バリスタが日本で受けた理由とは

専用カートリッジで1杯から淹れられるコーヒーマシン「ネスカフェ ゴールドブレンド バリスタ」をネスレが発売したのは2009年のこと。抹茶やソイラテなど、コーヒー以外の飲み物も作れるカプセル式のマシン「ネスカフェ ドルチェ グスト」と合わせると、日本で累計650万台が売れている人気商品だ。マシンが売れれば、その後は定期的にカートリッジ・カプセルが売れていく仕組みは、家庭用ゲーム機やコピー機を想起させる。

ゴールドブレンド発売50周年を記念した新モデル「ネスカフェ ゴールドブレンド バリスタ 50(Fifty)」

バリスタが日本で受けた背景には、日本特有の事情も絡んでいる。そもそも、30~40年前の日本の家庭は約半数が4~5人世帯であり、コーヒーはドリップ式のマシンで一度に何杯も淹れて、同じ味のコーヒーを皆で飲むというのが一般的だった。ところが今は、「1~2人の世帯が6割を超えている」ことに加え、コーヒーの味についても好みの多様化が進んでいる。同じ味のコーヒーを、一度に何杯も作ることは「もはや価値ではなくなってきている」というのが、ネスレの気付きだった。

ブラック、カプチーノ、カフェラテを選べる。ブラックはサイズ(量)も変えられる

その社会情勢にマッチしたのが、1杯ずつ好みに応じたコーヒーを淹れられる「バリスタ」だったというわけだ。2006年頃、「バリスタのコンセプトを社内で説明した時には笑われた」という深谷氏だが、実際のところ、バリスタの方向性は図に当たった。ネスレ日本の高岡浩三CEOは、イノベーションとは顧客の問題を的確に把握し、それをいかに解決するかを考えて生み出すものだと常々語っているが、「バリスタ」も日本における家庭の変化に的確に対応し、コーヒー1杯のためにお湯を沸かす面倒くささなど、そこにある問題に対応した点で革新的と言えるだろう。

ネスレ日本代表取締役兼CEOの高岡浩三氏(画像は2017年9月5日、ネスレの2017年下半期事業戦略発表会にて撮影)

マシンと粉の両輪で新たなビジネスモデルが成立

ただし、革新的だからといって商品が売れるとは限らない。その点、ネスレには強みがあった。それは、コーヒーマシンとコーヒー自体という2つの製品を両輪で展開できたことだ。

コーヒーマシンを作るメーカーもあれば、コーヒー自体を作るメーカーもあるわけだが、両方を手掛けるのはネスレくらいのもの。コーヒーマシンのメーカーはそれ自体で利益を出さねばならないので、価格設定は当然、原価を積み上げた上に利益を加えたものとなるわけだが、ネスレはマシンの利益を抑えても、コーヒーの売上で定期的な収入を得ていくというビジネスモデルを成立させられた。これが、ネスレがコーヒーマシンで日本ナンバーワンというポジションを獲得できたゆえんだ。

「マシン+コーヒー」というビジネスで、日本の家庭用コーヒー市場を開拓してきたネスレ日本。だが、(労働)人口減少の局面に入り、働く主婦の数もますます増えそうな現状を考えると、日本では各家庭にひもづく人数と、その滞在時間が減少していくと考えるのが自然だ。家庭におけるコーヒー消費量も減るはずで、ネスレも安閑としてはいられない。そんな状況の中、同社が事業拡大の余地を見出しているのが「家庭の外」だ。