異例の人事異動と、現場への不介入

フジテレビ本社=東京・台場

もう1つ、亀山氏の采配で忘れてはいけないのは、人事異動。2014年6月、全社員約1,500人中、約1,000人の社員が関連する「開局以来初の大規模人事異動」が行われた。

先月の定例会見で、「社員一人ひとりの能力は他社に劣っていないと思う。私がそういう能力を最大限に発揮する環境を作れなかったことが、今の業績につながっている」と自省したように、亀山氏には人員配置に苦慮していた様子がうかがえる。

もともと亀山氏はヒットドラマを手がけただけでなく、『踊る大捜査線』の映画化を成功させるなど映画事業局のトップを務め、邦画ブームの火付け人と言われる人物。その他にも、プロデューサーを務めた夏のイベント『お台場冒険王2~レインボーブリッジは封鎖するな!!~』を成功させるなど、テレビ放送外収入を増やすビジネスセンスを持ち合わせている。

そのため社長在任期間中は、メディアに何度も「制作現場への介入が激しい」と書かれていたが、亀山氏はこれを否定。企画からキャスティング、構成まで、「一切介入しなかった」という。社員を信頼して任せていたのが本当なら、低迷から抜け出せなかった理由は以下の2つ。現在の社員にはもっと強いリーダーシップが必要だったのか。それとも、社員が作り手として偉大な亀山氏の顔色をうかがうような仕事をしていたのか。どちらにしても、噛み合っていなかったのだろう。

自己批評番組での地道な努力

後任の宮内正喜社長

このところフジテレビも亀山氏も、ネット上で「面白くない」「やらかす」存在として標的にされてばかりだったが、実際のところ真摯な姿勢も見られる。

テレビ局はそれぞれ自己批評番組を放送しているが、フジの『新・週刊フジテレビ批評』は質量ともに他局とは段違いのレベル。他局より放送時間が3~8倍も長く、どこよりも視聴者と番組審議委員からの辛らつな意見を紹介し、時に各番組のプロデューサーが釈明や謝罪のために出演するなど、番組の改善・向上を図っている。さらに、毎週各界の専門家を招いて、「自局番組に留まらず、テレビ業界全体の発展を模索する」という姿勢は素晴らしい。

そもそも1992年に民放初の自己批評番組を制作したのはフジテレビであり、その社風は受け継がれ、今も地道な取り組みを続けているのだ。それだけに社長交代で風向きが変わる可能性は十分あるだろう。

亀山氏は会社の転換期という厳しい状況での舵取りを強いられたが、それでもいくつかの種を蒔いて退任する。すでにいくつか芽吹きはじめたものもあるが、このまま順調に育って花を咲かせるのか、それとも腐らせてしまうのか。まずは、今年下半期の新体制スタートに注目していきたい。

■木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などに出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。