「きびだんご」と言えば、日本人なら誰もが知る「桃太郎」でおなじみの食べ物。その形は、岡山名物のもち粉やきび粉を使用した丸い餅を思い浮かべる人が多いだろう。しかし、その昔、街によくあった駄菓子屋さんなどでは、平べったい板状のきびだんごが売られていた。実は駄菓子屋のきびだんごは岡山のそれとは由来を異にする、北海道で生まれたお菓子なのだ。
きびだんごは「起備団合」だった!
今回はこの北海道のきびだんごについて、北海道七飯町のきびだんごメーカー「天狗堂宝船」の代表取締役である千葉仁さんに話を聞いてみた。
「北海道のきびだんごは、北海道開拓にあたった屯田兵の携帯食をもとに大正12年(1923)に発売されたものなんですよ」と千葉さん。開拓時の助け合いの精神と、その年に起きた関東大震災復興の願いを込め、事が起きる前に団結して助け合うという意味で「起備団合」と名付けられたのだという。
北海道のきびだんごは、餅粉や砂糖、水飴などの原材料を熱を加えながら混ぜ合わせて餅状にしたもの。「平べったい形をしているのは持ち運びやすいため。包み紙の端を破れば、包装されたままで中身だけ食べることができます」(千葉さん)。あの特徴的なオブラートは、きびだんごと包装紙がくっつくのを防いでいるのだという。なるほど、あの形状にはちゃんと理由があったのだ。
いざという時のために備蓄しておけるように日持ちがいいのも特徴で、同社のきびだんごは製造日から180日間常温で保存できる。弾力感がありつつもスッとかみ切れる絶妙な柔らかさとほどよい甘さ、そして腹持ちの良さが特徴だ。
きびだんごから派生した商品たち
同社は昭和28年(1953)にカステラを主力商品として創業。その後、新展開を求めて昭和43年(1968)にきびだんごの製造を開始した。当時は同業他社が道内に6~7社程度あったが、現在は同社を含めて2社を残すのみとなっている。昔は農繁期の期間従業員の休憩時のお茶請けとして欠かせない存在で、時期になると農協から毎週2,000個もの注文があったというが、時代の流れとともに減っていったという。
だが、千葉さんの顔は明るい。というのも、北海道のきびだんごを作ってきた伝統の技術を生かした、ユニークな商品展開が功を奏しているからだ。京都宇治抹茶を使用した「抹茶餅」は、海外での抹茶ブームを受けてアメリカでの販売が決まった。
国内では、ほっくりしたくるみの食感とあっさりとした甘さが人気の「匠のくるみもち」(100円)が、ローソン各店で取り扱われており、セブン-イレブンでも東日本の店舗で1月下旬より棚に並ぶ予定だ。さらに、北海道産のきなこを黒蜜味のオブラートで包んだ「黒蜜きなこ餅」(100円)、冬期(10月~3月)限定の「甘酒餅」(100円)などの各種フレーバー商品や、桃太郎のお面付きの「鬼たいじ一口きびだんご」(250円)など、ラインナップは幅広い。
北海道開拓時に生まれたという北海道のきびだんご。その開拓精神を受け継ぎ、まだまだ進化を続けていくようだ。
※記事中の情報・価格は2014年12月取材時のもの。価格は税込