2匹の鯛でたい焼きが立つ

海岸通りから歩道橋を渡り昭和通りに入ると、白い石造りの「旧新橋停車場」があります。日本最初の鉄道として明治5(1872)年、新橋横浜間を走った始発駅で、現在は「旧新橋停車場 鉄道歴史展示室」として鉄道と新橋の歴史を学ぶことができます。建物を回り込むと、当時のプラットフォームが再建されていて、ビルの谷間にノスタルジックな光景が広がります。そろそろおなかが空いてきました。「銀座たい焼き 櫻屋本店」を目指しましょう。

「銀座たい焼き 櫻屋本店」は、新橋一丁目交差点そばにあり、赤ちょうちんが目印。焼いているところをのぞいて見ますと、「わ! 2匹の鯛であんこをサンドしているぅ!」たい焼きと言えば、衣の中に餡があるものですが、こちらの「たい焼き 厚焼き」(190円)は、鯛(生地)2匹で餡を挟む形。ボリュームに驚きつつ、迷わず2個注文しました。

  • 「たい焼き 厚焼き」(190円)は眺めているだけでも幸せな気持ちになってきます

    「たい焼き 厚焼き」(190円)は眺めているだけでも幸せな気持ちになってきます

定番の「たい焼き 薄焼き」(150円)や「小たい焼き」(6個1セット360円)もおいしそう。人気は「薄焼き」のようで、1日300匹出ることもあるとか。それでも、看板「厚焼き」も1日100匹になることもあるそうです。平日は25時まで開いているので、飲んだ後に立ち寄るお客さんも多いみたい。たい焼きを片手に、次の目的地「烏森神社」を探します。

●information
銀座たい焼き 櫻屋本店
住所: 東京都港区新橋1-11-5
営業時間: 12:00~25:00(土曜日は~21:00、日曜日・祝日は~20:00)
定休日: なし

忙しない新橋で厳かな気持ちに

新橋駅前SL広場に出てニュー新橋ビルを見上げつつ探索。地図で見ると神社はこのあたりだけど入り口が分からない。ふたりでくるくる回ってようやく小道を発見。飲食店やbarが軒を並べる奥に「烏森神社」はありました。

「烏森神社」は、平安時代天慶3年(約1,000年前)に平将門が東国で叛乱を起こした際、征討将軍・藤原秀郷が当社に戦勝を祈願したとも、このとき勧請したとも伝えられており、主神に倉稲魂命(ウガノミタマノミコト)、相殿に天鈿女命(アメノウヅメノミコト)、瓊々杵尊(ニニギノミコト)を祀っています。必勝祈願、商売繁盛、技能上達のご利益があるそうです。芸能の神、天鈿女命(アメノウヅメノミコト)を祀る数少ない神社のひとつとのこと(出典: 烏森神社公式ホームページ)。

ビルに挟まれた小さな神社ですが、とてもモダンな佇まいです。烏のお守りや御朱印状がカラフルでかわいい! お参りしてから、鳥居の下で先ほどの「たい焼き 厚焼き」をいただきます。生地と餡が別々なので、生地の香りと餡の甘みがふんわりと口に広がります。

おいしい~。ふたりでパクパク食べていますと、次々と鳥居をくぐっていく人たち。クラッチバッグに粋な服装、どの人も鳥居の端できちんと一礼して入ってきます。おそらくですが、地元の商店主の方たちではと推測。商売繁盛の神さまとして地元の信仰がうかがえる場面でした。小腹も落ち着いたので、今日の最終目的地「芝新橋 おそば 能登治」を目指します。

●information
烏森神社
住所: 東京都港区新橋2-15-5

変わりゆく新橋で変わらぬ味を

「芝新橋 おそば 能登治」は、幕末の安政年間(1854~60年)、赤坂界隈で創業と伝えられ、当初は「能登屋」と名乗ったが、2代目の明治16(1883)年頃に新橋の現在地に移転し、屋号も「能登治」に変わったとのこと(出典:芝新橋 おそば 能登治)。こちらでは、北海道産100%の胴搗そば粉を8割に、厳選した北米産100%の小麦粉をつなぎにした二八そばを提供しています。

大きなビルの1階が店舗となっていて、歴史を感じさせる看板をくぐり店内へ。「いらっしゃいませ~」とご主人が明るい声で迎えてくれます。総ひのき作りの店内は、天井がとても高く開放感があります。店内は4人がけテーブル5つ、2人がけ1つ。

4人がけテーブルに座り、シラサキは「桜おろし」(1,400円)を。担当Mさんは「鴨せいろ」(1,300円)をいただくことにしました。待っている間、隣の席ではおじさまたちがまったり飲んでいます。ご近所さんらしく、「烏森神社の氏子さんかなぁ」と勝手に想像。慌ただしい新橋にあって、どこかゆっくり時間が流れています。

お蕎麦が運ばれてきました。「桜おろし」は、桜えびの天ぷらに辛み大根を添えた冷たいおそば。海老の香りと大根の辛味が細い蕎麦に絡まって、爽やかに喉を通っていきます。おいしい~。上品な蕎麦つゆの香りも存分に楽しめます。担当Mさんの「鴨せいろ」も一口いただきます。あぁ、おいしい~。こういうお店が近くにあるとうれしいなぁ。

  • 「桜おろし」(1,400円)は、サクサク天ぷらとピリッとしまる辛み大根がいいあんばい

    「桜おろし」(1,400円)は、サクサク天ぷらとピリッとしまる辛み大根がいいあんばい

「ごちそうさまでした~」の後にお時間をいただいて、店主の七尾信昭さんにお話をうかがいました。

担当Mさん「2代目の時に赤坂からこちらに移転されていますが、その当時のことは伝わっているのでしょうか?」

七尾さん「明治16年になんで2代目がここに来たかってぇのは、分からないんですよ。これはぼくの想像ですけど、明治5年に汽車が走ってそれから10年経っているので、次第に街も栄えて、それで移転してきたのかなと。でもはっきりとは分からない」

担当Mさん「代々家族の方でやられていたのでしょうか?」

七尾さん「はい、うち七尾家が家業としてやっていて、僕で6代目になります」

担当Mさん「メニューに『能登治といえば鴨せいろ』とありますが、その由来はあるのでしょうか?」

七尾さん「戦前なのか戦後なのか、うちは比較的早い時期からやってたそうです。この五軒先に大きな鳥問屋さんがあって、早い時期にいい合鴨が手に入ったと」

七尾さん「ぼくの代になって、桜おろしなどの季節のそばを増やしたのですが、その日に捌いた生の鴨をいただけるというので、古くからご支持をいただいていたのだと思います」

シラサキ「新橋の街で、変わったなと思われることはありますか?」

七尾さん「変わりましたよ。どんどんビルになって、小さな喫茶店とか洋服店とか下駄屋さん、布団屋さんはなくなっちゃうんです。ぼくが子どもの頃は芸子さんもいて、今でもすてきなおばあちゃんになって、うちにいらっしゃいますけどね。人は変えられるもんじゃないけど、街の方が変わっていきますね……」

担当Mさん「ちなみに『烏森神社』には?」

七尾さん「うちは氏子ですから。新しい宮司さんになって、きれいになってねぇ」

この後、かわいい御朱印状が大人気で週末行列ができる話、5月の例大祭はゴールデンウィークと重なるけど、例大祭の方が昔からあるなど、明るいお話はつきません。

  • 今回はこんな感じで歩きました!

    今回はこんな感じで歩きました!

お礼を言ってお店を出て、新橋駅を目指します。

●information
芝新橋 おそば 能登治
住所: 東京都港区新橋3-7-5
営業時間: 11:00~20:00(土曜日・祝日は~15:00)
定休日: 日曜日(祭日は不定休)

「なんだかんだで、結構歩きましたね」


「最長のお散歩になりましたね。お蕎麦おいしかった~」


今回はこれでおしまい。知っていると思っている街も、知らない行き方で行ってみるのもいいかも? というお話でした。それではごきげんよう。

※価格は税込

筆者プロフィール: シラサキカズマ

1966年広島県生まれ。筑波大学芸術学群洋画科卒業。1990年よりイラスト、キャラクターデザイン、アニメーションと幅広く活動。「シュール&ピース」なキャラとポップな世界観が特徴。代表作「ミカンせいじん」。オフィシャルサイト「mikan-seijin.com」