あなたは現在、老後の生活に不安をお持ちでしょうか。それとも、老後などずっと先のことなので考えたことはないでしょうか?

平成28年度国民生活に関する世論調査によると、老後の生活設計についての悩みや不安がある人は約35%で、国民の3人に1人に上ります(※1)。その具体的な内容までは調査項目となっていないのですが、「老後資金が十分に準備できない」という不安である可能性は高いものと思われます。

※1 日頃の生活の中で、悩みや不安を感じているか聞いたところ、「悩みや不安を感じている」と答えた者の割合が65.7%いること、「悩みや不安を感じている」と答えた者に、悩みや不安を感じているのはどのようなことか聞いたところ、「老後の生活設計について」をあげた者の割合が54.0%いたことから算出

老後資金はいくら必要?

それでは老後資金は、実際のところ、どれくらい必要になるのでしょう。現在の高齢者の家計から考えてみます。

平成28年の家計調査によると、夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯の場合、実収入の平均は21万2,835円(内、年金などの社会保障給付での収入は19万3,051円)となっています。それに対して、支出の平均は26万7,546円となっており、毎月約5万5,000円の赤字が発生します(図1/※2)。1年間で約66万円となる計算です。この生活が仮に20年続くとすると、老後資金は約1,320万円必要になります。

図1 高齢夫婦無職世帯の家計収支 -2016年- (総務省統計局「家計調査年報(家計収支編)平成28年(2016年) 家計の概要」27ページより)

加えて、21年以上生きた場合、必要額は更に増えていき、これでは「長生き」という本来喜ばしいと思われていることがリスクとなってしまいます。これらの数字を見る限り、私たちの老後の生活も公的年金だけでは足りない可能性が高いです。

そこで今回ご提案したいのは、年金の支給繰り下げを選択するライフプランです。支給繰り下げとは、本来65歳から受け取れる年金を、66歳以降に受け取るようにすることです。

※2 総務省統計局「家計調査年報(家計収支編)平成28年(2016年) 家計の概要」27ページ

年金支給繰り下げのメリット

年金の支給繰り下げのメリットは、毎月の年金額を増やせることです。1月繰り下げると、年金は0.7%増額されます。繰り下げ可能な月数の限度は60月(5年)ですので、増額率の限度は42%となります。そして、増額された年金が、その後一生涯支給されることになります。よって、70歳支給を選択すれば、65歳から支給開始する場合の約1.4倍の年金を毎月受け取れることになります。

上記の家計調査の平均年金額を例にあげれば、19万3,051円の年金が27万4,132円になり、実収入は合計29万3,916円になります。あくまで平均値からの算出なので、全ての人に当てはまるわけではありませんが、こうなると毎月の赤字は発生しなくなり、逆に毎月2万6,370円の黒字とすることができます。加えて、長生きするほど黒字額が増えていく計算になります。毎年、平均余命が延びている現在、「長生きによって老後資金の底がつく」不安から解放されることは、経済上はもちろん精神的にもメリットが大きいと思います。

図2 平均年金額で見た受給総額の比較

その上、82歳以上生きた場合、65歳から年金の支給を開始するよりも総額で多く年金をもらうことができるのでお得です(図2)。平成27年の第22回生命表によると、出生者の半数が生存すると期待されている年数(寿命中位数)は、男性83.76年、女性89.79年ですので、年金の支給繰り下げを選択した場合、半数以上の人は得をすることになる計算です(※3)。

※3 厚生労働省 「第22回生命表(完全生命表)の概況」3ページ

年金支給繰り下げのデメリット

もちろん年金の支給繰り下げには欠点もあります。それは、70歳までの生活費を公的年金以外の手段で確保する必要があることです。高年齢者雇用安定法が改正された現在、希望すれば65歳までは働くことができます。よって、65歳以降の5年間の生活費が特に問題になります。上記の家計調査の支出額から計算すると、5年間の生活費は約1,605万円になります。

したがって、退職金や確定拠出年金などの老後資金を準備する制度を上手に利用するとともに、健康であれば65歳以降も働くといった手段もあわせて、5年間の生活費を準備することが必要です。それでも、健康の不安が大きくなり、働くのがより困難になるであろう70歳以降の年金を増やすことによって、長生きの心配をせずに暮らせることには魅力があります。

今回は平成28年家計調査の平均の生活費や年金額を使用して、老後資金を計算しましたが、日々の生活費や支給される年金額は、人によって異なります。また、お金以外にも、健康状態や周囲とのつながりといった環境は、皆違います。したがって、準備するべき老後資金の額は、人それぞれです。

あなたも一度、自分に必要な老後資金を計算してみてください。その上で、年金の支給繰り下げを選択し、70歳までの生活費を確保するライフプランを検討してはいかがでしょう。

執筆者プロフィール : 山田敬幸

一級ファイナンシャルプランニング技能士。会社員時代に、源泉徴収票の読み方がわからなかったことがきっかけでFPの勉強を始める。その後、金融商品や保険の販売を行わない独立系FPとして起業。人生の満足度を高めるためには、お金だけではなく、健康や人とのつながりも大切であるという理念のもと、現役世代の将来に向けた資産形成や生活設計に対する不安の解消に取り組んでいる。