現在、テレビ朝日系で好評放送中の『仮面ライダージオウ』(2018年)では、『仮面ライダークウガ』(2000年)から『仮面ライダービルド』(2017年)まで、19の「平成仮面ライダー」が存在する"時代"をめぐる高校生・常磐ソウゴ(演:奥野壮)の物語が描かれている。50年後の未来で「最低最悪の魔王」と恐れられる存在になるという運命を知らされたソウゴだが、運命に逆らって「最高最善の王」になるべく、ジクウドライバーを用いて「時の王」こと仮面ライダージオウに変身した。しかし、歴史の改変を目論むタイムジャッカーはソウゴとは別の「時の王」を擁立するべく、さまざまな時代に飛んで「アナザーライダー」を生み出そうとする。果たして、ソウゴは自身が目指すとおりの「王様」になることができるのだろうか……。

2018年12月22日(土)より公開される映画『平成仮面ライダー20作記念 仮面ライダー平成ジェネレーションズ FOREVER』(監督:山口恭平)を記念して、平成仮面ライダーシリーズをふりかえる企画の第11回は『仮面ライダーW(ダブル)』を取り上げる。平成仮面ライダーシリーズの流れを受け継ぎつつ、仮面ライダーの「原点回帰」と「革新」を同時に試みた意欲的な作品として根強いファンを持つ、本作の魅力を解説してみたい。

『仮面ライダーW(ダブル)』は2009(平成21)年9月6日から2010(平成22)年8月29日まで、テレビ朝日系で全49話を放送した連続テレビドラマで、前作『仮面ライダーディケイド』(2009年)に続く「平成仮面ライダー10周年プロジェクト」のひとつとして企画された作品である。

『仮面ライダーディケイド』では、クウガからキバまでの歴代「平成仮面ライダー」の魅力を見つめ直すべく、さまざまな「仮面ライダーの世界」をめぐる仮面ライダーディケイド/門矢士(演:井上正大)の"旅"が描かれた。2009年8月8日には『劇場版 仮面ライダーディケイド オールライダー対大ショッカー』と題された映画が公開され、ここでは平成仮面ライダー9人だけでなく、第1作『仮面ライダー』(1971年)から映画『仮面ライダーJ』(1994年)までに登場したすべての仮面ライダーが結集し、盛りだくさんなキャラクター映画として好評を博した。

オールライダー総登場の「お祭り」映画ならではの趣向として、まだテレビ放送が始まる前の仮面ライダーWがいち早く映画のスクリーン上で初披露されたことも、大いに話題を集めた。劇中では、強敵シャドームーンの猛攻に苦戦する仮面ライダーディケイドと仮面ライダークウガの前に、さっそうとバイクに乗ってWが救援にかけつけるというビジュアルが作られた。

その際、Wはディケイドたちとシャドームーンが対峙しているところに割って入ったかたちになったため、ディケイド側からは「緑のライダー」、シャドームーン側からは「黒のライダー」と認識された。この短いシークエンスは「頭からつま先まで半分ずつ分かれたボディカラー」という仮面ライダーW最大の特徴を的確に示す、最高の演出となっている。

また『ディケイド』で平成仮面ライダーシリーズが10作という節目を迎えたことにより、テレビ放送開始時期の大幅な調整が行なわれた。これまでの仮面ライダーシリーズは1月開始だったが、秋(9月)開始にすることにより、商品展開の動きや新番組としての話題提供の時期をずらそうという試みがなされたのである。『ディケイド』が全31話と通常のシリーズより放送話数が短いのは、この「改革」を実行するための措置であった。歴代平成仮面ライダーの世界をつなげる役割を果たした『ディケイド』だが、これに続く平成仮面ライダーの新展開においても、見事な橋渡し役をなしとげたことになる。

放送開始が"秋"になってから初めてのシリーズとなる『仮面ライダーW』では、歴代仮面ライダーが登場する派手な内容の『ディケイド』との差別化を図るべく、全体的なシルエットはオーソドックスな仮面ライダー像を目指しているように見える。その上で「左右非対称のボディカラーを持つ仮面ライダー」「"2人で1人"の仮面ライダー」といった、それまでになかった斬新な要素が盛り込まれている。仮面ライダー1号から仮面ライダーZXまでの、初期仮面ライダーシリーズでは定番ファッションだった「マフラー」を、平成仮面ライダーシリーズとして初めてデザインに取り入れているのも、目新しさを呼ぶ一因となっている。

『仮面ライダーW』の舞台は、いたるところに風車が備えられ、いつも気持ちの良い"風"が吹いている架空の都市「風都」。この街では、近ごろ「ドーパント」と呼ばれる怪物が巻き起こす凶悪な事件が頻発していた。人々の間で密かに流通している「ガイアメモリ」という小型端末がドーパントを生み出す要因なのだが、その手がかりは警察でもまだつかめていない。

風都とそこに住む人々を愛する私立探偵・左翔太郎(演:桐山漣)と、彼の"相棒"であり「地球(ほし)の本棚」と呼ばれる膨大な知識情報にアクセスすることのできる魔少年フィリップ(演:菅田将暉)は、それぞれのガイアメモリを変身ベルト「ダブルドライバー」に装填し、2人で1人の仮面ライダーWに変身する能力を備えている。Wはさまざまな特殊能力を駆使してドーパントと戦い、風都の平和を守るヒーローとして活躍する。ドーパントに向かって放つ、「さあ、お前の罪を数えろ」というのがWの決めゼリフである。

本作の企画は、まず「探偵」の仮面ライダーを作ろうというところから始められたという。探偵はスマートに情報収集を行う必要があるとの発想から、USBメモリをモチーフにしたガイアメモリが設定された。いわゆる「怪人」にあたるドーパントがガイアメモリを使って変身した存在であるというのは、「仮面ライダーはもともと、悪の組織が生み出したテクノロジーを正義のために用いるヒーロー」といった考えから作り上げられた設定であった。

左翔太郎とフィリップが通常持っているガイアメモリは6種(翔太郎がジョーカー、メタル、トリガーの3種、フィリップがサイクロン、ヒート、ルナの3種)。基本形態のサイクロンジョーカーをはじめ、ヒートメタル、ルナトリガーなど、3×3で9種類の組み合わせが可能で、戦闘状況に応じてさまざまな特殊能力を用いることができる。

サイクロンジョーカーへの変身シークエンスは次のとおり。まず翔太郎とフィリップそれぞれがダブルドライバーを巻き、片方ずつガイアメモリを装填。するとメモリと共にフィリップの意識が翔太郎のドライバーへと転送され、2人の意識を備えた仮面ライダーWとなる。変身した後フィリップの身体は意識のない抜けがらとなり、その場に倒れ込んでしまうのが大きな特徴である。

基本的に2つのエピソードで1つの物語が完結する前後編スタイルを採っており、毎回、翔太郎のもとに個性的な「依頼者」が訪れる導入部から、後編エピソード冒頭で示される「人物相関図」、そして翔太郎のモノローグによるクロージングなど、いわゆる探偵ドラマのフォーマットに即したスタイリッシュな作風が本作の大きな魅力となった。

翔太郎は、今は亡き"おやっさん"こと鳴海荘吉の「ハードボイルド」な生き方に心酔し、自らも「いかなる事態にも心揺れない、男の中の男」というハードボイルドを実践しようと試みているが、依頼人の境遇に同情したり、ささいなことで熱くなって判断を見誤ったりと、ハードボイルドではなく「ハーフボイルド(半熟)」と言われてしまう発展途上の青年として描かれている。

いくつかの検索ワードを手がかりにあらゆる事象を調べ上げてしまうフィリップは、翔太郎とは対照的に人間的な感情に乏しく、初期エピソードでは正反対の2人が依頼者への対応をめぐって互いに反発しあう場面も見られた。この個性的な探偵コンビに対し、大阪仕込みのスリッパによる強烈なツッコミを入れる役割を担っているのが、荘吉の娘・鳴海亜樹子(演:山本ひかる)である。彼女は亡き父の遺志を継ぐ形で「鳴海探偵事務所」の所長を買って出て、翔太郎やフィリップのサポート役を務めるようになる。