――前回のインタビューで、『NT』の位置づけを"サイコフレームという技術の句読点"とおっしゃっていましたが、今回ナラティブガンダムがシンプルになっていくという流れは、この句読点を打つことにつながっていくのでしょうか?

最終的にはそういうところにフォーカスしていくのですが、まずはシルエットですね。シルエットを今までとは逆のベクトルでやってみようというのが一番大きい。ストーリーを軸に置き、作戦に応じたシルエットや換装パーツを用意させていただいて、そのベクトルにのせてカトキハジメさんにデザインしていただいた、という流れです。

――冒頭映像を見た限りですと、主人公たちの側は鬱屈としている反面、対するゾルタン・アッカネンは明るいというか、鼻歌を歌っている姿がとても印象的でした。

そうですね。今回、ゾルタンのキャラクターについては思い切っています。『UC』の時ってなかなかやらなかったのですけれど、ゾルタンは"完全な悪"として描いているんです。『UC』のepisode 7を作った時に、フル・フロンタルを小説で描かれている"完全な悪"から少し変えてしまった。そのフラストレーションが福井さんの中にあったのかもしれません。今回作るにあたって、「ゾルタンは振り切ろう」という話になり、キャラ造形もそうなのですけれど、キャラクターの内面に関しても、今回は勧善懲悪に近いくらいの悪人として製作しています。冒頭だけだと鼻歌だけしか披露しておらず、おかしなヤツという印象しかありませんが、それ以降に関しては、全編主人公たちを食っちゃうくらい勢いのあるキャラクターになっているので、そこは注目していただきたいですね。

――企画から実際に映画が出来上がっていく過程の中で、当初とは印象が変わってきたことはありますか?

僕自身、作る過程を見ていく中で、だいぶ今までと手触りの違うものができあがっているなという実感がありました。それは、画の違いとかそういうこととはまた違うものです。「ガンダム」っていろんな要素があると思うのです。それはミリタリーの要素であったり、リアリズムの要素であったり、科学的な要素であったりするのですけれど、今回の『NT』はどちらかというと"ファンタジー寄り"に振っているところがあります。『UC』でも最後のほうは、若干そういった要素が入ってきましたけれど、この作品が今までとちょっと違うなという意識はすごくあります。

――『UC』『サンダーボルト』、そして『NT』と、小形さんが手がけられている作品は大人のファン向けに振っている印象があります。もっと新規のファンを狙ったものをやってみたいと思われることはありますか?

作りたいのですけどね(笑)。どうしても今いるサンライズ第1スタジオのメインスタッフたちが、世代が上というのもありますし、クリエイター的にもその辺りが得意な人たちがいるので。僕もまあ44歳で、そういう作品が好きという趣向が出ちゃっているのだと思います。でも「ガンダム」全般を見渡すと、『NT』を始めとする「UC NexT 0100」は柱のうちの一つで、ちゃんと『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』や『ガンダムビルドダイバーズ』のようにティーンに向けた作品も作っていきますし、その下の子どもたちに向けた「ガンダム」も今企画中ですので、そういったものも含めて「ガンダム」全体を楽しんでいただきたいですね。

――最後に、小形さんならではの映画の見どころを教えていただけますでしょうか。

本作は、主人公であるヨナと、リタ、ミシェルたちが、どんなふうに宇宙世紀を生きてきたかという話になっているのですが、その心情的な部分は、今までにない描き方ができているのではないかと思っています。先程言った、今までと違う"手触り"にもつながってくるのですけれど、このアプローチの方法としては、今までもあるにはあったんです。でも、それをより深く突き詰めていく、ということはやったことがありませんでした。

そこは純粋にアニメのクリエイターだけで作ったらこうはなっていなかっただろうなと思うのです。やっぱり、文芸出身の福井さんが入って「ガンダム」を作ったことによって、もしかしたらこういう"手触り"の作品になっているんじゃないか。「ガンダム」を好きな方はもちろん、逆に「ガンダム」をまったく知らない方のほうが見やすい映画になっているのじゃないかと思うくらい、3人の心情に寄った話になっています。その3人の目から宇宙世紀を体験していただきたいですね。

――「UC NexT 0100」の次回作として、『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』(富野由悠季氏が1989年から全3巻にわたって上梓した小説作品)が劇場版三部作で映像化されることが決定しましたが、なぜ『ハサウェイ』だったのでしょうか。

「僕が一番観たかった」というのが一番の理由なのですけれど(笑)、富野さんの小説の中で、映像化されていないものの一つ、というのがやはり大きいです。クリエイターも何かしら富野さんの匂いがあるものをやりたいという気持ちがみなさんあると思うので、そういうところが合致して、今回『ハサウェイ』を作ることになったということですね。『UC』がちょうどその前の話だったというのもあって、宇宙世紀をなぞっていくとそうなっていくという繋がりもありますから。いろんなものが合致して決定した、というところでしょうか。

――登場するΞ(クスィー) ガンダムなどのMSは、ミノフスキー・クラフトを搭載した珍しい機体ですから、それはどうやって表現されるんだろう……とか、つい気になってしまいます。

でもミノフスキー粒子は見えないものですから。その辺りもどうしようかというのは、今まさにやっているところです。

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