健康で豊かな生活を送る上で、大事な要素のひとつが「睡眠」だ。ここ数年、睡眠負債や睡眠障害などが注目され、多くの人が睡眠の課題に対して関心を寄せている。

しかし、睡眠専門医の白濱龍太郎氏によれば、「食事や運動に比べ、本当の睡眠の大切さを理解している人はまだまだ少ない」という。本稿では、睡眠の問題が引き起こすリスクと、睡眠の質を向上させるためのポイント、そして食事から睡眠を改善する方法として、手軽に実践できる「みそ汁」のレシピを紹介する。

  • よりよい睡眠をとるために気を付けるべきこととは?

ちょっとしたストレスがきっかけで負のループに陥る可能性も

「睡眠障害というと、『寝付きが悪い』『夜中に何度も目が覚める』といったイメージが強く、特に20〜30代の方は『自分とは無縁の病気』と思う向きもあります。しかし実際は、仕事の連絡やゲームをするくらいのちょっとしたスマホの操作によるブルーライトの影響でも、簡単に睡眠障害になり得るんです」という白濱氏。

  • 白濱龍太郎 医師・医学博士・日本睡眠学会認定医・日本オリンピック委員会強化スタッフ。筑波大学医学群医学類卒業後、東京医科歯科大学睡眠制御学快眠センター等での臨床経験を生かし、睡眠、呼吸の悩みを総合的に診断、治療可能な医療機関「RESM(リズム) 新横浜/睡眠・呼吸メディカルケアクリニック」を設立。『誰でも簡単にぐっすり眠れるようになる方法』(アスコム)、『見るだけでぐっすり眠れる深睡眠ブック』(宝島社)ほか、著書、監修書多数

若い人ほど睡眠を軽視しがちな傾向もあるが、「やる気が出ない」「日中にぼーっとする」といったちょっとした不調を感じている人は要注意だという。白濱氏は特に睡眠のメンタルヘルスへの影響の大きさを指摘する。

「産業医の立場から感じるのは、学生生活の延長のようにアクセルをガンガン踏んで活動していく中でうつに悩む20代が多いということです。『気分が落ち込んで、会社に行きたくない』と感じたり、さまざまな意欲が低下したりしたときは、睡眠を意識してもらうことも大事。日常生活における睡眠の問題の現れ方はさまざまで、それは結果でもあり原因でもあるんですが、仕事のパフォーマンスは下がりますしケアレスミスも増えるでしょう。そうすると、うつ病などの精神疾患にも関連するほか、高血圧や糖尿病、場合によっては脳梗塞などの突然死にもつながります」

睡眠の質が低下するきっかけとしては、自律神経のバランスの乱れが挙げられる。自律神経はナイーブで、季節の変わり目の寒暖差などさまざまなストレスに影響されるそうだ。

「アメリカでは、昼寝をすることでプロバスケ選手のシュート精度が向上したという研究結果も報告されています。仕事の生産性となるとそこまではっきりとした数字で現れにくい部分はありますが、眠りに変調をきたして仕事でミスが出やすくなればストレスも加わり、さらに睡眠の質が低下するという負のループに陥る人も少なくありません。結果、うつのような状態になって精神科で強い薬が処方されると、今度はその副作用で睡眠に影響が出る場合もあります。安易に強い薬を使うべきではなく、案外大事なのがブルーライトとの関わり方など普段の生活を見直すこと。病気の症状なのか、それ以外の背景が原因の睡眠障害なのかをきちんと区別した上で色々な薬がある、というのが私の考えです」

酷使した脳をログオフするために

特に仕事が忙しい現役世代が注意したいのが、休日に寝すぎてしまうなどのソーシャル・ジェットラグ(社会的時差ボケ)だ。今年のGWは過去最長の10連休となり、それにともなって5月病の話題も例年以上に目立ったが、連休に限らず普段の休日の過ごし方にも注意が必要だという。

「日々忙しく働く現代人は、いわばパソコンのウィンドウがたくさん開いたような状態で横になり、寝ようとしているんです。そして、平日のストレスはシワ寄せとして休日に現れがち。酷使した脳を空っぽにして本当の意味でログオフする、強制リセットをかけるためには有酸素運動が効果的です」

思い当たる節がありすぎて耳が痛いが、一方で「ブルーライトに気をつけよう」「運動しよう」と言われても、スマホなしでは仕事もプライベートもままならない上に、なかなか運動する時間をつくれないといった現実もある。などとゴネる筆者を諭すように、白濱氏は続けてこう話す。

「例えば、旅行とかで温泉旅館に行って2泊くらい規則正しい生活をすると心身がスッキリしますよね。そういう人間の原点のような生活をまず自分なりに把握するイメージで、日々の中でいかにそれに近い状態をつくれるかを意識してみましょう。人によっては仕事も含めて取捨選択が必要かもしれませんが、習慣を見直すだけでも十分改善するでしょう。動物としての基本の部分、食・運動・睡眠は全部つながっていて、年齢や性別、社会的背景で睡眠の何が問題なのかも違います。僕は交通事故の居眠り運転などの鑑定もしますが、そういう最悪のケースさえ避けてもらいさえすれば、あまり理想の睡眠論のようなものに振り回されすぎないほうがいいと思います」