男の愚かさが現れた

――坂口健太郎さんも、中盤からは特にあまり今まで観られなかった坂口さんの姿でしたね。

切ないですよ、彼は。「なんで俺じゃダメなんだよ」「絶対に俺の方が幸せにするのに」という、よくある男の愚かさが彼にもあって。そういう感情を上手く表してくれたなと思います。監督としても、非常に一緒にやりやすいニュートラルな俳優で、これからも注目していきたいです。現場でも、彼自身が「面白い」と言っていました。たくさんやりようがある役だと思っていたみたいです。

――松本さんと有村さんのラブシーンもかなり印象的でした。

松本くんは『東京タワー Tokyo Tower』で結構激しいシーンをやっていると言ってましたよ。ある程度は指示をして、あとは自由にやってもらいました(笑)。

――松本さん演じる葉山先生は、客観的に見ると”ダメ男”でもありましたね。

この作品、最初にできたのが3時間半のバージョンだったので、いつも信頼している編集にもう少し短くなるように任せたんですよ。そしたら、葉山がすごくスマートな男になってしまって。でも彼は、良かれと思ってやったわけです。「このままだと松本君がかっこ悪いな」と思って、葉山が謝っているところとか、削っちゃった(笑)。

雨に濡れる、スマートなかっこいい松潤の映画になって、「これだったら喜んでくれますよね」と言っていて、職業病なんだけど、「いやいや、違う違う! かっこ悪い方がいいから!」と、最終的にはわかってもらうことができました(笑)。

だってかっこいいやつが「俺のこと好きだろ」と言っていても、「なにその自信!」って心の中で思うんですよ(笑)。でも松本君もそういうイメージを持たれているわけで、そんな松本君を封印するからこそ、面白かったです。

――どういう風に封印されたんですか?

松本君はすごく目が光っているから、今回はメガネをかけてもらって、さらに「眼光を40%にして」とお願いしました。「どういうことですか?」と聞かれたけど、「目にブラインド下ろしてくれれば」というところから始まって(笑)。

実際に撮影開始すると、松本くんが「今やってみたけど、40%って、これくらいですか?」と言うので、「自然だったからいいんじゃないかな」と答えて、その感覚を自分の中に置いていってもらいました。

ただ、ふだんの眼光は40%だけど、気持ちを追い込むシーンでメガネを取ると、自然と松本潤の目になっていきますから。ダメな奴なんだけど、向き合った時に、観客が自然と「やっぱりこの人は自分にとって代えがたいものだ」と思ってしまうんです。葉山は変わっていないのに、観ている方はだんだん泉の気持ちに乗っかれる。そういう気持ちになれるのは、松本潤だからこそですよね。

プロデューサーから「松本君はどうか」と言われなかったら気づかなかったし、もっと大人の色気が溢れている俳優にしてしまったかもしれない。そうすると、ちょっとマッチョな映画、大人すぎる映画になって、着地するところが見えてしまうんです。松本潤だと、着地点が見えないんですよ。それはプロデューサーの手腕ですし、松本君の素晴らしさだと思います。