家庭の中から外へ、コーヒーの未開拓市場

コーヒーマシンを無償貸与する「ネスカフェ アンバサダー」は現在、35万のオフィスで導入されている。ここを伸ばしていこうというのがネスレの考えだ。深谷氏によれば、20名以下の比較的小規模なものをあわせると、日本には事業所が約600万カ所あるという。

アンバサダーを導入しているオフィスは35万カ所に達する

自動販売機があれば問題ないような気もするが、深谷氏の話では、小規模な事業所のように販売量が少ない場所では、商品の補充や代金の回収などを含めて考えた場合、自動販売機をビジネスとして成立させるのは非常に難しいそうだ。その点、ネスレの「マシン+コーヒー」モデルは1人世帯でも成立しているくらいだから、小規模な事業所にも「ジャストフィット」なのだという。

つまり、スターバックスなどのコーヒーショップはコーヒーを家庭の外から中へ持ち込もうとしているが、ネスレは逆で、コーヒーを家庭の中から外へと展開しようとしているわけだ。「美容院、カーディーラー、町の不動産屋さん」などを深谷氏は例示したが、そう考えると、日本にコーヒーマシンが入り込む余地はまだまだありそうだ。

ネスレがコーヒーで進める革新。家庭外の市場を取り込む「アンバサダー」システムが1つの方向性だとすれば、もう1つ見逃せないのは、コーヒーとインターネットを組み合わせようとするネスレの取り組みだ。

「コネクト」で見えてきたコーヒー×IoTの姿

ネスレが進めるコーヒーマシンのIoT化については以前お伝えした通り(詳細はこちら)。この記事でも紹介した、Bluetoothでスマホアプリと連動する「ネスカフェ ゴールドブレンド バリスタ i」(バリスタi)は、発売から1年で40万台と当初の想定以上に売れているという。

この方向性をさらに進めたものが、ネスレが9月5日に始めた「ネスカフェ コネクト」というサービス。バリスタiと専用タブレットをセットにして、月500円で貸し出すという取り組みだ。タブレットには「エージェント」がプリセットされており、話しかければコーヒーを淹れてくれたり、LINEの送受信を行ってくれたりする。

コーヒーマシンとタブレットをセットにしてレンタルする「ネスカフェ コネクト」。レンタル料は月額500円、コーヒー代は飲んだ分だけだ。利用するにはWi-Fi環境が必要になる

「離れて暮らす家族をつなぐ」や「高齢者の見守り」など、ネスレが新たなサービスで提供しようとしている価値は、ちょっと食品メーカーの範疇を超えている感じもする。しかし、顧客の問題を把握することでイノベーションを起こせるという高岡CEOの言葉を踏まえて考えると、ネスレがコーヒーマシンで高齢化や家族のコミュニケーション不足といった問題に挑戦するのも不思議ではない気がする。

「エージェント」を閉じれば、アプリを入れたりする一般的な使い方も可能な付属のタブレット

コーヒーマシンにエージェント(タブレット)が付いているという現在の姿は、ネスレが目指すコーヒー×IoTの取り組みの導入部に過ぎない。その点は深谷氏にも確認したところだ。そのうちマシンとタブレット(の機能)は一体化するだろうし、何らかの新たなサービスも始まるだろう。食品とマシンの双方を扱うネスレの特異性に触れつつ、深谷氏は「食品メーカーでIoTを語れるのはネスレしかいない。それが最大の強みだ。そこにECを乗っければ、売上にも直接反映させられる。これをいかしていくことが重要なことだ」と話していた。