盛り上がりを見せるICOとは?

仮想通貨取引で盛り上がっているのがICO(Initial Coin Offering)だ。ICOについて「仮想通貨を使った購入型クラウドファンディングというのが実態に近いのではないか」と語るのは、主催者のひとりでもある柿澤氏だ。

  • 柿澤仁氏

    柿澤仁氏

  • ICOの市場の状況

    ICOの市場の状況

ICOでは、事業の資金調達のための Whitepaper(事業計画書のようなもの)を読んで、仮想通貨で資金を提供する。事業者側はそれに対して自社発行の独自仮想通貨を返し、最終的には事業計画に沿った製品やサービスを提供するというのが本来のかたち。

現在は独自仮想通貨の値上がりを待って別の仮想通貨と交換して換金して含み益を狙うのがほとんどだという。そのため、柿澤氏も「資金提供社はほとんどが投機目的であり、事業者側は(事業の)実態ができておらず、詐欺のような案件も多い」と指摘する。

  • 柿澤仁氏Ethereumのような急騰するケースもある

    柿澤仁氏Ethereumのような急騰するケースもある

株式による資金調達に比べて個人でもできるなど一見ハードルが低く、グローバルで資金調達できるように見えるし、過去には8万%増と膨大な値上がりをした例もあるが、「難易度は高い」と柿澤氏は強調。ICOにはいくつかの種類があるが、事業収益分配型は各国で禁止され始めており、日本でも「必要な免許や登録無しに実施すると金融商品取引法違反になる恐れがある」と注意を促す。

  • ICOの種類

    ICOの種類

  • それぞれに関わる法律や税務の状況

    それぞれに関わる法律や税務の状況

このような状況のICOでは、税務上の扱いが難しいのが現状だ。独自仮想通貨の発行側に対する法人税は、「税務上決まっていないので、現在の原則に当てはまる」と柿澤氏。その原則に従えば、「返金義務は負わず、預かり金ではない」「事業遂行、サービスの完成・納品義務もない」「配当権も議決権もほとんどないので資本ではない」「基本的には寄付と同じ」ものが多いという。ただし、ICOの案件ごとに内容が異なるため、個別の案件ごとに判断する必要がある。

国際課税 研究家の見解とは?

これらを踏まえ同セミナーでは、国際税務が専門の税理士である柳澤賢仁氏と仮想通貨と国際課税の研究家である安河内誠氏を加えたパネルディスカッションも行われた。

その中で沼澤氏は、課税されるから仮想通貨を売却しないという人は多く、期末時点での利益評価は難しいと指摘。安河内氏は「仮想通貨を売却せず含み益があるだけでは個人には課税がないので申告はいらないが、トレードを頻繁にしている人など仮想通貨を売却したときには(利益が)確定して申告が必要になる。その利益をどのように計算するかは大きな問題」と話す。

ICOのコンサルタントでもある柿澤氏は、「ICOしないで普通に資金調達した方がいいという案件がほとんど」だという。簡単に資金調達しているように見えるICOだが、「準備期間に半年とかかかり、資金調達は2日」とセンセーショナルに見えるだけで実際は難しいと指摘。さらに、「日本では税務メリットがほとんどないのでまったくオススメしない」というのが柿澤氏の判断だ。

ICOの税務上の扱いの難しさは、発行した独自仮想通貨が収益、負債、資本のどれに当てはまるか、という点にも表れている。「日本の税制上は資本にならないので収益か負債。課税されたくないだろうから、いかに負債に持っていくかが議論になる」と柳澤氏は語る。

さらに、仮想通貨取引の捕捉性について、柿澤氏は「追跡するのは簡単ではない」と しつつ、日本人は日本の取引所を使うことが多く、ブロックチェーンで追跡することで「ある程度推測できる。遅かれ早かれかなりの精度でトレースされると思った方がいい」と指摘する。

沼澤氏はこのほか、仮想通貨の取引自体ではなく、別の問題を契機に仮想通貨取引の利益が判明して追徴課税を課せられることもあると警告。所得隠しではなく、申告したいけどやり方が分からないなどの理由で申告しない人が多いとしつつ、「延滞金を払ってでも過去分を申告した方がいい」と注意を促した。