仮想通貨「ビットコイン(Bitcoin)」から分岐する形で誕生した新通貨「ビットコインキャッシュ(Bitcoin Cash)」の取引が8月1日よりスタートした。原稿執筆の8月2日昼過ぎ時点(日本時間)での取引価格は420-440米ドル前後で、初日の取引ではやや激しい動きを見せている。一方の分岐元となったビットコインは2700米ドル台前半で推移しており、分岐直前の7月31日と比較すると若干値を下げている。

新仮想通貨「ビットコインキャッシュ」誕生

今年2017年前半にビットコインの分裂が騒がれ、特に8月1日に実施が宣言されていたUASF (User Activated Soft Fork)のソフトフォーク(Soft Fork)では分裂にまつわる取引の大幅な混乱が予想されていた。そのため、直前の5-7月には取引価格が乱高下する現象が見られたほか、混乱回避のためにほとんどのビットコイン交換所が8月1日以降の取引をいったん凍結する方針を示すなど、新聞やTVなどでもたびたび大々的に経過が報じられることとなった。最終的に、UASFで宣言されていたソフトフォークによる分岐は、分裂騒動の発端となっていたビットコインの大手マイナー(採掘者)らが同意する形で7月23日に実施が前倒しされ、特に混乱もなく交換所らでは翌日以降の取引を再開している。

今回ビットコインで発生した分岐は、当初騒がれていたUASFによるソフトフォークではなく、一部大手マイナーらUASFに対抗する形で実施を宣言していたハードフォーク(Hard Fork)によるものとなる。ビットコインではその送金システムを維持するために、マイナーと呼ばれるマシンの計算能力を提供する集団が存在している。マイナーは送金処理の検証(マイニングまたは採掘という)の報酬としてビットコインと送金手数料をもらえる仕組みとなっているが、現状のビットコインは送金処理がなかなか完了しないなどネットワークの処理能力面で限界が見えており、より世間でのビットコイン活用を促して報酬を得るためには仕組みの改善が急務となっている。この方針を巡ってビットコインのソフトウェアを開発する集団と、マイニング報酬をビジネス化している「マイニングプール」と呼ばれるマイナーの大手互助会らの間での意見対立があり、2016年末ごろからたびたび分裂の危機が騒がれるようになったという背景がある。

UASFは、処理能力の問題を解決するために開発側が導入したSegwitというソフトウェア上の仕組みをマイナーが受け入れなかったことで、これを強制するために一部ユーザーらの間で宣言されたものだ。一方で、一部大手マイニングプールらはSegwitの導入を嫌い、代わりに「ブロック」と呼ばれるビットコインの取引台帳をまとめた10分あたりの取引単位を従来比で8倍まで拡張する仕組みを提案しており、これは「Bitcoin Unlimited」などと呼ばれていた。

ビットコインではブロックという単位で取引を管理し、この過去の記録を連鎖する形でつなげていく「ブロックチェーン(Blockchain)」という仕組みで成り立っている。Segwitを導入する際のソフトフォークという方式では、たとえマイナーの一部がSegwitを利用していなかったとしても、時間の経過とともに自然に1つのチェーンへと収束していく性質がある。一方で、Bitcoin Unlimitedが提案していたブロックサイズを拡張する方式ではハードフォークという分岐(フォーク)が発生することが知られている。ハードフォークでは、一度分岐したチェーンは異なる仕様で生成されたブロックは永遠に収束することがなく、実質的にビットコインの分裂が発生する。ソフトフォークにおいてはハードフォークのような永久的な分岐は発生しないものの、UASFの提案はビットコインのネットワークにおいて計算能力の3-4割程度を占める大手マイニングプールらが受け入れておらず、仮にUASF発生していた場合はチェーンが収束せずに混乱が長引くことが予想されていた。

最終的にSegwitを導入する案を盛り込んだ「Segwit2x」を大手マイニングプールを含む関係者らが5月に合意したことで、Segwit導入にまつわるソフトフォークの実施が7月23日へと前倒しされ、多くの混乱が予想されたUASFを回避することが可能になった。ただ、Bitcoin Unlimited自体は合意によってハードフォークの提案を取り下げたものの、大手マイニングプールの1つである「ViaBTC」は「ビットコインキャッシュ(Bitcoin Cash)」の立ち上げを宣言し、8月1日のマイニング開始を発表した。ビットコインキャッシュは基本的にBitcoin Unlimitedが主張していたブロックサイズの拡張を仕様に盛り込んでおり、永続的なハードフォークが発生することが予想されていた。

そのため、ビットコイン交換所の多くではこのハードフォークで発生したブロックチェーンを新通貨「ビットコインキャッシュ」とし、取引単位もビットコインの「BTC」とは異なる「BCC」として割り当てることにしている。ただ、ビットコインキャッシュで生成されるブロックには前日までビットコインとして取引されていた送金記録がそのまま含まれており、ハードフォークの実施により、結果としてそれまで所持していたビットコインの価値がそのまま2つの異なる仮想通貨へと引き継がれる形となる。この場合、既存のビットコイン所持者は分岐後のビットコインの価値だけでなく、ビットコインキャッシュという通貨もそのまま入手できることを意味する。例えば、ビットコインを交換所に預けていた人が、ビットコイン分裂後にビットコインキャッシュも得られるかは、交換所の方針による。

なお、Segwit2xではビットコインの「Bitcoin Core」ソフトウェアを開発するメンバーらが導入を反対している「ブロックサイズの2倍拡張の半年以内での実施」という同意が含まれており、実はビットコイン分裂にまつわる混乱はまだしばらく続くこととなる。ブロックサイズの拡張はハードフォークの実施を意味しており、これから年末年始にかけて分裂騒動が再び発生し、新通貨が誕生する可能性が残っている。当面は荒い値動きが予想されるため、このあたりに留意して取引を続けてほしい。