国をあげて推進している副業・兼業などのパラレルワーク。しかし、まだまだ副業を禁止している企業は多く、周りにも副業を相談できる人や実践者がいないのが現実だろう。
じゃあ、どうすればいいのか。やはりパラレルキャリアを実践している人の話を聞くのが一番はやい! そこで、さきごろ原宿で行われた「パラキャリ酒場」というイベントを紹介したい。
パラレルキャリアをゆるい雰囲気で考える
キャリアを考えるイベントなので、さぞやお硬い雰囲気だと思ったら、のぞいてみると、パネラーも参加者も飲みながら、談笑している。とてもゆるい雰囲気で、こういうイベントが初めての私にとっても入りやすく、居心地がいい。
パネラーのトークセッションが始まる前に、副業女性を応援する「Kilkaパラレルワーク・ウーマンアワード2018」の授賞式が行われ、受賞者を代表として ベイシズ 執行役員で、その他複数企業の役員も務めている流郷綾乃さんが挨拶した。
そして「パラキャリ酒場」のメインイベントがスタート。バラエティに富んだ分野で活躍する4名のパラレルキャリア実践者が登壇した。
最初に紹介された清水正樹さんは、エンファクトリーの副社長をしつつ、副業として複数の会社で取締役やハリネズミカフェの代表を務めている。2人目のたっさんは建設会社のIT部門で勤務しながら、土日に趣味を活かして大工、またシェアハウスオーナーとしても活躍しているそうだ。
3人目の塚原萌香さんは、保育士として働きつつ、NPO法人PIECESのコミュニティマネージャーとして地域の若いママと向き合っている。最後に紹介された青木翔子さんは、NPO法人PIECESの理事を務めながら、企業のファシリテーションデザイナーや、東京大学大学院情報学環 特任研究員として、学習環境デザインの研究を行っている。
副業をはじめた理由
最初のテーマは「パラレルキャリアの最初の一歩」。どういう理由でパラレルキャリアを始めたのか、その経緯などについてのディスカッションが行われた。
「好きだから始めた」という理由に手を挙げたのは、週末大工をしているたっさんと、NPOで若いママさんの地域支援をしている塚原さん。
たっさん:高校生の頃から大工になりたくて、就活でも悩みましたが、人を動かしたり、まとめたりするのが得意なので、それを仕事に活かそうと建設会社に就職。大工は休日限定で、友人の紹介でシェアハウスをつくったり、運営もしたりするようになりました。
塚原さん:親御さんの力になりたくて、保育士になりました。それは、親の精神面が、子どもに影響を与える可能性があることを、身をもって実感しているからです。若いママさんを支援しているPIECESなら、私の想いを形にできると考え、参加しました。
しかし、2人とも好きな仕事だけで生計を立てられるほどの収入には至っていないという。こういうふうに「好きなことを仕事にしたい」という人は、本業という安定した経済的基盤のあるパラレルキャリアから始めるのが一番の近道かもしれない。
一方で、安定した収入を得るためにパラレルキャリアを実践している人もいる。NPO法人PIECESで理事を務める青木さんだ。
青木さん:大学院生のときにNPO法人を立ち上げて、卒業後も就職せずに、NPOで生きていこうと考えていました。いざやってみると、それだけでは食べていけず、先輩のツテで仕事を探し、企業でのファシリテーションや大学院での研究は、自分のスキルを活かしてます。
青木さんの場合は、「得意なこと」「お金になること」からパラレルキャリアをスタートしたが、ハリネズミカフェを運営している清水さんは、「需要がある」という理由が大きかったそうだ。
清水さん:これまでIT系の会社を立ち上げて、今度は飲食店をやりたいと思っていました。ただ経験がないと難しい領域なので、素人の私が普通にお店を出してもうまくいく気がしませんでした。
そんなとき、ハリネズミに触れられるカフェが流行り始めて、海外のインスタでドールハウスに暮らすハリネズミの写真がバズっているのを知り、「これだ!」と思いました。それで、ドールハウス×ハリネズミというコンセプトカフェをつくり、ありがたいことに、今では外国人を中心に人気スポットになっています。
本業とのシナジーや折り合いのつけかた
続いてのテーマは「本業との折り合い」。パラレルキャリアを始めると、本業との時間配分や仕事のバランスなどをどのようにつけるのかが気になるところ。
複数の会社を経営している清水さんは、ハリネズミカフェでは短時間関わるだけで、お店が回る仕組みづくりにこだわったそうだ。
清水さん:一般的に、飲食店は「アルバイトが集まらない」という課題を常に抱えています。しかし、私たちの店舗は違います。「ハリネズミ」というキラーコンテンツがあるので、募集をかけるとハリネズミが好きな人・詳しい人が100名以上集まって、改善アイデアも積極的に提案してくれます。
そのため、自分がいなくてもお店は回ります。そのなかで私は、お店の世界観を作り込み、インスタで拡散したり、海外向けに広告を展開したりし、集客に注力。ITは私の得意分野なので、スキマ時間で行い、休日は完全にOFFとして、本業と両立できています。
コンセプトから考えた店舗づくりに、役割分担をしながら、得意分野だけで勝負するのも、本業と副業をバランスよく行う秘訣かもしれない。
たっさん:清水さんとは観点は違うけど、オレの勤めている会社は、副業禁止ではないものの、解禁には消極的です。だから、あえて周囲に「お金をもらって大工の仕事やシェアハウスの運営をやっています」と公言していました。
すると、上司から「楽しそうだな、お前」と認めてもらえることに。副業禁止でなければ、言ったもん勝ち。自らオープンにしていくのは一つのやり方だと思います。
司会役で、人事コンサルタントの鈴木さんは「会社の法律である就業規則に必ず目を通したほうがいい」と助言する。社内では副業禁止と言われていても、実際就業規則には明記されてないケースなども少なくないという。
青木さん:私は、いかにやりたい仕事に集中できるかを、常に考えています。そのためにはスキルとドメイン(領域)の両立が大切。例えば、政治記者だとドメインは「政治」で、スキルは「記者」。
私の場合は、ドメインは「家族・貧困問題」、スキルは「ファシリテーションや研究」です。今は、ドメインとスキルが分かれてしまっているので、この二つを融合させたい。将来的には、新しい事業もしくは新会社に立ち上げて、一つの仕事にしたいと考えています。
このあと、パネラーに直接話が聞けるテーブルトークに。経営者タイプ、大手企業に勤める兼業タイプ、NPO×○○タイプなど、いろんなタイプのパラレルキャリア実践者がいるので、参加者は自分に合ったロールモデルのテーブルにいき、熱心に耳を傾けていた。
方向転換できるのが、パラレルキャリアの魅力
最後に、パラキャリ酒場代表の高村エリナさんに、これからパラレルキャリアにチャレンジしてみたいという人へのアドバイスをもらった。
高村さん:自分が何をしたら楽しいのか、まだ見つけられていない人は、いろんな社外のイベントやグループに参加してみるのがいいと思います。そこで、いろんなことを手伝ったり、経験を積んだりしながら、人とのつながりをつくっていくことで、自分の得意分野や興味のあることが見つかっていきます。
副業禁止の企業に勤めている人も、禁止だからといって何もかも諦めるのはもったいない。NPOに参加したり、ボランティアとして活動したり、収入を得る副業をしなくてもやりたいことを見つけていく方法もいくらでもあります。
昔と違って、いろんな選択肢があるので、みなさん悩むと思います。やってみたけれど、やっぱり違う。そんなときでも方向転換ができるのも、パラレルキャリアの魅力。まずは一歩踏み出してみてください!
撮影:曽川拓哉