電池車(FCV)がもっとも少ないと算出してあった。そういう意味では、既存のガソリンエンジンおよびディーゼルエンジンの効率を上げることも、それらの内燃機関にモーターとバッテリーを組み合わせるプラグインハイブリッド(PHEV)も、それぞれに重要な技術なのだ。環境問題は「エネルギーの一生」で考える必要があるし、それぞれのお国事情も理解すべきなのではないだろうか。その点、「EVだけが優等生だ」などとメルセデスはいっていない。EQCとEQPower(PHEV)のコンビネーションで、これからのメルセデスカーが作られるのは間違いない。

EVぎらいの私も、EQCなら欲しいと思った。それが正直な感想だ。