ライター歴10年超の私ですが、取材が大の苦手。できれば、取材は編集者に任せ、書くことだけに専念したいぐらい。事前準備を万端にしても、取材がなかなかうまくいきません。
円滑なコミュニケーションってどうするのよー。悶々としていると、「ビジネスパーソン向けのコミュニケーション講座があるよ」と編集者が耳よりの情報を。
開催しているのは、落語家の立川談慶師匠。話を聞いてみると、大切なのは「耳をつくること」だそうです。コミュニケーションの方法を相談したのに、耳が大切!? どういうことなの?
私にコミュケーションのセンスがあるって、ほんと?
師匠、私はライターという仕事柄、初対面の人と話をすることが多いんですが、話が盛り上がらなくて毎回困ってます。どうやったら円滑にコミュニケーションが図れて、うまく話を引き出せたりできますかね。
ご自身ではどこが原因だと思っていますか?
うーん、そうですね。1つは話題を提供するのも苦手だし、他には話をまとめるのも上手くないですし、それに、いつも文頭に「あー」とか「えーと」などの雑音が入って聞き苦しいし……とにかく欠点だらけが目について、いろいろあります。
そうですか。私が開講しているコミュニケーション講座にも、西谷さんと同じような悩みをもつ方が多いですね。
そうなんですね!
やっぱり、同じ悩みをもつ仲間がいるのはいいですね。しみじみと思います。
でも、私から言わせれば、そういう視点を持っていることはむしろ長所だと思うんです。
えっ、なんですか!? 欠点じゃない?
そうです。ある意味、自分の特徴に気づいているというのは、それだけ感受性が強い証拠なんです。「俺は、コミュニケーション力あるよ」という自信家な人ほど、案外感受性がなかったりするわけですよ。
たしかに、自信満々に「俺、●●すごいよ!」という人ほど微妙なこと多いかも……
だから、あなたが抱いている不安はむしろセンスの塊みたいなものなんですよ。もっと自信を持っていいんですよ。
本当ですか!?
師匠―、この一言でどれだけ私が救われたか! センスの塊と呼ばれたのは人生初ですよ。
もちろんです。そしてそのセンシティブな強みである、受信機能をうまく活かすんです。
活かす? いったいどういうふうに?
人間がもっている五感である「聴覚・視覚・味覚・嗅覚・触覚」。これら全てを受信機能といい、特に「聴覚」をフルに使っていきます。
わかるような、わからないような。少し戸惑う私。
「耳をつくること」。
ははー、耳をつくっていく?
「聴き上手」になるということです。結局、コミュニケーションというのは会話ですよね。最小限の単位で言えば、Aさんが喋って、Bさんが聴くということで会話は成立しますよね。従来は喋る側が「攻め」という認識だったかもしれませんが、その意識を変えましょう。聴く側が「攻め」で、喋る側が「守り」になる。
主導権をとって、会話にリズムをつくれ
聴くことで「攻める」?
「聴く」行為って受身じゃないのかな? 何故攻めるなんだろう。またまた戸惑う私。今日はよく戸惑いますよ。
話を聴いているというのは受信の時間ですから、相手の発信している情報を「全て把握してやろう!」という意気込みで臨むわけです。「相手は今何に興味を持っているのか」「何に怒っていて、どうしたいと思っているのか」などの内容に関することから、喋り方のイントネーションからその人のバックボーンを類推することに至るまで、相手が発する言葉を漏らさず収集して、分析するわけです。
つまり、聴くことに全神経を集中させるということでしょうか?
そうです。聴く時間=データ集積期間と考える。そして、聴く時に得た相手に関するさまざまなデータは、喋るときに活用すればいいわけです。この人にはこの話をふれば盛り上がるなとか、この話は食いつかないだろうなとか。そうすると、今度喋る時にも次第にリズムが生まれてくるわけです。
ふむふむ、漏らさず相手のデータを収集しているので、喋るときには、会話のネタに困らないというわけね。
では、決して喋り上手になる必要はないというわけですか?
プレゼンや面接のように、1人対多数でスピーチしたり、発表したりする場合は別かもしれませんが、誰かと良好なコミュニケーションを図る場合は、喋り上手よりも聴き上手になるほうが、いいと思います。
言われてみれば、喋ることに意識を集中しすぎて、聴くことがおろそかになって、同じことをまた聞いてしまうなんてこともよくありますよね。
次に何を話そうかと考えて会話をしていると、相手が言ったことを聞き漏らしてしまい不信感を与えてしまうということにもなりかねません。相手が喋っているときは、聴くことに集中して、一気に主導権を握ってしまうんです。
主導権を握る? またまた戸惑い始めた私。
西谷さん、会話はゲームですよ。忘れないでください。
はぁ、ゲーム……ですか?
先程、聴く側が「攻」と喋る側が「守」というお話をしましたが、野球やサッカーと同じように攻撃でうまくハマれば、守備もリズムにのって好セーブを連発するということがよくありますよね。
たしかに、スポーツの世界でも「守備からリズムを作ろう」とよく聞くかも! 会話も同じなんだ。
それと同じで、攻守のリズムができれば、会話もいい感じではずみます。そのためには、いかに主導権を握るかです。
聴くことで、主導権を握るわけですね。
それを意識した会話を繰り返していけば、相手のデータや、会話(コミュケーション)についての傾向が蓄積されていって、どんどん対話能力も高まっていきます。