小豆を主原料とするようかんは、お茶請けにぴったりな昔ながらの素朴な和菓子。抹茶で色を付けたものや、さつまいもや栗を加えたものこそ珍しくないが、洋の素材と組み合わせたものが登場するようになったのはつい近年だと思っていた。しかし、実のところ、昭和34(1959)年の販売開始以来、長年愛されている「チーズ羊羹」なる北海道銘菓が存在するらしい。
息子の遺言を叶えるべく考案
製造しているのは、北海道安平町の「早来かりんず」。道産チーズ発祥の地である早来(市町村合併前の地名)特産チーズを使った和菓子を作り続けている製菓メーカーだ。安平町(旧早来町)のチーズ生産の歴史は長い。昭和8(1933)年には、雪印メグミルク(現社名)が経営する日本初の大規模なチーズ専門工場もあったという。
早来駅前で製菓店を営んでいた同社(旧店名 東洋軒 宮本製菓)に、あるとき不幸が舞い込む。跡を継いだ長男・宮本清一氏(現社長の実兄)が病に倒れて急死してしまったのだ。その際、母親に遺された言葉は、「早来はチーズの町だ。なにかチーズを使った町の銘菓を作ってほしい」だったという。
息子の遺志を叶えたい一心の母・千代さんだったが、実はチーズが苦手。しかし、それを逆手に取って、「自分のようにチーズが苦手な人でも、栄養価が高いチーズをおいしく食べられる銘菓を作ろう」と奮闘。試行錯誤の末に完成させたのが、くだんのチーズ羊羹なのだ。
チーズだけど渋めのお茶がいい
販売がスタートしたのは昭和34(1959)年。昭和40(1965)年には、全国菓子博覧会にて名誉大賞を受賞して北海道銘菓として認められ、以来、60年近くにわたって多くの人に愛され続けているロングセラーである。
原料には、国産の小豆、砂糖、寒天といったオーソドックスなようかんの材料と、北海道産チーズを使用。チーズはようかんに混ぜ込むと離水しやすいため、開発当初の製法に倣い、今でも半手作業で製造しているという。
無添加で優しい味わいの一品ゆえ、渋めの温かいお茶と好相性。寒い時期には、ようかんを軽く湯煎して温めると、チーズの風味が深まり、心も身体もたっぷり癒やされるんだとか。
2014年からは、JR北海道企画「とかちスイーツライン」JR追分駅の目玉ご当地スイーツにも採用されている銘菓、北海道を訪れた折にはぜひ味わってみてほしい。