より良い睡眠をサポートする最強メニューは?

負のループがあるということは、正のループに入っていくこともできるということ。そのためには、忙しい中でも「これならできる」と思える方法を実践していくことが大切なようである。

先述したように、より良い睡眠には「食」という観点も大切で、日々の食事のタイミングや食材の組み合わせがポイントとなる。特に大切なのが、睡眠を促すホルモン物質の原料になるトリプトファンという栄養素。

結論から言うと、自炊が難しい人でも「より良い睡眠のための食事」を実践するには“みそ汁”がオススメのメニューなのだ。

「みそ汁はとても現実的で理にかなった食事です。脳内ホルモンにも材料があって、睡眠を促す働きを持つメラトニンはセロトニンという神経伝達物質からつくられるのですが、セロトニンの材料となるのは必須アミノ酸のトリプトファンなんです。したがって、バランスのとれた食生活の中でトリプトファンを上手に摂取することが、セロトニンの分泌を促し、ひいてはメラトニンの分泌量を増やすことにつながります」

トリプトファンは、魚類、牛乳、豆腐・納豆・みそ・しょうゆなどの大豆食品、肉類ではレバーといった食材に多く含まれる。また、ビタミンB群はトリプトファンの機能を助けるため、一緒に摂るのが望ましい。ビタミンB群が多く含まれる食材で代表的なものは、さつまいも、豚肉、卵、バナナなど。

「朝食は、起床後に時間を空けずに摂ると、脳と身体がうまく連動して快適な1日につながります。臓器が働いている消化中は交感神経が活発になり、寝付きや睡眠の質が悪くなるので、夕食に消化の悪いものや糖質を摂取するのはなるべく控えましょう。加えて、夕食は就寝の4時間前に摂るのが望ましいです」

また、みそ汁の温かさもポイントとなるとのこと。

「人間は眠くなると手足が温かくなりますが、これは“深部体温”という内臓など身体の深い部分の熱が四肢から抜けていっているから。大脳や腸の温度が下がっていく過程が眠気を誘発するんです。生理的なリズムでは夕方、あるいは19時くらいから2時間ほどかけて下がっていきますが、21時くらいに布団に入れるかというと多くの人は難しい。深部体温を温かい食べ物で一度温めてあげて、そこから自然と下がるように調整してあげるのが大切です」

温かい食べ物はリラックス効果や満腹感をもたらしやすいといった効果も期待できる。ゆっくりお風呂に入るのが難しい人でも、朝食や夕食にみそ汁を取り入れるくらいの工夫はできるのではないだろうか。

朝と夜の「おやすみそ汁」レシピ

こうした知識を踏まえ、ここからは具体的なレシピを提案していく。今回紹介する睡眠お助けみそ汁「おやすみそ汁」のレシピを考案したのは、医師であり料理家・キッズ食育マスタートレーナーとしても活動する河埜玲子氏。時間がない朝晩にも手軽につくれるみそ汁は、忙しい現代人の強い味方になってくれるに違いない。

  • 河埜玲子 医師・料理家・キッズ食育マスタートレーナー。Nadia Artist。7歳の娘を持つ医師。滋賀医科大学医学部卒業。現在は済生会松坂総合病院にて麻酔科・健診科に勤務。今まさに子育て中である自身の経験から、働くママを応援するため料理家として活動をスタート。身近な食材を使った簡単・時短レシピを提案している。ブログや著書『忙しい人のための“一品で”栄養バランスが取れるレシピ―女性医師が教える体と心が喜ぶ食事』(SBクリエイティブ)などでレシピを紹介

【豚ごぼうの豆乳みそ汁】
朝の「おやすみそ汁」として紹介するのは、「豚ごぼうの豆乳みそ汁」。材料と調理法は以下のとおり。

●材料(4人前)
・豚こま切れ肉…100g
・ごぼう…1本(100g)
・アスパラガス…5本
・みそ…大さじ2
・豆乳(無調整)…300cc
■調味料A
・水…300cc
・ほんだし…小さじ山盛り1

●調理法(約15分)
1.豚こま切れ肉は食べやすい大きさに切る。ごぼうは縦半分に切ってから斜め薄切りに、アスパラガスは下半分をピーラーで皮をむき、斜め切りで3~4等分にする。

2.鍋に「調味料A」とごぼう、豚肉を入れて中火にかけ、沸騰後あくを取りながら中火で3~4分煮る。

3.アスパラガスを入れて1~2分煮る。みそを溶き入れ、豆乳を加えて沸騰直前まで温める(豆乳を入れた後は、ぐらぐら沸騰させると分離するので、沸騰直前で火を止める)。

  • 朝にオススメの「豚ごぼうの豆乳みそ汁」

豆乳にはトリプトファンが含まれており、豚肉にはトリプトファンを効率よく働かせるビタミンB6も含まれている。トリプトファンがより良質な睡眠につながる成分へと生成されるまでには一定時間経過したほうが良いとされるため、トリプトファンを含んだみそ汁は朝食にとるのが効率的だという。また、豆乳は糖質が少ないため、血糖値の乱高下を引き起こして眠れなくなる心配もない。

【ツナじゃがほうれん草のみそ汁】
続いて、夜の「おやすみそ汁」として紹介するのは、「ツナじゃがほうれん草のみそ汁」。材料と調理法は以下のとおり。

●材料(4人前)
・ツナ缶…小1缶(90g)
・じゃがいも…1個(200g)
・ほうれん草…1/4束(50g)
・みそ…大さじ2
・ピザ用チーズ…20g
■調味料A
・水…600cc
・ほんだし…小さじ山盛り1

●調理法(約7分)
1.じゃがいもは皮をむいて、暑さ1.5cmのいちょう切り、ほうれん草は根を切り取って、長さ3cmのざく切りにする。ツナ缶は油を切る。

2.鍋に「調味料A」とじゃがいもを入れて中火にかけ、沸騰後ふたをして中火で6分煮る。じゃがいもに火が通ったら、ほうれん草とツナ缶を加えてさっと煮る。

3.ほうれん草にも火が通ったら、みそを溶き入れる。器に盛り付け、ピザ用チーズをのせる。

  • 夜にオススメの「ツナじゃがほうれん草のみそ汁」

ほうれん草、じゃがいも、ツナにはトリプトファンが含まれている。さらに、ほうれん草は目の網膜に存在するルテインを含み、ブルーライトや紫外線の有害な刺激を吸収してくれる。マグロにはトリプトファンの働きを助ける成分も含まれているとのこと。じゃがいもには、アミノ酸の一種で脳の働きを抑える効能があるGABAが多く含まれているので、特に夜にとるのが望ましいという。

今回紹介したように、睡眠と食事には深い関係がある。そして、より良い睡眠を実現するために食事の面でおさえておくべきポイントは、「食事をとるタイミング」と「食材の組み合わせ」だ。睡眠に満足感が得られていないという人は、本稿を参考に日々の食事についても見直してみよう。その上で、缶詰や冷凍食品を活用するなど、まずは自分なりに行動に移しやすい方法を探ってみてはいかがだろうか。