コアなファンの声を重視
ファストフード店が採用しがちな売上向上策はクーポンやアプリによる値引きだが、この施策は来店客数を増加させても、客単価を押し下げる負の効果がある。逆に客単価の向上につながる値上げは、顧客離れを引き起こす要因になりかねない。このジレンマを抱えるファストフード業界にあって、モスはコアファンの存在とコミュニケーション戦略を強みとする。
モスは新商品の企画段階で消費者の意見を取り入れる。顧客の声には同業他社も耳を傾けているが、ここからがモスのすごいところ。実際に顧客の声から商品を開発したり、ビジネスとして立ち上げたりする仕組みを構築しているのだ。
例えばモスファームの野菜を店舗で販売するなど、顧客の声をヒントに始めたビジネスは多い。顧客の立場に立ってみても、声を聞いてくれる店であることが来店動機の1つになっていることは想像に難くない。
FCオーナーと共有する成長目標は“101%”
ファストフード業界にあって独特の存在感を放つモスバーガーは、いかにして誕生したのか。ここで振り返ってみたい。
2016年度の業績では、チェーン全店売上高約1052億円、売上高約709億円、店舗数1392店(FC含む)という規模のモスバーガーチェーン。大阪万国博覧会を契機に多くのファストフードが日本に上陸するなか、日本で生まれ、日本の味を大切にするハンバーガー専門店として1972年にオープンした。注文を受けてから作るスタイルを大切にし、ファストフード業態の中でも、早くから「安全・安心・健康」という考え方を導入し、今では「モスの生野菜」として野菜単品の販売もしている。
消費者の節約志向が続くなかで、「顧客に選ばれるために、何が必要か」を常に考え、実践しているのがモスバーガーだ。同業他社がクーポンの乱発や価格競争に走っても、モスはその渦中に飛び込もうとはしなかった。なぜなら、それはコアなファンが望んでいなかったからだろう。モスは独自の立ち位置を維持しながら、今年で45周年を迎える。
モスが株主やFCオーナー宛に発行する「モスのコミュニケーションレポート」には、中期経営計画で既存店売上101%を達成し続けるとの目標が掲げられている。FC店舗が多い中で、共通した理念を共有することは重要だ。100%ではなく105%でもない、101%という数字が共通理解になっていることは、FCオーナーとの関係を重要視しているからであろう。