俳優の小栗旬が、テレビ東京開局55周年特別企画ドラマスペシャル『二つの祖国』(2019年3月30日、31日放送予定)に主演し、ムロツヨシと共演することがわかった。

  • 左から小栗旬、ムロツヨシ

同作は、山崎豊子の同名小説を実写化。共に日系二世でUCLA の同級生でありながら、「日本人であること」に正反対の考えを持つ天羽賢治(小栗)とチャーリー田宮(ムロ)。鹿児島出身の両親を持ち日本で教育を受けた賢治は、アメリカ人であると同時に日本人であることに誇りを持っていた。一方、幼いころに強盗に父を殺されるなど苦労を重ねてきたチャーリーは、アメリカで成功するため日本人であることを捨て去ろうとしていた。太平洋戦争が始まり、賢治ら二世はアメリカか日本か、どちらの国に忠誠を誓うか、「二つの祖国」の狭間で選択を迫られることになる。

数々の作品で共演を果たしてきた2人が、これまでとは全く違うシリアスで微妙な人間関係を演じる。小栗は、プライベートでも親交のあるムロについて「売れっ子ですから胸を借りるような気持ちでいようと思います。どんなに仲の良い人でも敵対する役をやることはありますし。相手を刺激したい、発破をかけたい、という気持ちがお互いにあります」と心境を吐露。

さらに「自分の父親が山崎豊子さんの作品が大好きなんですが、チャーリーをムロくんがやるといったら『全然違う!』と(笑)。『あの役は茶化さないでね』といっていました。チャニング・テイタムくらいを想像していたんじゃないでしょうか(笑)」と役とのギャップを明かす。しかし「チャーリーをみると生い立ちを含めてムロくんとどこかリンクするところがあるので。初めて『二つの祖国』を読んだ時からチャーリーをムロくんがやったらおもしろいのにと思っていました。昔から語り合ってきた友人という点や上をめざしているという点もムロ君は昔は本当にそういう所が如実にでてる人だったり。それも含めチャーリーと繋がるところがあると感じていました。本人にもチャーリーとシンパシーを感じる部分もあります」と共通点を分析した。

同局でのドラマには初主演となるが、「プロデューサーの田淵(俊彦)さんからとてつもない数の手紙を頂きそれに心を動かされました。出演が決まった後に頂いたのと合わせると全部で15通くらい。こんなに手紙を同じ人から頂いたのは初めてです。とても熱い思いが伝わってお引き受けしました」と熱心に口説かれた様子。一方のムロも「お話をいただいた時、生半可な気持ちではやってはいけないと思いました。今のムロツヨシという役者がやっていいのか、じっくり考えたうえで決断しました」と、出演には決意があったという。

知り合って15年になるという僕と小栗について、ムロは「出会ったころはポジションとか周りの環境が違いましたが、同じお酒を飲みながらよく話していました。そういった今までの僕らの関係性などを、芝居を通してぶつけられたらいいなと思います」と語った。

さらに「この役を演じるにあたって、主演の小栗君から『ムロさんなりにやってほしい』と言ってもらいました。小栗君演じる天羽賢治は自分の筋を通して生きていく人間ですが、僕が演じるチャーリー田宮は、筋とか思想とか関係なく、この国でいかに勝ち残るかを考えている人間です」と説明し、「実は、僕とチャーリーは似ている所があるんですよ。僕は世間の皆様からしたら何者でもない時に、『小栗旬の友人です』と言っていたんです。これは、傍から見れば人を利用するようなことだったと思うんですけど、僕はそれを厭わなかったんですよ」と振り返る。「僕自身も勝ち残るために自分を変えてでもやってきた所はなきにしもあらずなので、その辺はすごく役として意識しています」と役作りについて明かした。

また、「皆さんが持っている喜劇寄りのムロツヨシのイメージではないムロツヨシをお見せする機会が持てましたので、どうか今回ばかりは笑わない準備をして、役者・ムロツヨシを見ていただきたいと思います」と意気込むムロ。「そして、小栗旬君を筆頭に、素敵な役者さんたちのお芝居を山崎豊子さんの世界で楽しんでいただけたらと思います」とメッセージを送った。

田淵俊彦プロデューサー コメント

沖縄基地存続、憲法9 条を巡る護国、北方領土返還……様々な問題の論争を聞くに連れ、「果たして日本は敗戦から本当に立ち直ったのか」「本当の意味での戦争は終わっていないのではないか」と感じさせられてきた。オリンピックを1年後に控え、大阪万博開催が決定するなど、ナショナリズムを掻き立てられるトピックが世間を賑やかせ、その一方で「昭和・平成」という一つの時代が終わろうとする今だからこそ、私たち日本人は自らのアイデンティティを見つめ直すべきなのではないか。そうしないと日本は未来へは進んでゆけない。そう考え、35年間ドラマ化されることが無かった「映像化が困難」と言われるこの原作を敢えて選び、3年前から脚本化を進めてきた。

そんな思いを託すのは誰なのかと考えた。私の頭の中に、一人の俳優の名前が浮かんだ。小栗旬……小栗さんは私にとって、常に「時代のオピニオンリーダー的存在」だった。流行りの先端を走りながら、浮ついていない。コミカルな役は思い切り振り切り、シリアスな役はとことん作り込むといったように、演技表現に対して妥協しないし、決してブレない。そういった「徹底主義」を貫いているところに注目していた。今回のようなテーマを演じ切るのには、小栗さんが取り続けている作品に対する「半端ない覚悟」というスタンスが必要不可欠だと思った。小栗さんを口説くこと半年。対話に対話を重ねることで、小栗さんはこの企画の意義やドラマの意味に心から賛同し、作品への参加を約束してくれた。

小栗さん演じる主人公の天羽賢治とライバルとなるチャーリー田宮。このクールでダンディな役を演じるのは、世間から見たイメージが全く異なる俳優さんがいいと思っていた。それでいて演技力が光っているムロツヨシ……「笑い」を封印したムロさんがどんな風になるのかという興味もあった。そんな思いを告げたところ、ムロさんは「チャーリー田 宮を真正面から生きてみる」という素晴らしい決意の言葉と共に、出演を承諾してくれた。

近年は二人でコミカルな作品や演技に取り組むことが多い、小栗さんとムロさん。この二人の「ガチ芝居」を見てみたいという気持ちも強かった。真剣勝負の二人の演技で、ステレオタイプのイメージを引きずっている視聴者を"いい意味で"裏切ってみたかった。その狙いが間違いでなかったことを実感した出来事が、二人のシーンの撮影初日にあった。「小栗旬より先に準備をする」と早めにスタジオ入りしたムロさん。その後に、小栗さんがスタジオに入ってきてその場の空気が変わった。大の仲良しであるはずの小栗さんとムロさんだが、そこにはそんな雰囲気は微塵もなかった。私は、「ああ、もう勝負は始まっている」と感じた。二人は阿吽の呼吸で、微妙な緊張感を既に創り出していたのだった。私は、この瞬間に作品の成功を確信した。