空港の味わいは1話で終わらない

竹本さん: 「第1話が羽田空港だったのは、桐谷くんや課長のキャラ紹介もあるんですが、僕自身が知り尽くしている空港だから書きやすかったというのはあります。

庄内空港の回はこの作品の中でも特殊な回です。この漫画自体、地方空港を毎回巡るようにしたいと思っていて、それを早めに伝えられればと思い、第3話は地方空港でいこうということは先に決まっていました。加えて、飛行機体験において、チケットの予約も楽しみのひとつじゃないですか。それを書きたいなと思って記憶をたぐっていたら、庄内空港での実体験に行き着いたというわけです。この話の中でプレミアムクラスが急きょ変更になってしまったということも含めて、僕の実体験なんですよ」

  • 課長からのお題にプレミアムクラスで答えた桐谷だったが……(第3話「愛さんさんと庄内空港 前編」より) (c)竹本 真・猪乙くろ/講談社

    課長からのお題にプレミアムクラスで答えた桐谷だったが……(第3話「愛さんさんと庄内空港 前編」より) (c)竹本 真・猪乙くろ/講談社

竹本さん: 「第5話の山口宇部空港ふれあい公園で課長がしたポージングは、もちろん、僕もやりました(笑)。山口宇部空港はまだ全然書けていないんですよ。近くにある道の駅も書きたいなと思っているので、山口宇部空港はまた登場するかもしれませんよ」

松永: 「山口宇部空港の再登場にも期待がかかりますが、4月23日に発売となる第2巻の一番の見所というと、どんなところでしょうか?」

竹本さん: 「第1巻に比べて話のバリエーションが増えています。空港ではなく居酒屋の回があったり、カメラ女子が登場したり。飛行機というものをいろいろな角度から楽しんでいる人たちをどんどん出していきたいという構想が元々あったので、そのキャラとして登場したのが、カメラ女子というわけです。

航空業界にはいろいろな複雑な要素が存在しているじゃないですか。そういう人たちに存在感を与えて、空港や飛行機にまつわるいろいろな世界観、"飛行機大好きワールド"を紹介できたらいいなと思っています」

  • 第2巻では"飛行機大好きワールド"を広げてくれる新しいキャラも登場 (c)竹本 真・猪乙くろ/講談社

    第2巻では"飛行機大好きワールド"を広げてくれる新しいキャラも登場 (c)竹本 真・猪乙くろ/講談社

1コマ1コマを取材の中で生む

松永: 「ちなみにですが、漫画の中では国内の空港だけを扱う予定ですか? 番外編で世界の空港という展開はないでしょうか?」

竹本さん: 「いろいろな人から聞かれますし、僕も世界の空港をやりたいなと思っているんですけど、単純に僕は今、パスポートが切れてしまっているので、更新するところから始めないといけないですね(笑)。やっぱり、自分が行って自分が面白いなと思ったところを描きたいと思うので、実際に行って取材して漫画を描いて……となると、なかなか現実的に難しいかなということはありますね。

いつも僕が取材をしてネームを作り、それを担当編集と揉(も)んで、完成したネームを猪乙先生に渡しています。取材ではコマの構図に合うよう、全コマ用に写真を撮っています。元々漫画を描いていたので、この人物に合わせてこの背景にするなど、構図のとり方は書く側の気持ちをくんで撮るようにしています。資料用の写真もありますが、1回の取材で700枚ぐらい写真を撮っていますね」

松永: 「それだけの手数がかかっているので、確かに世界の空港を登場させるのはなかなか難しそうですね。ですが、いつか世界の空港が登場することを楽しみにしています。国内・国外問わず、竹本さんが個人的に好きな空港はありますか?」

竹本さん: 「伊丹空港ですね。以前は年に5,6回は必ず行っていました。伊丹空港が目的だったこともありますし、伊丹空港を乗り継ぎで利用することもありました」

松永: 「伊丹空港を離着陸する飛行機は、大阪の繁華街からも迫力のある姿が見られるのでワクワクしますよね」

竹本さん: 「あれ、うらやましいですよね。第2巻の伊丹の回の扉絵がまさにそんな風景になっています。新大阪駅の側のビル街なんですが、こんなところからでっかく飛行機が見えるっていいなって思い、ワンシーンに選びました」

  • 伊丹空港ならではの魅力を教えてくれるワンシーン(第10話「試される聖地 大阪国際空港」より) (c)竹本 真・猪乙くろ/講談社

    伊丹空港ならではの魅力を教えてくれるワンシーン(第10話「試される聖地 大阪国際空港」より) (c)竹本 真・猪乙くろ/講談社

松永: 「個人的に、富山空港も好きですよ。富山も割と都心部から空港が近いですし。なんと言っても……」

竹本さん: 「日本唯一の"河川敷空港"ですよね。釣りをしている人もいて、他の空港とは違う風景で、そんな風景も描きたいなと思っています。空港ターミナルから山並みと一緒に飛行機を楽しめるのもいいですよね」

結局、『前略、雲の上より』の"前略"はどういう意味?

松永: 「今回、『前略、雲の上より』ということで、漫画が形になる前のことをいろいろとうかがわせていただきましたが、この『前略、空の上より』というネーミングそのものはどうやって決まったのでしょうか?」

竹本さん: 「パロディー的なノリです。一世風靡セピアさんの『前略、道の上より』という歌がありまして、今回は"道の上"ではなくて"雲の上"かなってところからすんなり決まりました(笑)。

各話のタイトルも一応、歌のタイトルのパロディーになっています。第1巻第3,4話の『愛さんさんと庄内空港』は美空ひばりさんの歌詞に、第3話の"さん"、第4話が家族愛がテーマだったので"愛"という感じです。基本的には、気付かれなくてもいいなという感覚なんですが、各回の話や舞台に合うような曲を選んでもじってタイトルをつけています。あと、これは猪乙先生の遊び心なんですが、第1巻のカバーにはそれぞれのエピソードに出てくる人々が描かれています。そんなところも楽しんでもらえるとうれしいです」