平成仮面ライダーシリーズの20作目を記念した『仮面ライダージオウ』(2018年)がただいま好評放送中だ。18歳の高校生・常磐ソウゴは50年後の未来において、世界を破滅させる"最低最悪の魔王"オーマジオウとして暴威をふるうことになると、未来人のツクヨミから聞かされる。しかし「人々を幸せにする」「世界を良くしたい」という思いゆえに「王様になる」と夢見ているソウゴは、ライドウォッチを手にして仮面ライダージオウに変身した。最低最悪の魔王ではなく、最高最善の王になるために……。

シリーズの第1作『仮面ライダークウガ』(2000年)から、第19作『仮面ライダービルド』(2017年)までの"時代"をめぐるという『仮面ライダージオウ』では、歴代の平成仮面ライダーのキャラクターがゲスト出演することでも話題を集めている。さらに12月22日より『平成仮面ライダー20作記念 仮面ライダー平成ジェネレーションズ FOREVER』と題されたスペシャルな映画の公開が控えている。そこで、ここからは平成仮面ライダーシリーズ19作品の概要および周辺の出来事を振り返り、『仮面ライダージオウ』に至るまでの20の"時代"の変遷をたどってみることにしたい。

『仮面ライダーアギト』は、2001年1月28日から2002年1月27日まで、テレビ朝日系で全51話を放送した連続テレビドラマである。『仮面ライダーBLACK RX』(1988年)以来ひさびさにテレビシリーズとして"復活"を果たした『仮面ライダークウガ』(2000年)が子どもから大人まで幅広い世代に好評となり、これに続く"シリーズ第2弾"として企画された。また、1971年4月に元祖である『仮面ライダー』(主演:藤岡弘、)の放送が開始され、その時から30年経っていることもあり、「仮面ライダー生誕30周年記念作品」と当時銘打たれた。

従来の特撮変身ヒーロー作品のムードを激変させ、VTR撮影によるクールな画面と、リアリティを重視した作劇、そして血肉の通った魅力的なキャラクター描写を徹底的に極めようとした『仮面ライダークウガ』は、同時期に放送されていたスーパー戦隊シリーズの野心作『未来戦隊タイムレンジャー』(2000年)と共に、本来の視聴ターゲットである子どもたち以外にも、いわゆる特撮ファンと呼ばれる青年層にも強く影響を与え、当時急激な勢いで普及しつつあったインターネット掲示板(BBS)などでも毎週の放送直後に感想が書き込まれたり、熱い議論が戦わされていたりした。『クウガ』に強い魅力を感じ、充実したドラマ内容に興奮していたファンたちにとって、放送終了が近づいてきたころの話題は「クウガはいったいどういう結末を迎えるのか」と同時に「次なる仮面ライダーシリーズは製作されるのかどうか」という部分に集中していた。

それまでの仮面ライダーシリーズでは、『仮面ライダー』(1971年)に続く『仮面ライダーV3』(1973年)、『仮面ライダー(新)』(1979年)に続く『仮面ライダースーパー1』(1980年)、『仮面ライダーBLACK』(1987年)に続く『仮面ライダーBLACK RX』(1988年)というように、好評を得た作品は必ず"次回作"が作られている前例があったからだ。

当時のネット掲示板での発言を思い返すと、『仮面ライダークウガ』に続く新しい『仮面ライダー』の登場を期待するファンの声は多かったものの、昨今のように「1年ごとに仮面ライダーの新シリーズが作られるのは当たり前」という感覚はまだなかった。それだけに「クウガの後に、新しい仮面ライダーが登場する」というニュースが発表されたときには、現在よりも大きな興奮を伴ったリアクションが見られた。

従来の「特撮変身ヒーロー」の"革新"を狙った『仮面ライダークウガ』の直後であるために、『仮面ライダーアギト』では『クウガ』で試みられた「リアリティのある空間」作りの“踏襲”がまず試みられた。『クウガ』のグロンギ族にあたる"怪人"たちは、常人では不可能な猟奇的殺人を行う「アンノウン」と呼ばれ、これに対応する警察の動きが克明に描写されている。

初期エピソードにおいて、警察組織の中で「未確認生命体」や「4号」という単語が出てくるのも、本作が『クウガ』の「続編"的"世界観」を有していることを如実に示している。しかし『アギト』は『クウガ』の世界観をある程度意識しつつ、また異なる方向性を探ることが、すでに番組初期から強調されてもいた。それは、アギト、G3、ギルス、という3人の異なる個性を備えた「仮面ライダー」が登場する「群像劇」のスタイルを採ったドラマ作りであった。

『アギト』とは、「既に仮面ライダーである男(アギト)」「仮面ライダーになろうとする男(G3)」「仮面ライダーになってしまった男(ギルス)」という、3人の仮面ライダーの物語である。アギトに変身する能力を持つ津上翔一(演:賀集利樹)は、記憶喪失でありながらも常に周囲の人々を守ろうとし、明るく生きようとするポジティブな男。警視庁の未確認生命体対策班に所属し、G3(後にG3-X)の装着員を務める氷川誠(演:要 潤)は、アンノウンの強さに圧倒されながらも決死の覚悟で戦おうとする努力の男。元水泳選手の葦原涼(演:友井雄亮)は、事故がきっかけでアギトの亜種であるギルスに変身する能力を持ってしまうが、変身して戦うたびに自身の肉体が著しくダメージを受けてしまう悲劇の男。本作ではこの3人の仮面ライダーをほぼ均等のウエイトで描写し、三者三様のストーリーを追いかけることで複雑に入り組んだ群像劇を作り上げている。

正統派の仮面ライダー、強化服仮面ライダー、野性的な仮面ライダー、という3人が登場することで、視聴者は3人の仮面ライダーが紆余曲折を経て一致団結し、巨大な悪にチームワークで立ち向かっていく姿を夢想したかもしれない。しかし本作では意識的にそういった「団結」や「チームワーク」という要素を拒絶し、翔一、氷川、涼それぞれのストーリーを別々に進行させていく。その結果、同じ人物と接していながらも立場の違いゆえにすれ違ってしまう翔一と涼(第5話)や、翔一がアギトだとは知らないまま、氷川がG3-X装着者として翔一を推薦する(第24話)など、3人の主人公による3本の線が絡み合い、時にぶつかり、時に強敵を倒すべく共闘するという、予定調和を廃した先の見えないキャラクター群像が狙いどおりに描写された。

3人の主人公の物語を彩る、サブキャラクターの個性も本作の大きな魅力となった。中でも、G3およびG3-Xを設計・開発した小沢澄子(演:藤田瞳子)と、警視庁捜査一課の若きエリート・北條透(演:山崎潤)との「イヤミの応酬」などは『アギト』を語る上で外せないユニークなキャラクター描写として知られている。市民を守る警察官としてそれなりの正義感を持ち合わせるものの、G3の装着員の座を氷川に奪われたことを根に持ち、何かと氷川や小沢に批判的な態度を取る北條のキャラクターは、『クウガ』では見ることのできなかった「警察内部でのイヤな奴」ポジションとして、強烈な印象を視聴者に与えていた。氷川を出し抜いて念願のG3を装着したが、アンノウンの攻撃に恐れをなして装着を解除し、逃走するという第10話などは、北條の名シーンのひとつとしてファンの間で大いに話題となった。

このように、魅力的なキャラクターが織りなす本作のドラマ展開は、連続テレビシリーズとして視聴者の興味を常にひきつけられるよう、いくつもの「謎」が散りばめられたミステリアスな作りになっているのが特徴である。「津上翔一がなぜアギトに変身できるのか?」「翔一の本名、および失われた過去とは?」「風谷真魚(演:秋山莉奈)の父親を殺したのは誰か?」「涼の父親や氷川も関与していたという客船"あかつき号"遭難にまつわる秘密とは?」「アンノウンに襲われた人々に共通する"条件"とは?」「アンノウンが人間を抹殺する“理由”とは?」「アンノウンの上に立つ"謎の青年"の正体と目的は?」などといった謎の数々が、ストーリーの進行に合わせて少しずつ解き明かされていく展開は実にスリリングで、仮面ライダーとアンノウンのアクション(こちらも毎回盛りだくさんの分量と創意工夫に満ちたアイデアで飽きさせない)を楽しんでいる子どもたちと一緒にテレビを観ているお父さん、お母さん、そして多くの特撮ファンたちをも興奮させる「ドラマ的魅力」を打ち出した。

後半には、アギトでありながらアンノウンにも似た「アナザーアギト/木野薫(演:樋口隆則)」という第4の「仮面ライダー」キャラクターまで登場。「アギトの力を持つ者は自分1人でいい」と語る木野は、他のアギト(翔一や涼たち)に容赦ない攻撃を加えていく。木野もまた、翔一、氷川、涼たちと同じく、自分のあるべき"居場所"を求めてもがき苦しむキャラクターとして描かれている。「人が幸せに生きられる"居場所"を見出す」というのが、『仮面ライダーアギト』というドラマの重要なテーマだといえるだろう。

『クウガ』の二番煎じにならぬようスタッフ、キャストそれぞれが相当の熱意と覚悟をもって作り上げた『アギト』は見事に高い人気を獲得し、同時期に放送されていた『百獣戦隊ガオレンジャー』(2001年)と共に、大人向け雑誌やテレビ情報誌、そしてテレビのワイドショーやバラエティ番組などで『アギト』の主役陣(賀集、要、友井)が取り上げられる機会も増えた。若い奥さまを中心とした女性ファンが『アギト』『ガオレンジャー』のヒーロー役者たちに熱き声援を送る「イケメンヒーロー」ブームが巻き起こったのもこの時期だった。

この活況を受け、仮面ライダーシリーズとしては単体作品の『仮面ライダーJ』(1994年)以来7年ぶりとなる劇場版『仮面ライダーアギト PROJECT G4』が製作(ガオレンジャーと同時上映/2001年9月22日公開)されることになり「仮面ライダーG4/水城史朗(演:唐渡亮)」という映画のみに登場するゲスト仮面ライダーが話題を集めた。またテレビにおいて、ひさびさにゴールデンタイム(夜7時)の1時間番組として『仮面ライダーアギトスペシャル 新たなる変身』(10月1日放送)が製作されたのも、本作の人気の高さを示す実例だといえよう。

『仮面ライダークウガ』が新たな道を拓き『仮面ライダーアギト』で道の地盤を固めたといえる「平成仮面ライダー」だが、続く第3作『仮面ライダー龍騎』(2002年)では安定した道の上をただ走るのではなく、さらなる「新しい挑戦」が試みられた。次回はその『龍騎』が、仮面ライダーシリーズおよび東映特撮ヒーローの歴史にもたらした"衝撃"について探ってみることにしよう。

映画『平成仮面ライダー20作記念 仮面ライダー平成ジェネレーションズ FOREVER』は2018年12月22日(土)より公開される。

■著者プロフィール
秋田英夫
主に特撮ヒーロー作品や怪獣映画を扱う雑誌などで執筆。これまで『宇宙刑事大全』『宇宙刑事年代記』『メタルヒーロー最強戦士列伝』『ウルトラマン画報』『大人のウルトラマンシリーズ大図鑑』『ゴジラの常識』『仮面ライダー昭和最強伝説』『日本特撮技術大全』『東映スーパー戦隊大全』『ゴーグルV・ダイナマン・バイオマン大全』『鈴村健一・神谷浩史の仮面ラジレンジャー大百科』をはじめとする書籍・ムック・雑誌などに、関係者インタビューおよび作品研究記事を多数掲載。

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