2019年3月に吉本新喜劇が発足60周年を迎えるが、それを祝して3月21日の広島公演を皮切りに「吉本新喜劇全国ツアー2018」が始まる。新喜劇としては9年ぶりの全国行脚で、小籔千豊、川畑泰史、すっちー、酒井藍の4座長が関西を飛び出して全国にお笑いを届ける。

今年2月の記者会見にも登壇、「吉本新喜劇を全国区にしたい」と鼻息が荒い座長が、最近では"すち子"でもおなじみのすっちーだ。全国ツアーへの抱負や座長就任時に救われた小籔の一言、そして、”すち子”や”乳首ドリル”などの誕生秘話を通して、新喜劇への想い、お笑いへのスタイルについても話を聞いた。

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    吉本新喜劇座長のすっちー

9年ぶりの全国ツアーへの思い

――9年ぶりの全国ツアーとなりますが、まず座長としての抱負を教えてください。

前回の全国ツアーは吉本新喜劇50周年で普通に座員として参加しまして、東京で活躍中の今田耕司さん、宮川大輔さん、小籔さんたちと回りました。今回は来年が60周年ということで、関西を飛び出して全国を回ります。最近はMXさんで中継も流れているので関東の方も劇場に来ていただいたりしていますが、全国的な知名度はまだまだで、東北や北海道などでは知らない方も多いんです。そういう地域の人にも知っていただく、そこが今回の全国ツアーの大きな目標となっていますね。

――素人質問で恐縮ですが、座長が6人もいるんですよね。劇団の座長というとひとりのイメージがありますが、いまや約100人の座員もいる大所帯を6人でまとめていると。

そうなんですよね。僕も最初座長になった時、「小籔がよかったわ。小籔、辞めてんな?」「あ、君が座長か? 頑張りや!」などと言われたりしましたが、いやいや辞めてないですよと(笑)。なんなら小籔さんの後に川畑さんがおるから、完全にいないもんになってまっせっていうね。今は藍ちゃんも含めて、全部で6人。これ正直、ひとりやと劇場が回らないんです。関西だけでも3つあって、それプラス地方営業となると座員が足らないこともあるほどなんです。

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先輩座長・小籔千豊に救われた過去

――新喜劇に入った当初、座長になりたかったそうですが、実際に座長になった時、先に座長を務めていた小籔さんの一言に救われたそうですね。

僕が座長になる話が小籔さんの耳に入って、「お前、座長に向いていると思うで」と言ってくれたことで、すっごくラクになったんです。周りには「大丈夫か?」と心配する人が多かったですが、小籔さんは違った。おかげで気持ちがすごくラクになりましたね。新喜劇の舞台をやっている時にも、僕はもともと漫才なんで漫才の考えで笑いを取りに行こうとしたら、「お芝居のお笑いの取り方はこうやで」とも教えてくれて。「ヘンに笑いを取りに行かずとも、芝居を続けて最後に取りに行ったほうがいい」とか。小籔さんには公私ともにいろいろと教えてもらっていますね。今でも。

――その小籔さんと今では同じ、座長として活躍されています。

いや僕は小籔さんにはなれないんですよね。だから僕は真似ではなくて、小籔さんがあまりしないであろうことをする。小籔さんみたいな“大きさ”では言えないようなことを言う。そういう座長を目指しています。それがまた、何人か座長がいるということの意味であるかもしれないとも思っています。

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"すち子"と"乳首ドリル"誕生秘話

――今日は人気キャラクターのすち子のメイクですが、そのすち子や乳首ドリルなどの芸は、新喜劇に入ってから誕生したのですか?

そうですね。乳首ドリルを芸と言っていいかわからないですが(笑)、加入した当時は毎日、劇場でいろいろなことをせなという思いがあったんです。ただ、吉田裕と部室で遊んでいる感覚で、「なんやこれおもろいな」程度の自然発生的なギャグだったんです。でも、確かに面白いので、いずれはみんなに知ってほしいと吉田とは言っていたけれど、いろいろと全国区の番組に声をかけてもらって、ここまでテレビで放送されるとは思ってなかったですね。

――確か東京では、ネタ番組でスーツを着て登場しましたよね? サラリーマンが乳首ドリルを始めて衝撃的でした。

最初の出演は、そうですね。仮にすち子だった場合、知らん奴が出てきて、見たことないノリで巨乳で、ぐちゃぐちゃになるでしょ(笑)。だからもうしゃべらない人、黙々とね。とにかくまず、あのどことなしの部室のノリをわかってもらおうということが、まずありました。「何が始まる?」「いつ終わんねん?」って、見ている人をおちょくる芸でもある。いまやっている乳首ドリルってお客さんがわかってくれた上でのものなので、意味合いが違ってきています。

――すち子は、どうやって誕生したのですか? あの権力に媚びるキャラ設定など、考え抜かれた感もありますが。

僕は基本的にひとりでいることが好きで、よくひとりでいろいろなことを考えているんですね。そういうところから来ているんだと思います。彼女は人間のアカン部分を全部出している人で、思っているけれど普通は言わへんことが全部口に出てまう人。だから、全部あるあるなはずなんです。ひどいことを言っていますが、人が思っていることなんですよ。絵に描いたような幸せな家庭に行って、旦那も嫁さんもきれい、でも子どもブスみたいなこと。それってみんな思っているけれど、言うたらアカンことじゃないですか。それを全部言ってしまう人がすち子なんです。

――ちょっとすっちーさんの内面が出ているというか、ある意味分身的なのですね(笑)。

まあまあ素が出ているとは思います(笑)。けっこう体力的にしんどい時でもすち子を舞台でやり切ると、体がラクになったりしていますから。舞台上はふわっとなれるので、唯一逃げられる場所、出しているんだと思います。だから観ている人も気持ちええらしく、ファンレターですごくお悩み中の方が、「思っていること出してくれるからラクです」「すち子さんみたいになりたいです」って(笑)。ストレスがなくなっていくんでしょうね。

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名ギャグも生まれる! 生の舞台の魅力

――名キャラクターや芸は、生みの苦しみが伴いそうですが、すっちーさんの場合、ちょっと様子が違いそうですね。

新喜劇って、桑原師匠の「ごめんください、どなたですか?」「お入りください、ありがとう」や、チャーリー浜師匠の「ごめんくさい」とか、舞台上で生まれるものがほとんどで、すち子もそうです。こんなことしようって舞台に持って行っても、カタチが変わるんですよね。人数が多いから。逆に舞台上でポン! と生まれて、それが何十年も続くギャグになることもある。ナマものですからね。だから生の舞台を観ていただくと、一番楽しいはずなんです。

――そういう意味でも、「吉本新喜劇全国ツアー2018」は楽しみですよね!

テレビで観た僕たちのネタに興味を持って、新喜劇に来てくれる人が増えましたので、ちょっとずつではありますが、「新喜劇ってどんなもんやろう?」という反響はありますね。でも、テレビと同じことをやっているようで、実は舞台では同じじゃないんですよね。新喜劇はマンネリの面白さ、定番ギャグとわかっていても笑えるというお笑いですが、テレビはテレビサイズでやっていますし、ステージでも生で観ると日々けっこう変化しています。そういう意味では実は同じものは観られないので、劇場が一番! ぜひ遊びに来てほしいです。

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■プロフィール
すっちー
1972年1月26日生まれ。大阪府摂津市出身。本名は、須知裕雅(すち ひろまさ)。お笑いコンビ、ビッキーズのボケとして活動していたが、2007年コンビ解散。ピン芸人として活動後、2007年に吉本新喜劇に加入する。2014年座長に就任。自身の代表的なネタにもなっている大阪のおばちゃんをイメージしている強烈なキャラクターであるすち子をはじめ、吉田裕を相手に繰り出すドリルすんのかいせんのかい(=乳首ドリル)などが人気の持ちネタ。ピンでは、須知軍曹というキャラクターに扮することも。2015年には、すち子の頼りない手下を演じる松浦真也と「すち子&真也」名義でシングルCDデビューも飾っている。