東南アジアなど、手軽で安い旅行ツアーも増えたので、海外旅行に出かける人も多いでしょう。旅先での楽しいアクティビティは心が躍りますが、慣れない土地では思わぬアクシデントに見舞われてしまうこともあります。そんなときに助けになるのが海外旅行保険です。

でも、海外旅行保険は自分で契約するものと、クレジットカードについているものがあります。それぞれどのように違うのでしょうか? また、カードに付いているものだけでも十分使えるのでしょうか?

今回は、クレジットカードの海外旅行保険について解説します。

海外旅行保険はどんな時に使える?

多くのクレジットカードには、会員向けのサービスとして旅行中のアクシデントに備える保険がついています。正式には「海外旅行傷害保険」とよばれます。

旅行中にはあらゆるトラブルに見舞われることがあります。たとえば飛行機事故で亡くなってしまう、レンタカーで事故を起こし大けがをしてしまうなど身体に被害がおよぶものから、飛行機の欠航、遅延、到着した空港で手荷物が見つからない、旅先のホテルで水漏れを起こしてしまう、お店のものを壊してしまう、スリにスマホを盗まれてしまうなど、旅に支障が出ることもあります。

海外旅行傷害保険に入っていると、これらで費用がかかったときに保険金がおり、思わぬ出費の負担を軽くできます。

クレジットカードに付いている海外旅行保険は何が違う?

海外旅行傷害保険は、空港や旅行代理店などで損害保険会社に申し込むタイプのものもあります。クレジットカードに付帯しているものと基本的なしくみや補償内容は同じですが、申し込む方法や保険料などが異なります。

まず、カード付帯の保険に申し込み手続きは不要です。通常の海外旅行保険は自分で申込書を書いて保険会社に提出する必要がありますが、カード会員なら自動的に保険の対象になります。また、いつ、どこへ渡航するのかを事前に伝える必要がないのも、通常の海外旅行保険とは違います。

保険の料金を別途支払う必要もありません。補償範囲を広げたいときに別途で保険料を支払う場合もありますが、基本的にはカード会員のサービスに含まれています。

そのこともあり、保険金額などの設定はカード会社や種類に応じて一律に決まっています。自分で申し込む海外旅行保険は契約時にパッケージを選んだりカスタマイズしたりして補償内容や保険金額が決まるのに対して、カード付帯の保険は自由に設定できないことがほとんどです。

さらに「利用付帯」と「自動付帯」といって、同じカードでも出国までの利用状況によって、保険の補償範囲や保険金額が変わります。

「利用付帯」は、出発前に支払う旅行代金や、空港へ向かう新幹線やバス、タクシーなどの交通費をカード払いするなどの条件を満たすと補償の対象になるものです。クレジットカードを持っていても、旅行で使わなければ保険はききません。また、旅程でカードを使ったとき以降が補償の対象になります。カードを使う前に起きたアクシデントには保険金はおりません。これに対して「自動付帯」は、旅行中にカード払いをしなくても補償されます。

カードの保険はどこまで使える?

クレジットカードのなかには、幅広い補償や高い保険金額を売りにしているものもあります。ただ標準的なカードでも、重大なアクシデントへの補償はカバーされます。おもに以下が含まれます。

傷害死亡・後遺障害

旅行中の事故でケガをして、事故の発生日からその日を含めて180日以内に死亡した場合、または後遺障害が残った場合に保険金が支払われます。

傷害治療費用

旅行中に事故でケガをして治療を受けたときに、かかった費用が支払われます。帰国した後に病院に行った場合でも、事故から180日以内にかかった費用なら対象になります。

疾病治療費用

旅行中または帰国後一定時間内に発病し、治療を受けたときに、事故から180日以内にかかった費用が支払われます。一般的な病気は旅行の終了後48時間、コレラなど特定の感染症なら14日以内に治療を受けることが要件です。

賠償責任

旅行中に他人のものを壊した、人にけがをさせてしまったとき、請求された損害賠償金や被害者への応急措置費用が支払われます。

救援者費用

旅行中に死亡した、病気やケガで入院した、遭難したときに、家族が現地へ向かうためにかかった費用が支払われます。

携行品費用

旅行中に持っていたカメラやスマホなど身の回りのものが盗まれたり壊れたりしたときに、その時価が支払われます(1回の事故につき、3,000円など自己負担が発生)。

これらの損害を被った時に受け取れる保険金は、実際にかかった費用やその時点での時価です。ただし上限があり、カードによって大幅に異なります。たとえば携行品費用は標準的なカードでは15~20万円のものが多いですが、ゴールドカードなどでは50万円のものもあります。

傷害や疾病の治療費用も上限50万円程度から300万円、賠償責任も上限2,000万円から5,000万円など大きな差があります。出発前には、手持ちのカードがいくらまで補償するかを確認しておきましょう。

クレジットカード付帯の保険だけじゃ不十分な時も?

しかし、旅行中のアクシデントはこれらに限りません。飛行機の欠航や遅延で急きょ空港近くのホテルに宿泊する、預けていた荷物が届かなかったり紛失したりして、現地で着替えや日用品を調達するようなこともありえます。

ゴールドカードなど、海外旅行保険を充実させているカードには、こうした補償も備えているものがありますが、標準的なカードではついていないことが多いです。これらにも備えておくなら、別途で保険会社に海外旅行保険を申し込むと安心です。

複数のクレジットカードを持っていれば、それで充分なこともあります。各カードの上限保険金額は合算できるためです。たとえば治療費用の上限額が50万円のカードを3枚持っていたら、万が一旅行中にけがをして受けた治療の費用が150万円でも、カードの保険で足ります。

ただし、傷害死亡・後遺障害の保険金額は合算されず、最も高い保険金額が上限になります。上限額が最も高いカードでいくらまで補償されるかは確認しておきましょう。カードによっては自動付帯と利用付帯で保険金額が変わるものがあります。カードを利用していなくても補償されるものの、自動付帯での上限額が低いと、期待したほど充分な備えにはならないかもしれません。利用することで保険金額の上限がアップしますから、旅行にあたってのメインカードにするとよいですね。

海外旅行を安心して楽しむために、出発前にはお手持ちのカードの保険をぜひチェックしてみてくださいね。

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加藤梨里
ファイナンシャルプランナー(CFP(R)認定者)、慶應義塾大学スポーツ医学研究センター研究員
保険会社、信託銀行を経て、ファイナンシャルプランナー会社にてマネーのご相談、セミナー講師などを経験。2014年に独立し「マネーステップオフィス」を設立。専門は保険、ライフプラン、節約、資産運用など。大学では健康増進について研究活動を行っており、認知症予防、介護予防の観点からのライフプランの考え方、健康管理を兼ねた家計管理、健康経営に関わるコンサルティングも行う。