科学によってスポーツの才能を開花させる子ども専用施設「アローズジム&ラボ ららぽーと豊洲校」が1月5日、開校した。「未来の五輪選手を科学の力で育成する」ことを目標に掲げる同施設には、どのような秘密が隠されているのか。詳細をレポートする。

  • 子ども専用施設「アローズジム&ラボ ららぽーと豊洲校」

    子ども専用施設「アローズジム&ラボ ららぽーと豊洲校」

アローズジムは日本スポーツ科学が運営しており、既に静岡県で6校、神奈川県で1校で展開している。東京進出は初となり、今回開校したららぽーと豊洲校が東京の旗艦校となる。

子どものうちから科学的根拠のある育成を

同施設は小学生、中学生の運動能力を科学的アプローチから改善していく「アローズジム」と、スポーツ科学の研究者がプロ選手も使用する専用設備で子どもの運動能力を詳しく評価する「スポーツラボ」から成っている。このように子どもの才能を開花させ、将来のプロ選手や五輪選手を育成することまで想定した施設は、民間では初めてとのこと。

  • 日本スポーツ科学の山下典秀代表取締役

    日本スポーツ科学の山下典秀代表取締役

日本スポーツ科学の山下典秀代表取締役は「スポーツトレーナーを育てたいという思いから始まり、スポーツ科学と出合ってから『子どものうちから科学的にトレーニングをしなければならない』という気持ちで8年前にアローズジムを開校しました。東京オリンピックを目前にした今、やっと東京に旗艦校を開校することができました」と開校のよろこびをあいさつした。

  • 主たるターゲットは小学生

    主たるターゲットは小学生

アローズジムの会員の約8割は小学生だ。動体視力などを鍛える「見る」、体を自在に動かせるようにする「動く」、持久力アップを目指した「走る」、低酸素トレーニングによりさらに効果的にアプローチする「もっと走る」の4領域のトレーニングで子どもの運動能力を向上させていくという。

  • 「見る」「動く」「走る」「もっと走る」の4つの能力の育成で子どもたちの身体能力向上を狙う

    「見る」「動く」「走る」「もっと走る」の4つの能力の育成で子どもたちの身体能力向上を狙う

また、ラボでのスポーツドックにより現在の能力を詳しく分析し、その結果に基づいたトレーニングを実践することで苦手の克服や競技レベルの向上を見込んでいる。

これらの取り組みはスポーツ庁の「スポーツ推進アクションガイド」でも紹介されており、各方面から注目を集めている。実際にジュビロ磐田をはじめプロ選手のサポートにも利用されているという。

鹿屋体育大学の前学長でもあるスポーツラボの福永哲夫所長は「子どもの体格はよくなっているが、体力や運動能力については低くなっている。ただしフィギュアスケートなど、日本がスポーツにおいて活躍できていないわけではない。平均を取ると低くなっているが、二極化が進んでいると考えられる」と、現状の子どもの体育能力について解説した。

近年では、テレビゲームなどの普及や習い事の多様化、子どもを狙った犯罪の懸念などから外で遊ぶ時間が少なくなり、子どもが体を動かす時間は減ってしまっている。そのため、少ない運動時間で効率よく運動能力を向上させることが大切だと福永所長は話した。

  • 暦による年齢と骨年齢では個人差がある

    暦による年齢と骨年齢では個人差がある

その際、実際の暦年齢ではなく、発育の成熟を見てその成熟にあったトレーニングを実施することが重要で、その成熟具合は骨年齢で判断していく。例えば、同じ13歳であっても骨年齢は11歳から15歳と4歳もの差が発生する。運動能力が伸びやすい「ゴールデンエイジ」が実年齢と同じかどうかは、骨年齢などを分析しないとわかりにくいもの。その差を考慮し、骨年齢にあったトレーニングを実施できる点が同施設の強みとなる。

  • 成長に合わせたトレーニングを実施することが重要となる

    成長に合わせたトレーニングを実施することが重要となる

ラボの分析でトレーニングをより効果的に

同施設の中塚英弥塾長は「トレーニングだけでなく、基礎体力や運動能力をプロも使用する測定器でデータを取ってトレーニングに活用していきます。その測定結果に基づいた分析では、50m走の推定タイムをかなり高い精度で算出することができる」と施設設備について説明した。

  • 中塚英弥塾長

    中塚英弥塾長

  • 連続ジャンプ、立ち幅跳び、ステッピングの測定結果からかなり高い精度で50m走のタイムを予測できる
  • 連続ジャンプ、立ち幅跳び、ステッピングの測定結果からかなり高い精度で50m走のタイムを予測できる
  • 連続ジャンプ、立ち幅跳び、ステッピングの測定結果からかなり高い精度で50m走のタイムを予測できる

  • さらに、どの能力を伸ばせば50m走のタイムが伸びるかもわかるとのこと

    さらに、どの能力を伸ばせば50m走のタイムが伸びるかもわかるとのこと

今の自分は、足を速くするために何が足りないのかがわかる――。足が遅いことをコンプレックスにしている子どもにとっては、まさに夢のような話だ。そのようなことを現実的に可能にしようとしている同施設だけに、利用できるマシンも最新鋭のものがズラリ。

全身持久力測定、筋力測定、スポーツビジョン・身体組成測定、スプリント測定ができるラボ施設や、動体視力を鍛えられるスポーツビジョントレーニング機器、さらにはマスクを着用して機器による低酸素環境を作ることができる低酸素トレーニングマシンなど、その種類も豊富だ。

  • 「アローズジム&ラボ ららぽーと豊洲校」の設備
  • 「アローズジム&ラボ ららぽーと豊洲校」の設備
  • 「アローズジム&ラボ ららぽーと豊洲校」の設備
  • 「アローズジム&ラボ ららぽーと豊洲校」の設備

低酸素トレーニングでは、吐いた息や心拍をモニタリングすればトレーニングの精度をより高められる。

  • 低酸素トレーニングも体験可能

    低酸素トレーニングも体験可能

  • 動体視力を鍛えるマシンなどで理論に基づいたトレーニングを行える

    動体視力を鍛えるマシンなどで理論に基づいたトレーニングを行える

スポーツクリエイターの栄枝慶樹氏は「トップアスリートのキャリアコンサルティングをする中で、プロになってから心技体をひたすらに頑張ることはもはや当たり前」と指摘。

そのうえで、「心技体を超えて用具や環境を整えることなど、さまざまなカテゴリにおいてビジョンと根拠をもって取り組まないとアスリートとしての成功が難しい」と、精神論でなく、根拠のあるトレーニングがプロの世界で生きていくために不可欠だと話した。

  • スポーツクリエイターの栄枝慶樹氏

    スポーツクリエイターの栄枝慶樹氏

今後、アローズジム&ラボは関東圏を中心に新規開校を進めていくという。子どもの運動神経を良くしたいと考えていたり、オリンピアンになることを夢見ている子どもをもっていたりする親は、注目してみる価値はありそうだ。