ウルトラマンシリーズとしては初の試みとなる、360度VR特撮映像『ウルトラマンゼロVR』および『ウルトラファイトVR』の2作品が、10月1日より全国の「VR THEATER」にてリリースされている。VRとは仮想現実を意味し、専用のヘッドマウントディスプレイとヘッドホンを着用することによって360度全天球型の立体映像とステレオサウンドが得られ、自分があたかも別な空間に入り込んでしまう感覚が得られるというもの。これまではテレビのモニターディスプレイや映画のスクリーンの中での出来事だった「ビル街を襲撃する巨大怪獣」そして「怪獣を迎えうつウルトラヒーロー」といった空想特撮映像の世界に、視聴者ひとりひとりが入り込み、その臨場感を「視覚」と「聴覚」で極めてリアルに体験できる時代がついにやってきたというわけだ。

田口清隆監督 撮影:大塚素久(SYASYA)

今回、発表されたウルトラマン「VR」作品は2本。1本目は、ビル街に出現した宇宙怪獣エレキングから人々を守るため、ウルトラマンゼロが勇敢に戦う『ウルトラマンゼロVR 大都会の戦慄 エレキング対ゼロ』(6分40秒)、そしてもう1本は、1970年に放送された『ウルトラファイト』のVR版と言える『ウルトラファイトVR 親子タッグ! 激闘の荒野に花束を』(6分)である。

両作品の演出を手がけたのは、『ウルトラマンX』(2015年)『ウルトラマンオーブ』(2016年)など、近年のウルトラマンシリーズでメイン監督を務めた田口清隆監督。少年時代から『ウルトラマン』『ウルトラセブン』をはじめとするウルトラマンシリーズの大ファンだった田口監督は、「実際に巨大怪獣やウルトラヒーローが出現したら、人々はどのようにその姿を捉えるか」という極めて現実的な視点から画面作りを行い、リアリズムとダイナミズムを組み合わせた意欲的な特撮映像を数多く生み出している。今回のVR作品はまさに「特撮映画のリアル」にこだわる田口監督にとってもやりがいのある仕事だったに違いない。

ここからは田口監督に『ウルトラマンゼロVR』『ウルトラファイトVR』の制作裏話をはじめ、VR撮影の苦労、映像の見どころなどを訊いた。

――田口監督はすでに『ウルトラマンX』などで、人間の視点から怪獣を見上げるカットや、怪獣と人間を同一画面に入れ込むなど、ドキュメントタッチというべきリアルなアングルにこだわりを見せていましたね。今回のVR作品も怪獣の巨大感がものすごく出ていましたが、撮影にはどのような工夫がなされていたのでしょう。

基本はGoPro(ゴープロ)を使用しています。GoProとは小型の高性能カメラで、ハイスピード撮影(スローモーション)ができるのが特徴なんです。『ウルトラゾーン』(2011)のときに自衛隊とキングジョーの戦闘シーンに投入した後、『ウルトラマンX』の第1話で怪獣デマーガの襲撃シーンに使ってみたら、すごくいい画が撮れて、「よし、これだ!」と思った(笑)。

それ以来、特撮の現場でGoProが当たり前のように使われるようになりました。レンズが小さいので怪獣の足元に置けばとても巨大感が出るのですが、広角になりすぎてセットだとホリゾント(背景画)がバレてしまうんです。だから、自然の空を使ったオープン(野外)撮影に向いている。今までGoProで試みていたことの延長線上に、偶然にも今回やったVRがあったんですね。

――もともと、映像の中に視聴者が入り込むかのような画面作りをしていた田口監督だけに、今回のVR映像の演出には力が入ったのではないですか。

確かにVRをやる以前から、人間目線で怪獣を見上げる画を撮ったり、目の前に逃げる人がいて後ろにカメラを振ったら怪獣がいたり、手持ちカメラでワンカット長回しで撮るのが好きでしたね(笑)。要するに「怪獣が出現している状況を体感できる演出」を、常にやろうとしていました。ただ今回のVRでは、360度すべてが同時に映ってしまう関係上、機材などをすべて隠さないといけないので、撮影そのものは本当に大変でした。

――360度撮影の大変な部分というのは、具体的にどんなところでしょうか。

たとえば『ゼロVR』の冒頭で、会議室に集まっている社員たちがビルの窓に映るエレキングを観てびっくりする、なんてシーンがあるんですが、撮影のときは当然エレキングもゼロもその場にいませんから、社員役の人たちは何もないところで芝居をしています。そのとき、監督の僕が映ってはいけないので、机の下に隠れて「あっ、怪獣だ!」とか、みんながセリフを言うきっかけを出しているんです。会議をしているところから、エレキングを見つけて騒然となり、外へ逃げ出そうとする一連をワンカットで撮らないといけないわけで、何回かテストを重ねて、数テイク撮っているんです。

――社員たちが非常口の付近まで来ると、目の前にゼロとエレキングがいて戦っている、という映像も実に臨場感がありました。

人間部分と特撮部分の合成が自然につながって、いいシーンになりましたね。非常口の枠に入ってくれたほうが、やりやすかったんですよ。空間があると、ミニチュアセットの端のほうが見えてしまうので。

――VRならではのシーンといえば、視聴者を中心に置いて向こうにゼロ、反対方向にエレキングが立っているという場面は空間の広がりがすごかったですね。思わずゼロとエレキングを追って、首をキョロキョロ振ってしまいました。

郊外の空き地に、この作品のためだけに高平台を作って、そこに街のミニチュアをありったけ持っていって、360度並べて撮影していました。フル・オープン撮影は、最近のテレビシリーズでもなかなかできないんです。今回はシナリオではなく、最初から絵コンテでアイデアを出していったのですが、普段は思いついてもなかなかやれないようなことをやらせてもらっています。