第31回東京国際映画祭(10月25日〜11月3日)の“コンペティション部門”にて、阪本順治監督『半世界』、今泉力哉監督『愛がなんだ』の出品が決定したことが21日、明らかになった。

  • 『半世界』

    『半世界』

  • 『愛がなんだ』

    『愛がなんだ』

コンペティション部門は、9つある主要部門の中で映画祭の顔となる部門。2018年1月以降に完成した長編映画を対象に、世界109の国・地域、応募作品1,829本の中から、厳正な審査を経た16本の作品を期間中上映する。今回邦画では2作の出品が決定された。

1作目は、阪本順治監督作品『半世界』。『エルネスト もう一人のゲバラ』『北のカナリアたち』などを手がけた阪本順治が、稲垣吾郎主演で贈る完全オリジナルストーリーとなる。かつて一緒に過ごした3人組(稲垣・長谷川博己・渋川清彦)のうちのひとりが前触れもなく田舎へ戻ってきたために、「これから」を考えるきかっけになっていく。「人生半ばに差し掛かった時、残りの人生をどう生きるか」という、誰もが通るある地点の葛藤と、家族や友人との絆、そして新たな希望を描くヒューマンドラマとなっている。

2作目は、『パンとバスと二度目のハツコイ』等で話題の今泉力哉監督作品『愛がなんだ』。角田光代同名小説を映画化する。28歳のOL・テルコ(岸井ゆきの)は、想いを寄せているマモル(成田凌)に自分の時間のすべてを捧げてしまう。全力すぎる片思いの末に、テルコが下した思いがけない“決断”とは……「片思い」を徹底的に考察する、可笑しく切ないラブストーリーとなった。

『半世界』 阪本順治監督コメント

『半世界』は、私が以前から書き溜めていた異なる2本のあらすじを融合させ、さらに換骨奪胎に臨んで作り上げた物語です。ある地方都市の同級生3人と、その家族や背景を淡々と紡いだものです。グローバリズムが叫ばれて久しいけれど、世界の一体化なんぞ、たかが経済のため。紛争も経済のひずみから。飯喰って働いて子孫を作って、こっちも世界じゃないのかよ。そんな想いが、この作品への動機となりました。そして、製作過程において、映画作りは自分の居場所を見つける作業ではなく、自分の中に他者の居場所を見つける作業だということを、あらためて知ることができました。新しい地図を携えて、未知なる土地へと。そんな私たちの新たな道行きを、ぜひご堪能ください。

『愛がなんだ』 今泉力哉監督コメント

誰かを心から好きだ、という感情を持ちながらも、それを伝えずにいる、という人はたくさんいると思う。それはやはり伝えないからこそ保たれている関係性が壊れるのを恐れているからだ。「好き」という言葉から逃げながら、それでもマモちゃんのそばにいたいテルコ。それは角度によってはストーカーやサイコパスに見えるかもしれない。でもストーカーやサイコパスになる可能性がない恋愛なんて存在するのだろうか。それを愛と呼べるのだろうか。テルコをはじめとした、〈誰かを思いきり好きな登場人物たち〉に嫉妬しながら、また、その好意が持つ温度に気をつけながら、この映画を作りました。みなさまにも楽しんでもらえれば幸いです。

プログラミング・ディレクター 矢田部吉彦 コメント

『半世界』は阪本順治監督のオリジナル脚本が素晴らしく、3人の友情物語を軸に、複数のエピソードを交えながらやがて命の通った夫婦のドラマとしても見事に結実していく。家族は少し面倒だなと思いつつ父から継いだ仕事に意地で向き合う主人公の姿には崇高なリアリティーが備わっている。自然な佇まいの稲垣吾郎は天性の映画俳優としての演技力をいかんなく発揮し、池脇千鶴が絶品の存在感で脇を固める。

『愛がなんだ』は、ロマンティック・コメディー群像劇でキャリアを築いてきた今泉力哉監督が角田光代の原作を映画化した。恋愛ゲームは基盤にあるが、好きな相手に対する想いが究極の形を取るに至り、『愛がなんだ』は並の恋愛映画の枠を超えてゆく。女性作家の視点を得て、今泉ワールドが深化した。コケティッシュな魅力が溢れる岸井ゆきの、ふてぶてしい説得力の成田凌の演技も特筆に値する。両作品ともに本年の日本映画を異なる形で代表する作品である。

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