日銀やECBは流動性のアンカー役を降りるか

1月22日にIMF(国際通貨基金)が発表した世界経済見通しによると、世界経済は18年、19年と2年連続で3.9%の成長を達成する見込みだ。これは、リーマンショック後の落ち込みから反発した2011年以来の高成長ということになる。

そうした状況の下で、世界の中央銀行は金融政策を極端な緩和から正常化しつつある。

米国のFRB(連邦準備制度理事会)は15年12月以降に5度の利上げを実施。国債等を購入するQE(量的緩和)は2014年10月に停止しており、17年10月からは再投資の一部停止という形で保有国債の残高を徐々に減らし始めている。18年も3回程度の利上げが予想されており、また再投資の停止額は段階的に増大する(=保有国債の減少ペースが速まる)。

BOE(英国中央銀行)は、16年6月のBREXIT(英国のEU離脱)決定直後に0.25%の利下げを実施。17年11月に同幅での利上げによってそれを巻き戻した。そして18年内に追加利上げが視野に入る。英国とEUの間で行われているBREXITの交渉次第では経済に悪影響が出かねない。一方で、消費者物価上昇率は、総合も、食料とエネルギーを除くコアもBOEの目標とする2%を超えており、金融政策は慎重ながらも利上げ方向だろう。

BOC(カナダ中央銀行)も、2015年に2度実施した利下げを17年の2度の利上げで巻き戻した。さらに、18年に入って早々に追加利上げに踏み切った。17年後半以降の原油価格の上昇が背景にあり、米国とカナダ、メキシコによるNAFTA(北米自由貿易協定)見直し交渉の行方を懸念しつつの利上げだった。

その他、16年まで断続的に利下げをしたRBA(オーストラリア準備銀行)やRBNZ(ニュージーランド)も、18年後半に利上げ方向に政策転換する可能性がある。

とりわけ注目されるのが、ユーロ圏のECB(欧州中央銀行)や日本銀行の金融政策だろう。いずれも、一部でマイナス金利を採用しており、かつQEを継続中だ。つまり、世界のマーケットに流動性を供給するアンカー役を担っているとも言える。

もっとも、ECBは17年10月の理事会で、QEを18年9月まで延長しつつも規模を半減させた。18年1月25日の理事会では、金融緩和の維持が決定され、直後の記者会見でドラギ総裁は金融緩和継続の必要性を訴えた。しかし、その直後にも、QEは早期に終了すべきであり、その時期を明示すべきとのECB幹部のコメントがメディアを賑わせている。市場では、利上げは19年半ばまでないとの見方が支配的ながら、QE終了の方針が明らかになれば、「次の一手」としての利上げが嫌でも意識されるだろう。

一方、BOJ(日本銀行)は、頑(かたく)なに16年9月に導入した「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続している。1月23日の金融政策決定会合の終了後の記者会見で、黒田総裁は「出口を検討する段階には至っていない」と明言した。日銀の国債購入額が減少している点についても、いわゆるステルス・テーパリングとの指摘に対して、「日々のオペは実務的に決定されるのであって、先行きの政策スタンスを示すことはない」と一蹴した。そして、1月31日には長期金利の上昇に対して、国債購入額を半年ぶりに増額して金利上昇を抑制する姿勢を鮮明にした。

現時点で、日銀は流動性のアンカー役を降りるつもりはなさそうだ。ただし、他の主要中央銀行が金融政策を正常化しつつあるため、BOJの一挙手一投足が金融政策の正常化に向けた「地ならし」ではないかと疑いの目で見られる可能性はある。ましてや、3月には両副総裁、4月には黒田総裁の任期が満了する。再任の可能性はあるものの、主役交代による政策変更の可能性も市場では意識されるかもしれない。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフエコノミスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。