安倍晋三首相は10月15日の臨時閣議で、消費増税について「法律に定められた通り、2019年10月1日に現行の8%から10%へと引き上げる」と表明した。これにより、来年10月からの消費税引き上げが本決まりとなり、2019年度の与党税制改正大綱に関する議論も、いよいよ大詰めを迎える。

この消費増税では「軽減税率」が話題となっているが、これを機に、自動車税制についても「自動車関係諸税の軽減」、すなわち、自動車税制の抜本改正が必要なのではないだろうか。2018年12月末にもまとまる来年度の税制改正大綱に、果たして本件が盛り込まれるか。財務省、総務省に与党自民党の税制調査会が加わる綱引きもここからが本番だ。

自動車税の軽減は? 消費増税を前にヤマ場

そもそも日本の自動車税制では、取得、保有、走行の各段階で税金を負担する必要があり、ユーザーにとっては複雑かつ苛重な体系となっている。国際的に見ても、「日本の自動車税制は、世界一高いレベル」(日本自動車工業会会長を務める豊田章男トヨタ自動車社長)だ。これを簡素化し、軽減することを求めるのが自動車関係諸税の抜本改正(抜本見直し)ということである。

2018年9月の記者会見に日本自動車工業会(自工会)会長として臨んだ豊田章男氏は、「日本の自動車税は高すぎる」と繰り返した

自動車業界はユーザーの声を代弁し、長年にわたり自動車税制の抜本的な見直しを要請してきた。しかし、財務省と総務省は、国税・地方税の歳入・歳出バランスを理由に反対してきた。要するに、クルマは安定的な税収を確保できる対象なのだ。

自動車業界にとって、長年の懸案であった自動車関係諸税の抜本改正。来年10月の消費増税にともない、「自動車取得税」の廃止が決まった今、来年度の税制改正大綱に、より深く踏む込むことができるかどうかが問われている。まさに、ラストチャンスだ。税制改正大綱の取りまとめが本格化する11月がヤマ場となる。

「東京モーターフェス2018」(2018年10月6日~8日、東京・お台場の特設会場にて)でマツコ・デラックスさんとスペシャルトークショー(10月6日)を行った際にも、豊田社長は日本における自動車税の高さを問題視していた

9種類もの税金を払う日本の自動車ユーザー

日本の自動車ユーザーには、3段階で9種類もの税金が課せられている。まず、クルマを取得する(購入する)段階で自動車取得税(地方税)と消費税(国・地方税)を負担する必要があるが、これは二重課税であった。自動車取得税は、かねてから業界が廃止を要請してきたものだが、これまで黙認されてきた経緯があり、ようやく消費増税のタイミングでの廃止が決まった。

日本で自動車を買う人は、複雑で苛重な税体系に直面することになる(以後、スライドは全て自工会調べ)

保有段階では自動車重量税(国税)を支払う。これは旧・道路特定財源で目的税だったが、今では一般財源化され、課税根拠を失ったにも関わらず現存しているものだ。次に、排気量に応じて毎年課税される自動車税(地方税)と軽自動車税(地方税)がある。さらに利用段階では、燃料課税として揮発油税(国税)、石油ガス税(国税)、地方揮発油税(国税)、軽油引取税(地方税)、消費税(国・地方税)を負担する。

これらを合わせて自動車関係諸税という。2018年度の当初予算で見た場合、自動車ユーザーの税負担は年間8.4兆円に達する。つまり、国の租税総収入の約1割を負担していることになるのだ。

元はといえば目的税だった自動車重量税も、一般財源化した今は課税根拠を失っている

「クルマは税金を取りやすい」という非論理的根拠

日本で自動車税制が創設されたのは1940年のこと。当時は戦費調達が目的だったが、戦後は都道府県の一般財源とされた。その後、日本のモータリゼーションが進む中で、道路整備を目的とした道路特定財源として、1968年に自動車取得税、1971年に自動車重量税ができる。これらについて国は、「道路整備5カ年計画」の財源を確保するため、本則税率を上回る「暫定税率」として引き上げて恒常化し、2009年に道路特定財源制度が廃止となったにも関わらず、今でも継続しているのだ。

何しろ、「クルマは税金を取りやすい」という理由で、これだけ複雑で重い税制が続いてきたということである。過去には「物品税」という名で賦課されていたこともあった。物品税とは「奢侈税」、つまり、クルマは「ぜいたく品」という観点からの課税だ。

日本の保有段階における自動車税負担を、国際的に比較するとどうなるのか。自工会の豊田章男会長がいうように、世界で最も高いのだろうか。排気量1,800ccクラスで13年間使用した場合で比べると、車体課税は英国の約2.4倍、ドイツの約2.8倍、米国の約31倍となり、自動車先進国の中では確かに大幅に負担が大きい(自工会調べ)のが実情だ。

保有段階の税負担を比べると、日本が国際的に見て圧倒的に高いと自工会は主張する

日本経済に大きな影響を与える自動車税制の今後

国や地方自治体にとって、自動車諸税の税収は安定的に大きな額になる。多くの非論理性を抱えながらも、“取りやすい税”として、抜本改正に至らないまま続いてきたというのが実態といっていい。しかし今回、消費税10%への引き上げが来年10月に本決まりとなり、「二重課税」だった自動車取得税の廃止も決まった。この機に乗じて自動車諸税の見直しを一気に進めないと、またぞろ「クルマは取りやすい」の論理で続いていくことになりそうだ。

豊田章男氏は自工会会長として臨んだ2018年9月の会見で、「日本の自動車税制をまずは国際レベルとすること、それには軽自動車をベースとした税体系にすべきだ。自動車業界が大転換期を迎える中で、過度な税金をやめ、モビリティ(としてのクルマ)に接するために買いやすくしていくのが、経済全体の流れとなる」と強調した。確かに、日本の自動車需要は、今後の超高齢化社会、人口減に加え、若者の価値観多様化やカーシェアリングの台頭なども考慮すると、現状の年間500万台ラインから大幅に縮小することも予測できる。

一方で、米中貿易戦争に代表される保護貿易の強まる中、自動車産業にとって、自国生産を維持することは重要な命題となっている。そのためにも、自国市場の活性化は不可欠だ。また、地方においてクルマは、生活インフラとしての重要な役割を担う。

つまり、国内自動車市場を維持していくことは、日本にとって、単に自動車メーカーの業績を左右するだけの問題にとどまらず、雇用の維持や地方の生活を守るためなど、多面的な理由で重要なのだ。

そんな自動車市場の将来を考えるためにも、来年度の税制改正大綱論議がヤマ場を迎える11月に、自民税調を中心とし、自動車税制の抜本改正に踏み込めるかどうかには注目したい。宮沢洋一自民税調会長は以前、消費増税の経済への悪影響を抑えるため、自動車に対する減税の拡充を検討するとの考えを示してもいる。

自工会の豊田章男会長も9月の会見で、「とにかくユーザーの声を広く拡散していく。ぜひともユーザーが快適で、よりクルマを買い求めやすい税体系に」と力を込めていた。これまで、苛重で不合理な税負担を強いられてきた納税者(自動車ユーザー)が声を上げることで、ユーザーファーストの抜本改革に結びつくかが焦点だ。

(佃義夫)