手持ちがさびしいときに物を担保として預けることで、借金をすることなく現金を手に入れられる質屋。その利用方法もユーザーによって十人十色で、質屋の現場では日々、さまざまな「人間ドラマ」が生まれている。その一端を垣間見るべく、全国的に質屋業を営む大黒屋の新宿買取センターに勤務する飯村崇史店長に話をうかがった。
「帰りの交通費とご飯代だけ欲しい」
――実のところ、私は質屋を利用した経験がないのですが、どういった方がよく利用されているのでしょうか
自営業の方や投資家、不動産業の方や、若年層ではアルバイト主婦層でパートの方やバンドマンやカメラマンなど、幅広くご利用していただいております。あとはパチンコや競馬といった公営ギャンブルをされる方が「軍資金」をつくりにご利用されるケースもありますね。
――本当に幅広い人が利用されているんですね
ええ。例えば、バンドマンの方は倉庫代わりにギターを置いていかれるケースが多いですね。いつものギターで2万円借りて、早いときで数時間後に質出し(預けているものを引き取りにくること)に来る人とかもいらっしゃいます。投資家の方だったら、100万円ぐらいを借りて数時間後に「預けた品を出しに来ました」とご来店されることもあります。おそらく、株などで利益を確保されたから取りにいらしたのでしょうね。また、資産家の方だと時計などをお持ちになって、「自宅に置いておくと不安だから」などと質入れ(物を質屋の倉庫に預けてお金を得ること)されるケースもあります。
――質入れしてお金を得る理由も実にさまざまですね
そうですね。中には「帰りの交通費とご飯代だけ欲しい」という方もいらっしゃいました。この間ご利用された方は、あるブランドバッグをお店まで持ってこられて、質入れすれば10万円の値段がつくところを「5万円でいい」とおっしゃいました。その理由を尋ねると、「今、デパートに限定の洋服が入っていて、それを買いたいから」と。それで5万円をお渡ししたら、翌日にご自宅から5万円とお菓子を持ってきてくださり、「昨日はありがとうございました」とお礼を言われました。「こういう質屋の使い方もあるんだな」と思いましたが、わざわざお礼と一緒にご来店いただけたのは嬉しいですよね。
――まさに質屋ならではの人間ドラマという感じですね
お金をお貸しするのに特別な審査などが不要な質屋にしかできない上手な使い方がある反面、「2万円がないとやばいんです」と本当に困ってご来店される方もいらっしゃいます。私たちもお客さんあっての商売ですから、なんとか工面してあげたいのですが、市場から逸脱した値付けはなかなかできないのが現状です。せめて、何のためにお金が必要になるのかその用途がわかれば、心情的に金額をプラスしてあげたいのですが……。価格の上限が決まっている以上、一定以上の無理はできないですよね。
質入れ時の査定額はどう決まるのか
――飯村店長ご自身も、かなり葛藤されたうえで査定額を出す機会も少なくなさそうですね。ところで、利用者が品物を質入れする際の金額はどのように決まるのでしょうか
まずは、質入れを希望される物の市場価格を調べます。そこから弊社を含めた質屋の業界内の買取価格を調べ、品物の保存状態をチェックして、そこから預かり品の査定価格を出すという流れですね。
――質入れ時の査定額が高くなるためのポイントやコツはあるのでしょうか
お預かりする品物に元々付いていた付属品があった方が査定額は高くなりますね。時計で言えば箱や保証書、ブランドバッグで言えばギャランティーカードなどですね。元からそういった付属品がないものは別として、あるものは質入れ時に一緒に預けられた方が査定額が高くなります。
それと、もしもブランドバッグの内部が汚れてしまっていたら査定ランクを下げざるをえないので、メンテナンスなどである程度きれいにされてから持ち込まれた方がいいですね。バッグ内のほこりや汚れを払うとか。ただ、例えば黒バッグの角がすれているので黒マジックで塗るなどの行為はやめてほしいです。