――今回の作品に参加して、やはり阪神・淡路大震災への印象の変化はあったのでしょうか?

東日本大震災を東京で感じたときに僕は屋外にいて、建物や電柱や車がバウンドしたり、柳のように揺れたりしていたものの、何かが崩れて壊れるという経験はありませんでした。ただ、今回の芝居場では、高架の下で復旧作業中に余震が起きるというシーンがあって、いつそこで命が途絶えてもおかしくないという状況に身を置いて知ると、やはり尋常ではない恐怖心があり、それは事前にイメージしていたものよりも大きかったですね。

  • 桂文枝(左)と井浦新

――キャストの中には、桂文枝さんや小市慢太郎さんなど、実際に震災を経験した方もいらっしゃいますよね。

はい。なので、現場では「あのとき自分はこうだった」という話に、自然となっていくんです。それを聞いていると、同じ時間に起こったことなんですが、1人1人が場所も状況も別々で、感じたことがみんな違うんですよね。そのそれぞれの生の声というのは、身内の方の話もあったりしますし、とても強く心をえぐってくるものがあります。そんな話を聞いたり、今回の芝居を経験しても、実際には当時の震災を経験しているわけではないですから、自分がどこまで感じ取れたのかは分かりませんが、震災の恐ろしさや、そこから生まれる悲しみというのは、戦争に似ているのではないかと思ったんです。良いことが1つも生まれない、ただただ人も何もかも壊れていくだけ。でもそんな中で、“人間の生命力の強さ”というのを感じることができたんです。

――震災への印象だけでなく、人間観にも変化があったんですね。

地震を通して一番強く感じることができたのは、そこかもしれないですね。もちろん怖いですし悲しいですけど、さきほど話した岡本さんの行動にもつながりますが、そこで止まっていちゃいけない。それでも夜になって朝になって、残酷なまでに止まらずに繰り返されていく日々がある中で、人間はやっぱり這いつくばってでも生きていくものなんだなと思ったんです。それが分かったときに、僕が撮影前に見た六甲道駅の光景が、ものすごく響いてきました。駅舎が倒壊した状態を芝居場を通して見たときに、普通の日常にある今の六甲道駅が、本当に輝いて見えたんです。会社に行く人、学校に行く人、生活する人…その当たり前の姿のために、どれだけの人たちがそこで踏ん張ってきたのかと考えると、人間って弱いけれど、どうにか生きようともがきながら、生命感にあふれた生き物なんだということを、この作品を通して強く感じました。

■相次ぐ周年ドラマで阪神大震災を取り上げる意味

――井浦さんは、フジテレビ開局60周年のスペシャルドラマ『レ・ミゼラブル 終わりなき旅路』(1月6日放送)でも主演をされましたね。撮影は『BRIDGE』が先だったということですが、『レ・ミゼラブル』でも阪神・淡路大震災に運命を翻弄(ほんろう)される役を演じるにあたって、『BRIDGE』の経験が生きた部分はありましたか?

僕は、この2つの作品に出演することができて、ラッキーだなと思いました。『レ・ミゼラブル』で阪神・淡路大震災の時代を演じたのは若い役者さんだったんですけど、その時代のイメージを体の中に入れた状態で大人になった人物を演じることができましたから。一時期は、神戸ばっかり行ってましたけど(笑)

――フジ、カンテレ60周年の記念ドラマにいずれも主演され、かつ阪神・淡路大震災を1つのテーマに据えている作品ということで、運命的なものも感じるのではないでしょうか?

そう言えたらきれいですが、大げさですね(笑)。それよりも、なぜ今回関わらせてもらった2つのドラマに阪神・淡路大震災があるのかと考えると、やはり平成が終わるという時代の変わり目に何かを残すべくして作られた作品だからだと思うんですよね。平成という時代を表したものを残すということになったときに、やはり阪神・淡路大震災というものが、絶対に向き合わなければならない、大きな出来事だったのだと感じました。

――いろいろお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。最後に、あらためまして『BRIDGE』の見どころを伺えればと思います。

この作品は、もちろん阪神・淡路大震災という出来事が題材ではあるんですけど、その地震によって翻弄されながら、それでも生きていこうとするさまざまな人間の姿が、一番大きなテーマでもあるんですね。くじけそうになるけれど、それでも出てくる人物たちはみんなそれぞれのペースで一歩ずつ前進しようとするんです。

なので、震災を実際に体験した方たちから見ると、いろんなことを思い起こすことになって、つらい部分もあるかもしれないですが、この作品が、過去と今をしっかりつないで、今を生きるすべての人たちにとっての未来に向けての応援歌になるといいなと思っております。人間って、こんなつらい状況下でも楽しもうとして生きるんだと感じられるシーンもあるので、眉間にシワを寄せず、素直に楽しんで見てもらえたらと思います。

井浦新
1974年生まれ、東京都出身。映画『ワンダフルライフ』(98年)で映画初主演。その後『ピンポン』(02年)で注目を浴び、テレビドラマでは『チェイス~国税査察官~」(10年、NHK)、『リッチマン、プアウーマン』(12年、フジ)、『アンナチュラル』(18年、TBS)などに出演。19年は、フジテレビ開局60周年特別企画スペシャルドラマ『レ・ミゼラブル 終わりなき旅路』、カンテレ開局60周年特別ドラマ『BRIDGE はじまりは1995.1.17神戸』で、それぞれ主演。今後も『こはく』『嵐電』『赤い雪 RedSnow』など映画作品への出演が控える。