金融・決済各社や関連業界で作るFintech協会がキャッシュレス社会に向けた現状を6月14日に公開。2025年までにキャッシュレス決済比率40%以上を目指す国家戦略にもとづき、各社が取り組みを強化する姿勢を示した。

  • Fintech協会がキャッシュレス推進、2025年までに決済比率40%以上目指す

    説明会に参加した(上段左から)リンク・プロセシング高橋徹弥氏、Fintech協会・丸山弘毅会長、アイ・ティ・リアライズの尾上正憲氏、Origami・古見幸生氏、Fintech協会・星川高志理事、(下段左から)AnyPay井上貴文氏、経済産業省・海老原要氏、Kyash・鷹取真一氏、ピクシブ・重松裕三氏

今回集まったのは、AnyPay、Kyash、ピクシブ、アイ・ティ・リアライズ、Origami、リンク・プロセシングの各社に、経済産業省も加えたメンバー。Fintech協会のうち、ベンチャー会員各社が集まった形だ。

日本はクレジットカードとデビットカードなどのキャッシュレス決済比率が先進国でも低いことが問題になっている。国策でクレジットカード利用が拡大した韓国の89.1%や中国の60.0%に続き、欧米各国も多くが40~50%がキャッシュレス化されており、Fintech協会の丸山弘毅会長は、25年に40%を目指すという目標は、現時点の欧米各国にようやく近づくレベルで後れを取っていると指摘。今回各社は、「世界に追いついて追い越していくスピード感で(キャッシュレス化を)進めていきたい」と強調する。

Fintech協会・丸山弘毅会長はキャッシュレス化が進まない背景として、店舗側の課題を挙げる。端末コストやオペレーション負担、手数料負担といった点を挙げつつ、さらに「プレイヤーが多すぎるのではないか」と指摘し、店舗が掲げるアクセプタンスマークが大量になってしまう現状を問題視する。

  • 丸山氏が例示したビックカメラが対応する決済の数。たくさんの決済サービスがあり、サービスによってポイントが違うなど、複雑な状況

磁気ストライプ、接触IC、非接触IC、QRコード、生体認証といった複数の認証方法や各支払い方法に合わせた複数の端末を共通化するなどして、「店の目線で規格統一、業界標準つくるのも重要になるのでは」(丸山氏)として、よりシンプルに決済が行える状況になることが必要だと訴える。

  • 消費者だけでなく、店舗側にとってもシンプルな決済であることが重要だという

Fintech協会にある2つの分科会は、今後統合してキャッシュレス分科会を設立。今後、経済産業省をはじめ産官学で作るキャッシュレス推進協議会(仮称)の受け皿となることになっており、キャッシュレス化推進の旗振り役となっていく考えだ。

さらにAnyPay代表取締役の井上貴文氏、Kyash代表取締役社長・鷹取真一氏、ピクシブ・クリエーター事業部部長の重松裕三氏の3者は、「統一QR」への期待を強調。これは、決済に使われるQRコードの使用を統一して、POS側がサービスを選択しなくても決済が行えるようにする、というもの。

現在は、例えば消費者が「LINE Payで」と言ったら店員がPOSレジでLINE Payを指定してコードを読み込み、「d払いで」と言われたらd払いを選んで…… といった具合に、利用者が指定して、POS側でもそれに合わせた設定が必要になる。統一QRになれば、「QR払いで」と言われてQRコードの読み込みを行えば、LINE Payだろうがd払いだろうが、そのまま決済が行えるため、利用者・店舗側ともに簡単に決済ができる。

「色々なプレイヤーがいて、店舗はどれを導入したらいいか困惑する」(井上氏)、「ユーザーも店も、規格が統一された上で選択できるのが一番いい」(鷹取氏)、「独自仕様でいきたいわけではないので、いい仕様を作ってそれに乗っていきたい」(重松氏)と、各社とも仕様統一に期待を寄せる。

さらにアイ・ティ・リアライズの代表取締役・尾上正憲氏、Origamiマーケティング部ディレクター古見幸生氏、リンク・プロセシング取締役・高橋徹弥氏が登場して、それぞれの見解を披露。3社とも加盟店手数料をはじめとした店舗側のコストの問題に言及し、こうしたコストを低減することの重要性を強調する。

「キャッシュレス比率は、地方ではさらに低く、決済手数料などの課題のほかに、シンプルに新しいものを入れたくないという理由もある」(尾上氏)、「キャッシュレスの最大のライバルは現金。現金よりスマホ決済、QR決済を使ってもらう理由が必要」(古見氏)、「店舗オペレーションを複雑にしたくない。シンプルにひとつの端末、アプリケーションで、1ボタンで決済できるような世界にしたい」(高橋氏)と3者はそれぞれ指摘。店舗側が導入したくなるキャッシュレス決済が必要だという見解を示す。

経済産業省商務・サービスグループ消費・流通政策課の海老原要氏は、同省による「キャッシュレス・ビジョン」の内容を振り返りつつ、キャッシュレス化に向けた方向性を紹介。例えばQRコード決済を一気に普及させた中国アリペイは、「聞くところによると0.5%」という1%未満の安価な決済手数料と初期投資コストという店舗側の負担を低減し、取得したユーザーの情報などを生かした多様なサービスを組み合わせて収益を上げる仕組み。それに対して日本は加盟店手数料原資とするビジネスモデルであり、新たなビジネスモデルが必要との認識を示す。

今夏をめどに、産官学による「キャッシュレス推進協議会(仮称)」の設立が予定されており、経済産業省でも統一QRを含めたキャッシュレス化に向けた取り組みをサポートしていく考えだ。25年の開催を目指す「大阪・関西万博」でキャッシュレス決済比率40%を前倒しで実現し、早期に80%まで拡大する、というのが国の目標だが、その実現に向けて国全体で足並みをそろえた取り組みが求められるだろう。