幻想的な夜の彫刻の森、参加型イベントの一面も

彫刻の森美術館は、自然豊かな庭園に約120点の彫刻作品を展示する野外美術館だ。屋外展示が中心だけに、どうしても冬場の集客が弱かったが、なにかできることをやってみようということで、光のアーティスト、高橋匡太(きょうた)氏がプロデュースするライトアップイベント「箱根ナイトミュージアム」を昨年から開始した。

入館者は受付でLEDライトが入った提灯を受け取り、庭園を歩く。4エリアの38作品がライトアップの対象となっており、スポットライトが当たる主役の彫刻が入れ替わり、色も変化する光の演出を楽しむことができる。提灯の色も出会う彫刻や風景のライトアップに呼応するように変化し、庭園を歩く人々の動きも夜景の一部になる、参加型イベントであることも面白いポイントだ。

  • 彫刻の森美術館の「箱根ナイトミュージアム」。色とりどりにライトアップされ、幻想的な夜の世界を楽しめる

  • 照明器具をLANケーブルでつなぐことにより、エリア単位でのライトアップ演出が可能になったことが昨年との大きな違いだという。提灯はエリア内を飛ぶ電波をキャッチし、色が変化する

同美術館の運営主任、福間光宣氏は、「ライトアップというと、電飾何十万球というように規模で勝負するところが多いのですが、当館はまったく異なるアプローチ。いかに彫刻がきれいに見えるかが勝負ですが、照明により陰影が際立つので、笑った顔が怒った顔に見えてしまうことなどもありえます」と、彫刻のライトアップの難しさを語る。

じつはこの難しさこそ、高橋匡太氏とコラボした理由であるという。広報主任の辻井有里氏によれば、「高橋さんは京都市立芸術大学大学院で彫刻を専攻されるなど、彫刻のキャリアを積まれた後、光のアーティストになられた方。彫刻に対する理解が深く、作者や作品をリスペクトし、シンプルながら作品の良さを際立たせる演出をしてくださるので、信頼してライトアップをお願いできます」とのことだ。

ナイトミュージアムは16時45分から18時まで。昼間のうちに入館し、そのまま館内にとどまることも可能なので、昼と夜、それぞれで異なる作品の表情を見比べてみるのもおすすめだ。

彫刻の森美術館のイベントインフォメーション
「箱根ナイトミュージアム」
開催期間 2018年12月1日~2019年1月6日
開館時間 ライトアップは16:45~18:00(入館は17:30まで。提灯貸出は17:40まで)
休館日 無休

海賊船を撮影するなら少し離れた場所で

ここまで美術館のイベントを見てきたが、芦ノ湖を運航する「箱根海賊船」(箱根観光船)や「箱根 芦ノ湖遊覧船」(伊豆箱根鉄道)のライトアップもぜひ見ておきたいところだ。「箱根 芦ノ湖遊覧船」は12月23日、「箱根海賊船」は12月24日にライトアップの実施を予定している。

今回は「箱根海賊船」のライトアップを取材した。海賊船は「ロワイヤルII」「ビクトリー」「バーサ」の3隻が就航しているが、冬季は交代でドック入りして点検を行う関係で、点検中の「ロワイヤルII」を除く2隻が箱根町港での停泊中にライトアップされる。

  • 箱根町港で行われる海賊船のライトアップ(写真提供 : 箱根観光船)

箱根観光船営業推進部の荒川大輔氏は、海賊船のライトアップを撮影するコツについて、「ライトアップを撮影するなら、桟橋の近くよりも、少し離れた場所のほうが、2隻をきれいに収めることができます」と教えてくれた。

なお、今年9月に起工式が行われた新しい海賊船の情報が気になるので確認したところ、来年2月4日に命名式も兼ねて進水式を行うという。船のデザインに関して、「いままでの船はフランス、イギリス、スウェーデンなどに実在するモデルシップを参考にしながらデザインしてきました。今回はデザイナーが1からデザインした、完全オリジナルデザインの海賊船になることが大きな特徴です」と荒川氏。いまから楽しみだ。

箱根海賊船のイベントインフォメーション
海賊船ライトアップ
実施日 2018年12月1・8・15・24日
実施時間 17:00~18:00
  • 12月24・25日に開催される「クリスマス トワイライト花火」。日暮れ前の空に、富士山や周囲の山々を背景に花火が打ち上がる(写真提供 : 箱根プロモーションフォーラム)

「すてきな灯り」イベントでは、ここまで紹介した他にも「星の王子さまミュージアム」(プロジェクションマッピング)、「箱根 駒ヶ岳ロープウェイ」(星空鑑賞ツアー)、「箱根 十国峠ケーブルカー」(トワイライト運行)、芦ノ湖テラスのイタリアンレストラン「ラ・テラッツァ芦ノ湖」(イルミネーション)、「ポーラ美術館」(ガラス工芸名作選)、「箱根芦ノ湖 成川美術館」(ティーラウンジ ライトアップ)が参加している。12月24・25日の2夜連続で「クリスマス トワイライト花火」(17時15~30分)も開催される。

これまで、箱根の夜といえば温泉に浸かって宿でのんびり……というのが定番だったかもしれない。しかし、今回紹介したように箱根は美術館も充実しており、海賊船・遊覧船やロープウェイといった乗り物も魅力的。これらの施設等で、冬の夜にこれだけ充実したイベントが用意されたなら、日暮れ後までもう少しアクティブに動いてみようではないか。

なお、箱根から新宿駅まで小田急線経由で帰る場合、土日祝日の箱根湯本駅からの最終列車は同駅22時45分発(小田原駅で小田急線急行に乗換え)となっている。

筆者プロフィール: 森川 孝郎(もりかわ たかお)

慶應義塾大学卒。IT企業に勤務し、政府系システムの開発等に携わった後、コラムニストに転身し、メディアへ旅行・観光、地域経済の動向などに関する記事を寄稿している。現在、大磯町観光協会理事、鎌倉ペンクラブ会員、温泉ソムリエ、オールアバウト公式国内旅行ガイド。テレビ、ラジオにも多数出演。鎌倉の観光情報は、自身で運営する「鎌倉紀行」で更新。