前回に引き続き、一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会(代表理事・平田麻莉)主催の『フリーランス&"複"業で働く完全ガイド』(日本経済新聞社)出版記念イベントをリポート。山口周さんのミニセミナーのあとは、ガイドブックの中でもインタビューを受けている池照佳代さん、宮本聡さん、近藤祥子さんも加わってトークセッションを行った。進行はフリーランス協会平田さんが務めた。

  • 『フリーランス&"複"業で働く完全ガイド』(日本経済新聞社)出版記念イベント会場の様子

"夏"は失敗を恐れずとにかく行動することが大切

まずは山口さんの話を受けて、今まさに人生における"夏(=25~50歳)"を過ごしている登壇者が、どんなことを意識して過ごしているかという質問が平田さんから飛んだ。

人事職を軸に様々な業界で活躍してきた池照さんは、「夏の時期にたくさん失敗をしたほうがいい」という話でアメリカのお菓子会社にいた20代の頃を思い出したという。「頼まれた仕事は9割くらい自分でやって完成度を高めてから上司に出していました。そうすると(時間がかかって)遅いんです。ある日上司に呼ばれて"Ready, Fire, then Aim.(準備したら打って、あとから狙え)"と言われた。この会社でサバイブしていくには、6割くらいできたらどんどん打て。次のチャンスは必ず来るから、そのときに狙いを定めなさい、と。最初は意味がわからなかったけど、今はfireしすぎるくらいになってしまった。自分のやり方を見直せたのはよかった」と振り返る。

  • 「好きなことをして、得意なことで力を発揮し、ワクワクしている人が一番強い」と語った池照佳代さん

不動産販売を本業にしつつ、複業でコンサルタント業務なども行う宮本さんは、「ここ5年くらいは、自分の提供している価値が折り合ってきたら、次のステージに行くというスタンスでやっている。座っていればそこそこ(給料や報酬が)もらえる環境はまずい。ぬるま湯に浸かっていると、どんどん温度が下がって気が付かなくなる」という。自身が請け負うコンサルトの契約も3カ月くらいの短い契約にし、「期待されている以上の仕事ができているか確認して、できてなかったら契約を更新せず終わりにしている」と話す。

  • 「いろんな業種で仕事をしてきたが、そのときそのときのめぐり合わせを楽しんでいる」と宮本聡さん

昼間は会社員としてエンジニアをしつつ、ハッカーズバーでも活動する近藤さんは、「難しいことは考えていない。普段から外に出て行動して、情報収集をしているからだと思うが、おもしろい仕事が勝手に舞い込んでくる」と打ち明ける。

「おもしろいことを断らずに片っ端からやっていたら、自然とおもしろい生活ができている。全部プログラムに関係する仕事ばかりなので無駄にならない。今はひたすらこなす時期だと思いながら仕事している」。

一度はフリーランスを経験しつつも会社員に戻ったことについて質問が及ぶと、「やりたい仕事をやっていれば、雇用形態はあまり関係ないと思っている。フリーランスになったのも考え抜いてなったのではなく、気づいたら自然となっていた。今の職場も、前に一緒に仕事をした人と毎月食事に行っていて、『いつうちの会社に入るの?』『そのうちね』みたいな会話をしているうちに、気づいたら入社しちゃってました(笑)。入社後もフリーでやっていた仕事は極力残しながら、フリーランスみたいな気持ちで会社員をやってます」という。

  • 「意識的に、おもしろいイベントが起こりうる場所に常に身を置くようにしていた」という近藤祥子さん

ピンチのときも逃げないことが信頼につながる

続いて話題は、フリーランスとして活躍していくために必要な、信頼の蓄積の仕方について。「実力どうこうより、全力を出すことが大事。あとは、手柄を独り占めしないこととかも。ピンチになってもハシゴを外さずにいたみたいなことがあると、ずっと信頼されると思います」と宮本さん。池照さんは「チームを組んでプロジェクトに関わるときは、自分の強いところと弱いところを先にみんなに言っています。そうすると分かってくれているので、(失敗しても)なんとか救ってくれる。それがある意味の信頼につながってるんじゃないかと思っています」という。

また、近藤さんが「一度できた縁は、よほどの失敗をしないかぎり切れないと思います」と言うと、山口さんは「実は世の中、干されてる人っていっぱいいるんですよ」と苦笑いし、ある仕事を「できます」と受注したのに、手遅れの段階になってから、できないのにできると言ってしまったことが発覚した実話のケースを例に挙げた。「仕事や評判欲しさに、『これっておかしいよね』と子どもでも分かるようなことをやっちゃう大人がいる。人としての基本的なルールを守らないと、そこで終わる。人間関係も全部リセットになる。でも、普通にニュートラルにやっていれば、きっと信頼は蓄積できると思います」。

山口さんが続けて「人間のキャラクターは、ストレスがかかった状態で出るんです。そういう状況があったときに逃げないことによって、信頼はものすごく得られると思う。(大変なことがあっても)同じ釜の飯を食ったという経験は、信頼にとって大事」と話すと、「困ったときに助けをお願いできるか、助けたいと思うか、それが人脈。いいときばっかりを楽しく過ごす相手が果たして人脈かというと、全部が全部そうではないと思う」と宮本さんも同意した。

いろんなカードを持っておくのがこれからの安定

様々な働き方・生き方を実践する登壇者たちが、軸にしていることをたずねられた場面では、「新しいことにチャレンジすることが好き」(池照さん)、「不確実性を楽しめる力をずっと持っていたい」(宮本さん)と、それぞれ冒険心の強さをのぞかせた。

将来に不安を抱えるフリーランスも少なくはない中、どうやったらチャレンジングになれるのだろうか。「最後のリスクヘッジをしているかも。(自分の場合)最悪、フルコミッションの不動産屋になれば絶対食えるっていうのがあります」と宮本さん。続いて近藤さんも「私もコンピューターさえ世の中からなくならなければ一生食べていけるだろうなって思った上での冒険。無策で飛び込んでいるわけではない」と言い、「やっぱりこれからは『一社に入ってれば安心』じゃなくて、いろんなことをやってるのが本当の安定なんじゃないかなって。だから仕事もポートフォリオみたいに気軽に考えていて、会社員になったのもその1つ。そのカードを1枚もっていると、あとのカードはどう組み合わせても安定できるんですよね」と、いくつかの切り札を持っておくことの大切さを語る。

では結局、フリーランスや複業で稼げる人は何が違うのか。「体力が人並み以上にあるのかもしれないが、私には仕事を断るという発想がない。そうしたら、気づいたら仕事が増えていた」(近藤さん)、「やるかやらないか、迷ったらやる。迷ってる時間は無駄。例えばおもしろそうなイベントあったら、参加ボタンを押しちゃう。コストがかかったとしてもオプション料だと思えば結果的に機会に恵まれて、収入も増えていく。3,000円のコストがもったいないからと迷っていると、3,000円で困るような生活しかできない」(宮本さん)、「ICという仕事を始めた当初、文字通り忠実にやっていたら、あるとき昔の上司に『つまんなくなっちゃったな』と言われた。そこで自分が出した答えは、ICという名称にとらわれすぎていたということ。Cを"クリエイター"とか"コラボレーター"に読み替えようと決めて、自分で定義を変えたらすごく仕事が面白くなった」(池照さん)と、それぞれ持ち前の行動力で仕事と向き合っているようだ。

最後に山口さんは「報酬には二種類あって、1つは経験、もう1つはお金だということを覚えておくといい。場合によっては、いい経験はできるけど報酬がついてこないことがある。でも、そういうときはまず経験を取るのは"夏"の時期の過ごし方としては大事。お金はあとからいくらでもついてくるはずなので、まずいい仕事体験を追い求めて行くこと」とし、会を締めくくった。

  • 「まずは経験を優先することが大事」と語った山口周さん

  • 「働き方が自由なフリーランスは、あえて自分を追い込むことが大事」だと持論を展開した平田麻莉さん