2017年もあっという間に終わろうとしている。この1年間、航空業界も予測を超える大きな変化や事象が見られた。年末にあたりいくつかの2017年の特徴的な出来事の振り返りをしてみたいと思う。

  • 2016年に関空・伊丹空港は民営化され、さらに神戸空港が2018年4月に民営化を経て、3空港は関西エアポートなど3社の企業連合の下で一体運営される

    2016年に関空・伊丹空港は民営化され、さらに神戸空港が2018年4月に民営化を経て、3空港は関西エアポートなど3社の企業連合の下で一体運営される

関空・伊丹に始まり、南紀白浜までも

2016年の関空・伊丹空港のオリックス・バンシ連合の関西エアポートへの経営移行を皮切りに、仙台空港(東急電鉄グループ)の運営委託が完了、2017年度に入って高松空港が三菱地所グループに委託決定、2018年4月頃には福岡空港、静岡空港(県営)の事業者が決まる。その後には、北海道7空港、熊本空港、広島空港の民営化プロセスが進んでおり、長崎空港(県)もコンセッションに前向きな方針を打ち出している。

また、その合間を縫って南紀白浜空港の運営権委託も公表された。これは一種異様な状況を呈しており、11月21日に募集要項を公表し、一次応募の締め切りが2018年1月5日と、実質的な応募検討期間が1カ月しかない。同じ県営空港の静岡空港の、「3カ月+募集要項公表前の応募候補者に対してマーケットサウンディング」と比べても極端に短い。

本来であれば、それなりの準備期間を応募者に与え、より質の高い提案を求めるのが当然と思えるが、なぜあえて準備期間を短くするのか、和歌山県の意図が分からない。実際、応募側の側からも戸惑いや「どこかと政治的に話がついているのでは」との疑心暗鬼の声が各所から聞こえてきている。このような不透明感を醸し出す選定プロセスは今後取られるべきではないし、国による十分な監視・指導がなされることを願いたい。

福岡・北海道、既存事業者の扱いを懸念

本題に戻すと、まず当面の福岡空港は激戦である。二次に残った3グループがこれだけ応募スキルが成熟してきている中で、どこでどのように他を差別化する提案ができるかが難しくなっているだけに結果が興味深い。単なる運営権対価額だけでなく、混雑空港のオペレーションをどのように進化させるのか、新たな切り口はあるのか、今の福岡空港に足りないものが何なのか、などにしっかり切り込み、解決策を提示できるかが勝負となろう。

  • 福岡空港は2019年4月に民営化予定

    福岡空港は2019年4月に民営化予定

その際にどこの空港でも言えることだが、「既存事業者」にはどうしても不利がつきまとう。現在の空港運営に足らざるところを明確化し、改善しようとすれば、それは過去に既存事業者が行うべき努力を怠っていたと指摘されることに他ならないからだ。新しい民間の知恵を借りると言っても、一般論として「既得権益を他人に取られたくないだけでは」との憶測もされ、やはり、空港は既存事業者に任せるべきという世論やロジックを形成することは難しい。

新千歳空港においては、現空港会社の運営するいくつかの収益事業がコンセッションの対象となる空港運営新会社から切り離され応募側の親会社に残っているなど、来春の募集要項公表に向けて国による是正が待たれる事項もある。これらを乗り越えて、「地元連合」が運営権を掴めるのか、当局および有識者の判断を見守りたい。

新技術や二次交通を整えるために

今後の各空港での運営権者決定に向けて勝負を分けそうな事項を列挙して見ると、チャンギ空港新第4ターミナルや仁川新ターミナルで披露された無人チェックイン・手荷物カウンターなどに見られる「ロボット、AI等によるオペレーションの省力化・効率化」は、全国の空港に共通する今後10年間の課題と言える。

また、政府が推進するインバウンド旅行者の増加を支えるためには、自分の空港や県だけでなくその先の旅行・滞在体験を多様化させる他県・地域と連携した観光商品を外国人に認知させること、そのための営業ツール・手法を具体的に示して見せることも重要だろう。

  • 仁川空港第2ターミナルは2018年1月18日に開業する

    仁川空港第2ターミナルは2018年1月18日に開業する

加えて、二次交通の整備は旅客を創出させる航空会社・旅行会社にとって、非常に大きな課題である。これを実行できるのは地元のライセンスを持つ鉄道・バス運行会社に限られるため、地元事業者を持たない応募者には非常に不利な要素となる。他県連合としては、地元交通と連携してこう改善するという案が通れば、地元はコンソ組成の経緯にこだわらず、それに恬淡(てんたん)と応じる度量と貢献意識が求められる。

空港収入の再構築に柔軟さを

また、今後の空港収入のあり方も、特に福岡・北海道では議論となろう。着陸料はじめ、空港使用料の柔軟化は新規エアライン・旅客の誘致の上で欠かせない。他方、空港収支を支える基本収入は必要であることから、旅客が空港サービスを利用することへの対価を投資とサービスに見合った使用量に設定して旅客から徴収するシステムの再構築は、必須の課題である。

「PSFC(旅客サービス施設使用料)は空港設備投資の回収ロジックで厳格に説明できるものでなくては認めない」という、現在の国の姿勢は民営化の進行につれて実態に合わなくなってきている。このことを踏まえ、国は「課金体系の適切な合理性を監視する」くらいの柔軟さを運営権者に与えることが必要と言えるだろう。

  • 新規エアライン・旅客を誘致するために、空港収入のあり方も再構築が必要

    新規エアライン・旅客を誘致するために、空港収入のあり方も再構築が必要

「コンセッションにおいて運営権対価の入札額そのものがまずは評価されるべき」との考え方は否定しないが、事業運営計画の質と実現力、実効性ある地元貢献策などの提案事項をきちんと評価する仕組み(採点基準等)を再構築し、民営化後の委託事業者による空港運営が最善なものとなるような改善・改革が常に行われるべきではないだろうか。「コンセッションバブル」によって入札価格が暴騰し、「カネと需要数字を積んだものが勝つ」状況を変えないと、「民営化は結局財務省のため」ということになりかねない。

筆者プロフィール: 武藤康史

航空ビジネスアドバイザー。大手エアラインから独立してスターフライヤーを創業。30年以上に航空会社経験をもとに、業界の異端児とも呼ばれる独自の経営感覚で国内外のアビエーション関係のビジネス創造を手がける。「航空業界をより経営目線で知り、理解してもらう」ことを目指し、航空ビジネスのコメンテーターとしても活躍している。スターフライヤー創業時のはなしは「航空会社のつくりかた」を参照。