「なんで今さら?」と思われるかもしれないが、2016年4月期に放送されたTBS系ドラマ『重版出来!』の話を少ししたい。漫画雑誌『週刊バイブス』の編集部を舞台に、黒木華演じる新人編集者・黒沢心の奮闘劇を中心に、脇役の葛藤までが丁寧に描かれていた。

副編集長・五百旗頭(オダギリジョー)の「正しい編集者とは何か」、久慈勝社長(高田純次)の「運を貯める」と並んで、心に深く刺さったのが、自身の才能に悩む東江絹の姿だった。明日に備えて前向きになりたい時。何かの壁にぶち当たった時。このドラマを観て、気持ちを切り替えることが今でもルーティンになっている。

東江絹を演じているのが、女優・高月彩良。彼女と会ったのは約2年前、主演映画『人狼ゲーム クレイジーフォックス』のインタビュー取材だった。8月10日に二十歳を迎えるこの節目だからこそ、東江絹についての思いを聞いておきたかった。

女優の高月彩良 撮影:宮川朋久

取材前にブログをチェックしたところ、勝手にハマり役と思い込んでいたことをほどなく猛省することになる。「不器用な自分が不甲斐なく思いました」「私が悩んでいる中で、マネージャーさんが声を掛けてくれたり、監督やスタッフさんからアドバイスを頂いたり、素敵な共演者の皆様に助けて頂いたことで、ヒントが出てきて周りの方達のサポートのおかけで絹ちゃんを演じることができました」(2016年5月23日投稿より)。

役者が視聴者に「ハマり役」と思わせるまでには相当な苦労を伴っていることを今更ながら知る。今回の取材でも、自身の足りない部分をいつでも意識し、それを必死に補おうとする姿勢は、やっぱり東江絹を重ねてしまう。

朗読劇の自主練で号泣

――8月10日に節目となる二十歳を迎えられますね。おめでとうございます。どのような心持ちですか?(8月8日に取材)

ありがとうございます。今まで迎えて来た誕生日の中では特別というか。大切にしたいという思いはあります(笑)。何かが変わるというような予感は今のところありませんが、新しいことには挑戦したいという気持ちは抱いています。

――詳しく聞きたいです。

ミュージカルに挑戦してみたいです。とにかく舞台に立つことが好きで、歌うことも好き。いろいろなミュージカルを観劇して感動しますが、終わってから感じるのは「自分にできるのかな」というマイナスイメージばかりで。でも、そういう不安を稽古で乗り切りたいとも思っています。実は、新しいことに挑む時にはいつもそういう心理状態になってしまいます。今日のインタビューも「ちゃんと答えられるかな」と不安になりながら来ました(笑)。

――これまでたくさんの取材を経験してきても(笑)?

そうなんですが、いつも新たな気持ちでというか。毎回緊張してしまいます。

――初挑戦といえば、朗読劇『私の頭の中の消しゴム』が迫っていますね(8月17日19時~・20日12時~/東京・サンシャイン劇場)。

本格的な稽古はこれからで、今はひたすら自主練です。過去に内山理名さんの朗読劇を拝見したことがあって、その時のことを思い出したり、参考となるような動画を観たりしてイメージを固めています。緊張と不安はありますが、もともと好きな作品なのでどちらかというと楽しみの方が大きいです。本を読んであまり涙を流してしまうことはないのですが、この作品は自宅で練習していても一人で泣いてしまって。ポロッとこぼれてしまうことはあっても、号泣してしまうのは初めてのことだったので、自分でも驚きました。

――ドラマや映画でそのようになることはなかったんですか?

そうですね、涙が出ることはあっても号泣まではならなくて。ドラマや映画は、カメラが回るとそうなります。環境に追い込まれるというか、相手の方が目の前にいると自然とそういう気持ちに。朗読劇はそのあたりの調節が難しいと感じていて、あまり泣きすぎるとお客さんに正しく伝わらなかったりするので、気をつけたいと思っています。

台本を読んで、私が演じる薫は自分とかけ離れている存在だと分かりました。美しくて、華やかで、明るくて。その女性像を追いかけるので一生懸命で、細かい点でいえば、こうして話しているトーンも全く違っていて薫は常に明るい。「抱きしめていい?」というセリフも日常生活で口にしたことがないので(笑)、役と自分の溝を埋めることにも集中しています。

――今回の朗読劇に限らず、自分と役に隔たりがあると、演じる上ではハードルになるんですか?

今までは比較的自分に近いというか、ここまで開きがある役はなかったと感じています

『重版出来!』苦悩の真相

――前回お会いしたのが2015年末、『人狼ゲーム クレイジーフォックス』の取材でした。その後、個人的に何度も観返している出演作があって、それがドラマ『重版出来!』です。仕事で思い通りにならないことがあったり、何かにつまずいたりした時に観ています。

そうなんですね! ありがとうございます。

――高月さんが演じた東江絹は自信の才能に葛藤し、やがては前向きに自らの人生を選択していきます。すごく悩みながらの撮影だったことがブログに書いてありました。一視聴者としては勝手にハマり役と思い込んでいたので、とても意外でした。

「絹は私と似ている」ということに後に気づくんですけど、演じている時は全くそんなこともなく。監督がとても厳しい方で、お芝居について指導していただくことが繰り返しあって、絹を演じていて「これが正解なのか」と迷ってしまいました。そんな私を見て、周りのスタッフさんはじめ、マネージャーさんもアドバイスをくださったんです。そういう意味で、周囲の支えなしでは乗り切れない撮影でした。