SUBARU(スバル)が経営体制を刷新する。吉永泰之社長は代表権のある会長職に就き、米スバル・オブ・アメリカ・インク(SOA)会長でスバル専務執行役員の中村知美(ともみ)氏が後任となる。両者が登壇した会見では、スバルの今後にも関係しそうな、ある“温度差”が感じられた。

  • スバル社長交代会見の画像

    役員人事についての記者会見に臨んだスバルの吉永社長(左)と中村専務(右)

経営体制刷新の理由は「きちんとありたい」

スバルでは昨年、完成検査不正問題が発覚し、その後は燃費データの書き換えがあったことなどが明らかとなった。今回の経営体制刷新に際して吉永社長が提示したのは「個人としても会社としても『きちんとありたい』」というメッセージだ。会長職に就く吉永社長のほか、近藤潤取締役会長、技術担当の日月(たちもり)丈志代表取締役専務執行役員、製造部門担当の笠井雅博取締役専務執行役員の3人も現在の役職から退く。次期社長は2018年6月の株主総会および取締役会で選任の予定だ。

「けじめをつける」色合いが強い今回の人事だが、吉永社長によれば、昨年の完成検査不正問題は経営陣が世代交代を考えていた時期と重なっていたという。役職を退く3人から吉永社長は、個別に退任したいとの相談を受けていたそうだ。ここ数年は順調に販売台数・業績を伸ばしてきたスバルだが、吉永社長は「ある意味、踊り場を迎えていた」との考えで、チャレンジ精神を大事にするという意味からも、経営体制の一新を決めたとのこと。ちなみに、中村専務を次期社長とする人事については、役職を退く4人全員の意見が一致したそうだ。

  • スバルの新社長に就任する中村知美さん

    中村新社長は吉永現社長に続き営業畑からの社長就任だ。趣味について聞かれると、「広報からは『言わない方が…』とのことでしたが、競馬です」と答えていた

自動車業界で進む異次元の技術革新、スバルの立ち位置は

米国で4年を過ごした中村新社長は、日本との温度差を感じていると語る。その言葉が出たのは、自動車業界で進みつつある大変革を象徴する「CASE」について、新社長が対応を問われた時のこと。CASEとはConnected(つながるクルマ)、Autonomous(自動運転)、Shared & Service(カーシェアリングなど)、Electric Drive(クルマの電動化)という4つの言葉の頭文字をとってダイムラーが使い始めた概念だ。

「日本と私では温度差がある」。SOAで4年間を過ごしたことを引き合いに出しつつ、中村専務は語る。「米国に4年いたので、正直にいうと、米国は日本ほど、CASEについて騒いでいないと感じている。EV(電気自動車)についてはもちろん、環境対応ということで、カリフォルニアが最も進んでいて、ロサンゼルスに行くと、その流れを肌で感じることができるが、住んでいたニュージャージー州では、その動きは現場感覚としてそれほど感じていない」。これが電動化に対する中村専務の感じ方だ。

その他の部分については「シェアリングも都市部での限定的な話。自動運転も日本の方が進んでいる。ただ、コネクティッドについては米国が最も進んでいる」との認識を示す。

この話を受けて吉永社長は、「温度差は結構、大事かもしれない。これから先、おそらく、自動車会社は、ものすごく大きなグローバルな会社は別とすると、どこを主戦場とするかによって、戦略が多少、違ってくる。スバルは米国と日本、特に米国で3割くらいなので、それを含めた温度差ということであれば、逆に中村さんの温度の方が大事かも」との感想を口にした。

  • スバルの吉永社長

    急速に事業規模を拡大するスバルを率いてきた吉永社長

スバルでは現在、新体制で夏ごろに公表すべく新たな中期経営計画を作成しているところ。その中にはCASEに対する立ち位置の取り方も明記されるはずだ。中村新社長は中計の中身を議論する中で、「日本と米国にいた私とでは温度差があると思うが、こちら(日本)の状況にもっとキャッチアップして、しっかりと学んで、きっちり対応したい」と話していたが、新しい中計では、米国の現場を知る中村新社長の“温度感”も感じたいところだ。