トヨタ自動車がスポーツカーの新ブランド「GR」を立ち上げた。既存のトヨタ車にスポーツカーの味付けを施して販売するとのことだが、豊田社長は同ブランドの設立を“100年後に向けた戦い”と位置づける。

トヨタは「GR」ブランドで11モデルを投入する

「ヴィッツ」や「86」に新たなモデルが登場

「GR」とは、トヨタでモータースポーツ活動を行っている「GAZOO Racing」の頭文字。トヨタの社内カンパニーであるGAZOO Racing Companyが、ニュルブルクリンク24時間耐久レースや全日本ラリーなどのレース活動で得た知見やノウハウを活用し、既存のトヨタ車に“スポーツカーバージョン”を追加する。

GRシリーズを構成するのは、エンジン内部までチューニングを施した数量限定販売の「GRMN」、GRMNのエッセンスを注ぎ込んだ量販スポーツモデルの「GR」、ミニバンなどにも設定して気軽なスポーツドライブを提案する「GR SPORT」の3つのモデル。具体的には「ヴィッツ」に「GRMN」と「GR」の2モデルを追加し、「86」に「GR」バージョンを新たに投入、「プリウスPHV」や「ヴォクシー」などには「GR SPORT」をラインナップする。「GR」モデルはベースとなっているクルマに比べ、ボディ剛性が高まっていたり、ステアリングの反応が良くなっていたりする。

上段は左から「ハリアーGR SPORT」「ヴィッツGR SPORT」「ヴィッツGR」。下段は左から「ノアGR SPORT」「ヴォクシーGR SPORT」「マークX GR SPORT」「プリウスPHV GR SPORT」。これらのクルマは9月19日に発売となった。「86 GR」「アクアGR SPORT」「プリウスα GR SPORT」は2017年冬、「ヴィッツGRMN」は2018年春に発売予定

気になったのは、「GR」ブランドに連なるクルマが全て既存の車種だということ。「GR」ブランドでブランニューのスポーツカーが登場するかもと期待していたのだが、その見込みは外れた。今後の予定を広報に聞くと、商品計画に関わることなので明かせないと断った上で、新規のスポーツカーが「GR」ブランドで登場するのは現時点で難しそうな情勢と話してくれた。「GR」モデル自体は増えていくらしいが、その方法は新車投入に合わせて用意したり、既存車種に拡げていったりといった具合になるそうだ。

若者とアクティブシニアの双方に訴求、もう1つの狙いは?

では、なぜスポーツカーの新ブランドなのか。「GR」発表会に登壇したGAZOO Racing Companyの友山茂樹プレジデントはプレゼンで、スポーツモデルが比較的若い客層に受けている実態を示すグラフを提示した。既存車種にスポーツモデルを導入する理由の1つは、若い世代の獲得にあるものと見られる。ただし、スポーティーなモデルで取り込みたいのは若い世代だけではなく、「アクティブシニア」世代の顧客にも訴求していきたいとトヨタ広報は話していた。ちなみに広報によると、全車種を合わせた「GR」の事前受注は160台だという。

これまでトヨタが投入してきた、スポーツコンバージョン車シリーズ「G Sports」(通称:G's=ジーズ)やスポーツカー「86」は、トヨタ車全体に比べ購入者に占める30代以下の顧客の割合が高いという

スポーツモデルの導入で、トヨタが自動車販売にプラス効果を期待しているのは間違いなさそうだが、同社が「走り」を前面に打ち出すモデルを追加する理由は他にもありそうだ。それは、最近よく聞く“クルマのコモディティ化”という言葉に関係がある。「GR」発表会に突如として登場した豊田章男社長の言葉からは、クルマを単なる移動手段としてコモディティ化させたくないとの思いが伝わってきた。