――お2人を「仮面ライダー」の世界に引き入れたキーマンといえば、東映の大森敬仁プロデューサーですが、大森さんとご一緒にお仕事をされた印象はいかがですか。

高橋:頭の回転がすごく早い方だと思いましたね。とても仕事がやりやすい一方で、せっかく書いてきた原稿を容赦なくバッサリいかれるときもありました(笑)。それは、『エグゼイド』の物語をより面白くするための「かじ取り」なんですけれどね。常に作品の全体像や、ここから先のことが見えている人なんだと思っています。

武藤:出会ったときの印象は、忙しい人だなあと。それは『エグゼイド』を作りつつ、同時に『ビルド』の企画を立ち上げていたからだったんですけれど。一緒にやってみて思ったのは、非常にクレバーというか、高橋さんがおっしゃったように物事を常に俯瞰で見ることのできる方だということです。シナリオを書く側としては、世界観に没入していく、物語に入り込んでいく部分があるのですが、大森さんは常に「視聴者の視点」でどう見えるかを突き詰めてくるんです。ただ、意外と脚本家の「やりたいこと」を壊すことなく、ホン(脚本)を読んで「こいつはこういうことをやりたいんだな」と理解し、やるためには「こうしたらいいんじゃないか」と、プラスの考え方で変えていくことが多いですね。現在のホン作りに関しては、あらかたこちらのほうで固まったものを提出して、テーマとか全体のバランスを見るなどして、「ここは膨らませよう」とか「ここは狭めよう」といった具合にトータルバランスを尊重しつつ修正意見を言ってくださるので、安心して仕事をしています。

――1年間を通して、ネタのバランスといいますか、例えば数多くある「謎解き」のタイミングなどを大森さんと話し合われるなんてことはありますか?

武藤:そこはもう、こちらに任せてもらっている部分が大きいですね。『エグゼイド』のときもそうだったかもしれませんが、変にもったいつけないというか、見せるべきものはどんどん見せていこうという感じでやっています。後のことは後になってから考えればいいんだって。

高橋:そういうところは確かにありますね。

武藤:大きなストーリー構想は最初に出来ているので、それをどうやって見せていくかが毎回のシナリオの重要なところなんです。例えば、このネタは第20話あたりじゃなくて、第2話でやろう!とこちらが提案したとき、大森さんからは「いや、それは第20話じゃないですか」とはならず、第2話でやるのならここをこうしたほうがいいという意見が出てくる。こっちの考えに乗っていただいた上で、より効果的な見せ方を考えてくれるんです。こういったさじ加減は、「仮面ライダー」や「スーパー戦隊」をずっと手がけておられる経験値の大きさとして実感しています。

――高橋さんにおたずねしますが、例えば『エグゼイド』のとき、当初考えていた構想と実際の展開が異なってしまうことがあったりしたでしょうか。

高橋:大まかに1年間を4クールに分け、各クールでこういう内容をやるという構想は固まっていましたが、実際に各話ごとにどういうストーリーにしていくかは、その前の話がどういう仕上がりになるかによって、まったく違ってくるんです。だから、最初にいくら決めていても、予定どおりに進まないことがあります。お客さんたちの反応を見ながら、面白がってくれるポイントはここだと気づかせてもらったりすることで、このキャラクターをもう少し見せていこうという考えになることも。新たな発見があることにより、波に乗りながら作っていくというやり方ですね。

『エグゼイド』に関して言えば、キャラクター設定、人物造形を作る際に、最初の段階でこの人物はこういうものを背負って、こういう信念に基づいて戦っていると決めた時点で、キャラクターの行きつく先が決まっているような気がするんです。もちろん各話ごとの展開など、紆余曲折があると思いますが、第1話のときに言っていた言葉が、第20数話のこの場面につながるなど、キャラクター設定がしっかりしていると必然的に生まれてくるものなんです。各話のストーリーに関しては、次の放送日までの1週間、お客さんに視聴意欲を保ってもらうというのはけっこう大変ですから、1話1話にしっかりと、1週間ぶん悶々としてもらえるようなドラマ的「爆弾」を投げつけていきたいと思って、書いていましたね。

――さて一方の『ビルド』は、第1話の放送開始から2か月という時点(12月10日で第14話を放送)で、戦兎、龍我をはじめとする各キャラクターの動きが驚くほどアクティブに進んでいることに驚かされます。喫茶店のマスター・石動惣一の宇宙飛行士としての過去や戦兎が記憶を失くす以前は佐藤太郎という人間だったかもしれない、など早々に明かされながら、その段階で新たな謎が生まれていくという超・ミステリアスな展開、そしてハイテンポで繰り出される各キャラクターのセリフの応酬に見られるように、全体的な情報量の多さに圧倒されてしまいます。

武藤:最近、よく言われるんですよ。「この番組、1年あるんですよ。大丈夫ですか」って(笑)。もちろん、何も考えてないわけではないです。テンポが速い、展開が速いというのは、僕が今までやってきた大人向けの連続ドラマのスタイルがそうだったというのがありますね。新人のころ、監督から「第5話でやることを第1、2話で見せ切ってしまうのがお前のスタイルだから。(従来の)連ドラの速度に染まるなよ」と言われたことがありました。そういう部分が自分の個性だと思っていたんですけれど、「仮面ライダー」でも同じことを言われて。「ああ、ちゃんと自分らしさというものはどんなジャンルでも出てくるものだなあ」というくらいの感覚ですね(笑)。『エグゼイド』を観て、あの情報量の多さが面白かったので、よけいに展開が早くなっているかもしれません。「もっと速くしてやろう」と思っていましたから(笑)。

日曜日の朝に放送するということすら意識していなかったんですよ。でも、ちょっと目を離したら細かいセリフや画面情報が分かりにくくなるような作り方をしていると、お休みの日の朝、ぼんやりした気分で観ている人がいる中で、どうなんだろう?という思いも生まれました。でも、今の「仮面ライダー」自体が、オンエア一度きりじゃなくて配信や録画で何度も繰り返して楽しむというスタイルになってきていると思うんです。自分の中でもそういう気持ちがあって、1回目はビルドやクローズのヒーローとしてのカッコよさを純粋に楽しんでいただいて、2回目、3回目に観るときにストーリーのほうに入りこんでもらって、また新しい印象を持ってもらえればいいかなと思っているんです。