――西都の仮面ライダーとして現れた幻徳は、以前との雰囲気からガラリと変わった印象があります。水上さんご自身が当初イメージしていた幻徳像から離れていって困った、なんてことはありませんでしたか。

そういうのはなかったんですよ。毎回の台本を読んで、各話ごとに監督たちと話し合って役を作り上げていく形です。西都での幻徳の衣装にしても、これがいいんじゃないか、あれがいいんじゃないかと案を出し合って、僕的にもこういうイメージがいいと伝えて、みんなとのバランスを取りながら決めていったのが、あのロングコートなんです。

――敵組織のリーダーから孤高のアウトロー、そしてコメディリリーフもこなす仲間へと、非常に振れ幅の大きい役柄となった幻徳ですが、水上さんが思う幻徳のターニングポイントとは、どこだと思いますか。

ひとつ挙げろと言われれば、やはり父親の泰山を失ったところ(第33話)ですかね。あそこで、本当に幻徳の目が覚めるというか、現実に戻るというか、幻徳にとって大きなターニングポイントだと思います。それまでどちらかというと"悪"サイドに立っていた人物が、主人公の仲間に転じるにあたり、それ相応の衝撃的な出来事がなければ説得力がありませんから。父の死をもって、やっとわかることがあるといいますか。幻徳は泰山のセリフにあるように「バカ息子」ですから(笑)。演じている自分としても、泰山との別れのシーンは気持ちが入りましたね。

――水上さんが幻徳を演じる上で、ここはけっこう「キツかった」あるいは「強く印象に残った」と思える時期はどのあたりでしたか?

そうですねえ……。説明のセリフの多いことがけっこうあったのは厳しかったですけれどね(笑)。役作りの部分では、東都から一度失脚して西都へ行き、仮面ライダーローグになってふたたび現れるまでの時期が印象深いです。その間……テレビエピソードでいうと第21話から第23話のラストまで、幻徳が何をしていたかというのが、Blu-rayの映像特典に収録されたスピンオフドラマ『ROGUE』で描かれているんです。テレビ本編に出ていない間、幻徳の身にどういうことが起こっていたのか。本来ならば自分の想像の中で役を膨らませないといけないところなのですが、実際に「こんな出来事があったんだ」という別のドラマを作ってもらったことによって、幻徳の役作りもスムーズに行きました。『ROGUE』をやらせていただいたことは、自分にとってもすごく大きかったです。

――戦兎と共にエボルトと戦うようになってからの幻徳は、同じく仲間同士となった仮面ライダーグリス/猿渡一海と「ヒゲ」「ジャガイモ」のようにお互いをあだ名で呼び合ったり、非常に小さなことについてモメたりと、ケンカ友だちのような様相を呈してきていますね。幻徳と一海のかけあいを楽しみにしているファンの方も多いと聞いています。

一海を演じる(武田)航平くんともよくその話になりますが、あのやりとり自体はホン(台本)にはなかったんです。第37話で一海が幻徳を「ヒゲ」と呼んで、それに対するアンサーとして僕が「ジャガイモ」と返したことから始まっています。ああいった大人げないかけあいを入れることによって、幻徳と一海の関係性がより明確に見えてくるかな、という考えもありました。きっかけをくれた航平くんにはすごく感謝しています。

――劇場版でも、幻徳と一海は名コンビぶりを発揮しているようですね。映画ということで、何か特別な気負いというものを持たれましたか。

すごく正直に言いますと、映画の台本を読んだとき、いい意味でテレビと変わらないというか、いかにも映画っぽく派手に書かれているなという印象がなかったんです。基本的にテレビ本編でやってきた流れと一緒だったんですけれど、それが武藤さんのスタイルだと思いますし、それを上堀内(佳寿也)監督が劇場版らしく、視覚的に派手な画面として料理していくんだろうなと思ったんです。それは北九州ロケで3000人エキストラの方々を集められたことに顕著なんですが、そういうのもあって、すごくよく出来ている映画だと感じました。