――ドラマを撮影をしていて、大変だったことはありますか?

直樹さん「テーマとはちょっとズレちゃうんですが……。ドラマの中で踊るシーンがあって、そこはけっこう苦労しましたね(笑)。でも、その部分も含め、演出や見せ方がとても斬新な気がして、ものすごく面白かったですね。コタツから出てくるとか、システムの大変さはあるんですが、お芝居や作品づくりに関してしんどく感じるようなことはなかったです。お昼ご飯もおいしかったですし(笑)。スタッフさんが温かいものを手作りしてくださったんです。トマトベースのひき肉のカレーがおいしくて、レシピを書いてもらいました」

――撮影現場は楽しい雰囲気だったようですね(笑)。ドラマで「うつヌケ」に触れることで、不安との付き合い方が変りましたか?

直樹さん「変わりましたね。作品に入る前と後で、大きく変わりました。『こうじゃなきゃいけない』という考えに縛られるのは良くないと思うようになりましたね。もともと、性格的に決め込んでしまいがちなんですよ。それが、『少し肩の力を抜いて生きていこう』と思うようになりました。一生懸命やってもダメだったら、それはそれでと……。もっと言うと、一生懸命できなかったとしても、どこかそれを受け入れてあげられたらと思いますね」

圭一さん「日本人って、『もっとしっかりしろ自分!』っていうところがあるじゃないですか。もちろん、それも良いことなんだけど……。ドラマの中でも『会社の業績が悪いのは自分のせいだ』と思い詰める人が出てきますが、そういうのは考え直した方がいいですよね」

――原作の中にあった「健全なナルシズム」という言葉が印象的だったんですが、どういう形であれ、自分を認めてあげることは大切ですよね

圭一さん「自信過剰はダメとか、自分を卑下することが普通というような風潮ってありますが、それも違うと思います。周りに迷惑をかけなければ、自分に自信を持つことや自分を褒めることは全然ありだし、必要なことなんですよ」

――そういう気持ちが持てないことが、「うつのトンネル」へさらに歩みを進めてしまうのかもしれないですね。圭一さんがトンネルにいるときに、なにか拠り所になっていたことはありますか?

圭一さん「僕は漫画家なので、苦しい最中でも『絶対に漫画にしてやろう』と思っていました。『転んでもタダでは起きるな』と。もちろん、うつで苦しんでいる人を助けたい気持ちもあります。でも、10年におよぶ大病を物書きとして表現しないという手は無かったですね。うつ状態というのはすべて無気力状態、すべてやる気がなくなるんですが、うつヌケしてそのおもりのようなものが取れ始めたときに、一気にあれもこれもやりたいと思えるようになるんです。それを糧にするというよりは、過去の経験を無駄にしない、何かしら残すというのは必要かもしれませんね」

  • うつヌケで学べる「不安との向き合い方」を田中直樹&田中圭一が語る

    うつについて語り合う2人

――うつ状態からヌケやすくなるために、実践されていることはありますか?

圭一さん「うつヌケしてからは、気分が落ち込んでも何かしら大きな要因があったわけじゃなく、『ああ、このところ気温差があったからな』とかその程度の理由なんです。まずは、理由を確認して納得させることですね。そのうえで、深呼吸をよくやるようにしました。7~8回やると、気分が落ちついてきます」

――どうしても気分が上がらないときにしていることはありますか?

直樹さん「僕の場合は、とにかく外に出て人と話したり、好きな街に行ったりしますね。なんでもいいので外に出ると、気持ちを変えてくれる気がします。『めんどくさいなぁ』とも思うんですけど、『出てよかったな』と思えますね。あとはウインナーを食べることですね(笑)。好きなことをするのが一番ですね」

圭一さん「いいですね(笑)。うつヌケしてから知ったんですが、お肉って幸せホルモンが出るらしいんですよ。だから、落ち込んだときに『たまには外食してステーキ食べるか』ってなりますね。あとは、銭湯とかの大きなお風呂に入るのもいいですよ」

直樹さん「あぁ、いいですねぇ(笑)」

――そういう食べ物やリラックスといった、「体の贅沢」もちゃんと「心の贅沢」につながるのですね。圭一さんはうつヌケ前後で大きく変わったことはなんですか?

圭一さん「サラリーマンで中間管理職をしていたので、『悩みとかがあって仕事の能率が上がらない』『辞めたい』という人に対し、一生懸命に『なんとかなるから頑張れ!』って言っていたんです。でも自分がうつを経験すると、『頑張れ』と言われることがしんどいのがわかります。なので『気楽に、気を張らずに、失敗してもいいから楽にいこう』に変わりましたね。うつの初期症状って、ケアレスミスが増えるんですよ。前は『こいつ何やってんだよ』などと思ってましたけど、今は『うつの入口にいるかもしれないから、とりあえず気持ちをほぐしてやらないと』と思うようになりました」

――ドラマでいろいろな方の経験を知ることで、うつの方もうつじゃない方も、「うつとの付き合い方」や「不安との向き合い方」が見えてくるかもしれませんね

直樹さん「みんなの中にも『うつの種』があることに気づくことができる作品だと思いますし、自分のことが好きになれるドラマだと思っています。最後にはスカッとできますし、ぜひご覧いただければと思います」

圭一さん「全6話ありますが、どのエピソードも新たに取材をした新しいお話になります。原作では拾いきれなかった産前・産後のうつとか、親からの支配によるうつとか、『こんな入口があって、こんな出口があるのか』と改めて発見することがありました。なので、原作を読んでいる方もぜひ楽しんでいただけたらと思います」

田中圭一

1962年5月4日大阪府生まれ。近畿大学法学部卒業。大学在学中の1983年小池一夫劇画村塾(神戸教室)に第一期生として入学。翌1984年、『ミスターかワード』(『コミック劇画村塾』掲載)で漫画家デビュー。

田中直樹

大阪府豊中市出身。吉本興業所属。1992年、遠藤章造とお笑いコンビ「ココリコ」結成。1999年「世にも奇妙な物語」でドラマ初主演。