実用化を阻んでいた課題とは

今回、マツダのSKYACTIV-Xの技術説明を行った藤原清志専務執行役員によれば、ガソリンと空気の混合気を、理論空燃比(理想的な空気とガソリンの混合比率)より2倍の薄さにしても燃焼できる可能性を秘めているのがHCCIだという。つまり、ガソリン消費を半分にできるということだ。

SKYACTIV-Xの技術説明を行ったマツダの藤原専務

そこで世界の主要な自動車メーカーは、ガソリンエンジンの効率を飛躍的に高めるため、すなわち燃費をいま以上に向上させるため、HCCIの研究を進めてきた。だが、実用化され、市販量産車に採用された例はない。

その理由は、HCCIではエンジンを稼働させられる領域が狭く、一般的なクルマの使用範囲の全てを補うことができないことだ。それを補うため、従来通りの火花点火を併用するとしても、圧縮着火と火花点火を、クルマの走行中に自然に切り替えるには技術的な難しさがあったと藤原専務は話す。

発想の転換が新エンジン実用化の鍵に

マツダのSKYACTIV-Xは、完全なHCCIではないものの、従来からの火花点火と併用する形でHCCIの考えを採り入れ、ガソリンエンジンの効率向上を一歩前へ進めたことになる。では、マツダはどうやって課題を解決し、実用化への道筋をつけたのか。藤原専務は2つの策を紹介した。

圧縮着火にこだわる理由を示したスライド

現状、完全なHCCIの実現が不可能で、火花点火を併用する場合、そこにはスパークプラグが存在することになる。これを活用し、スパークプラグで始まる燃焼を、もう1つの圧縮行程に利用するというのが、1つ目の策だ。

火花点火は、ガソリンと空気の混合気をピストンが圧縮したところで、スパークプラグの電気的火花によって着火し、その火炎が燃焼室内を燃え広がっていくと、先に説明した。その火炎伝播は、燃え盛る熱の圧力波であるため、まだ燃えていない混合気を急速に圧迫し、圧力を高め、温度を上昇させる。それによって、ガソリンが自ら燃えだすのを促すというわけだ。

火花点火とHCCIの違いを示したスライド

実は、この現象は一般にノッキングと呼ばれ、ガソリンエンジンにおいては異常な燃焼であるため、いかに起こさせないかが、これまでのガソリンエンジン開発の胆であった。スパークプラグで最適な時期に着火する以外のタイミングで、不測の燃え方をしてほしくないというのがこれまでの常識だったのだ。それを逆手にとり、圧縮着火にいかそうとしたところに、実用化へ向けた突破口があったのではないかと想像する。

また、ピストンによって圧縮され、高い圧力となったシリンダー内へ空気を送り込む、高応答エア供給機というものをSKYACTIV-Xは装備するとの説明もあった。これが策の2つ目だ。これによって、圧縮着火に必要な最適な圧力と温度が、クルマの走行状況に応じて随時調整されるのではないだろうかとも考えられる。