エミレーツ航空(本社: アラブ首長国連邦・ドバイ)はこの10月で日本就航15周年を迎えた。2002年10月1日に関空=ドバイ線に就航し、2010年3月に成田=ドバイ線、2013年6月に羽田=ドバイ線に就航。現在は関空・羽田・成田の3空港とドバイ間で毎日運航し、関空=ドバイ線就航から数え、397万人以上の旅客を輸送している。

2015年6月にはエミレーツ専用ラウンジを成田に開設したほか、2017年3月からはエアバスA380を成田=ドバイ線へ再導入するなどの戦略を展開している。今回、日本市場を中心に、これまでの15年間とこれからのエミレーツについて、日本支社長のニック・リース氏に航空会社創業経験もある航空ビジネスアドバイザーの武藤康史氏が戦略に迫った。

羽田線の成長がもたらしたA380再導入

武藤氏: まず、A380を再び導入した背景や意図についてうかがいます。これだけ座席数が増えたことで、戦略やマーケティングをどのように設定し、何が変わるのでしょうか。

ニック・リース日本支社長、1999年エミレーツ航空へ入社し、英国・ロンドン支社にてシニアプイシング・グループエグゼクティブに着任。その後、2001年にはエミレーツ航空ドバイ本社において欧州・北米担当コマーシャル・アナリシス・マネージャーを務め、2005年にギリシャ・アテネ支社にてギリシャ兼アルベニア支社長となり、2009年にはシンガポール支社にてシンガポール兼ブルネイ支社長に就任。2014年11月に現職の日本支社長に着任した

リース氏: 成田へのA380の再導入は、我々の戦略として正しいステップだったと考えています。座席数が増えることになりますが、これは、それだけ需要があがってきたという判断によるところです。最初にA380を成田線に導入した時(2012年7月~2013年5月)、私はまだ日本支社にいませんでした。ただ、当初はA380導入で柔軟な対応ができていましたが、羽田=ドバイ線が決まったことで、それでは座席数が多いのではないという声もあり、一旦取りやめとなったという経緯があります。

我々としては責任のある成長を遂げていきたいという考えがあります。需要があるところ、それだけ成長があるところに、座席数のある機材を導入していきたいと考えから判断していきます。現在では羽田線でも乗客数が増え、成田線を大型化しても需要は見込めるだろうというと判断しました。

座席数の増加と単純に言っても、ファーストクラス・ビジネスクラスの両方をあわせて50席だったものが90席になり、プレミアム料金によってその分、収益も上がります。また、エコノミークラスも304席から399席へと、機体によっては427席と拡大しています。その意味で、A380には我々も大変満足しています。羽田線も需要が高いということで、この夏から羽田→ドバイ線をB777-200LRからB777-300ERに変更し対応しました。羽田も成田も、使える機材の中で最大なものを選択しています。これらは我々の前向きな取り組みと考えています。

セールスという面では、これからどんどん営業活動を増やしていかなければならず、我々にとってはチャレンジと言えます。これはどの航空会社にも言えることですが、夏期ダイヤは比較的渡航客が多く、日本発着も夏は需要も高いです。特に日本は今、インバウンドが伸びているので、エミレーツのネットワークを使って世界の各地から日本に渡航が増えています。その中で、注力すべきは冬期です。日本からのアウトバウンド客を増やすための施策を考えています。

武藤康史氏。航空ビジネスアドバイザー。大手エアラインから独立してスターフライヤーを創業。30年以上におよぶ航空会社経験をもとに国内外のアビエーション関係のビジネス創造を手がけ、航空ビジネスのコメンテーターとしても活躍している。スターフライヤー創業時のはなしは「航空会社のつくりかた」を参照

武藤氏: エミレーツのA380についてうかがいます。最近、エミレーツはA380の受領時期を延期しました。その背景には、企業の成長が緩やかになったとか、原油価格の変動など他社も影響を受けていますが、そういったことがエミレーツの決断にも影響していますか。

リース氏: ここ2年間はエミレーツにとってもタフでした。昨年度の決算を発表しましたが、利益は減りました。今年もタフなものになるでしょう。特に米国路線の運航では、パソコンなどの電子機器の持ち込み禁止については我々のビジネスに多大なる影響を受けました。こういったことが受領時期を延ばしたことに少しは影響していると思います。少しスローダウンしたかもしれませんが、依然として1カ月に1~2機の新しい大型機を受領するなど、今も成長を続けています。

羽田と成田、それぞれに期待するもの

武藤氏: 日本市場に関してですが、セールス・マーケティングポリシーとして、羽田路線と成田路線では違いがあるのでしょうか。

リース氏: 両方組み合わせて取り組んでいる活動ではありますが、ふたつの空港間で旅行客の流れに違いがあると考えています。主に、フライト便の時間帯の違いによるものです。ドバイ着のお客さまなのか、ドバイ以遠に行くお客さまなのか、ということです。成田だと、乗継便を考えてドバイより先に行く人が多く、羽田だと逆に少ない傾向があります。

武藤氏: ドバイより先に行く客とそうでない客の間に、客層の違いなどはあるのでしょうか。例えば、ドバイから先に行く人は旅行客が多いとか、中東までの人にはビジネス客が多いのかということです。

リース氏: それほど顕著な違いがあるわけではないです。ビジネスでドバイまで行く人も多いですが、ビジネス客でもドバイから中東やアフリカ、また、最近では南アメリカなども増えています。加えて、出張目的でエコノミークラスを利用される方も多いです。

我々としては、エコノミークラスはビジネス客だけではなく、休暇で利用する人も取り込みたいと注力しています。我々の機材は座席数が多いということで、欧州からのエコノミークラス利用者も取り込んでいるという状況です。

B777-300ERをA380に置き換えることで、エコノミークラスも304席から399席へと、機体によっては427席と拡大する

武藤氏: 羽田の発着枠について、将来的にはいいタイムゾーンを確保したいという希望はありますか。

リース氏: これは政府間同士で決めることであるのでエミレーツとしては述べる立場にないですが、我々としては両国間で決まったタイムゾーンでできる限り最善を尽くすということです。世界中の空港で1日1便以上を運航することにチャレンジするというエミレーツのフィロソフィーがありますが、夜便のスロットが限られているので、現状、便数を増やすのは難しいと思います。

武藤氏: ドバイ空港のバンク=接続利便も日本初の時間帯によって再度整えないといけない、ということにもなるかと。

リース氏: それも挑戦のひとつです。

JALとのアライアンスも15年周年へ

武藤氏: JALとのセールスのコラボレーションやアライアンスに関して、例えば、組んだ当初からと今とでは何か違いがありますでしょうか。また、その提携内容に関しても何か変更などはありましたでしょうか。

リース氏: JALとのパートナーシップはエミレーツの日本路線就航時からであり、日本の大手航空会社はどちらも、中東・アフリカに路線を持っていません。JALならJALのフリークエントフライヤーのプログラムのお客さまで、JALマケ便(運航会社は別会社でJALがコードを張っている便)を使いたいというお客さまはいます。そうした意味での緩やかなパートナーシップで、少しずつ重要が伸びているという状況です。

また、JALとは定期的に話し合いをしています。日本には東京・大阪だけではなく地方各地に空港があり、そうした地域の空港からのお客さまにもJALと連携して対応していくことが必要になります。一貫して言えることは、パートナーシップが伸びてきている状況です。エミレーツの方針として、国際的なアライアンスに属することはないものの、各航空会社と一対一の関係を築くことが両社にとってメリットがあるということになれば、喜んでやっていこうというポリシーです。

武藤氏: 羽田路線では、JALとのパートナーシップでのメリットをより享受しやすいように思われますがいかがでしょうか。