東京駅からカウントすると、その道のりはほぼ7時間。「最寄り駅と言えばここだな」という青森県・下北駅からだって、車で1時間半かかるのだから、その道のりの長さは容易に想像できるだろう。大湊駅でレンタカーを借り、大間崎を右手に見ながらの観光をしつつ、車窓から願掛岩が見えてきたら、ウニ丼のメッカ・佐井村まであと少しだ。

このウニ、ぜ~んぶ独り占め! (写真は「ぬいどう食堂」)

みんな、ウニも「かっちゃ」も大好きだ

こんな最果ての地にあるにも関わらず、県内外からたくさんの人が食堂の生ウニを求めて訪れているのだが、この佐井村の二大巨塔の食堂というのが、「ぬいどう食堂」と「仏ヶ浦ドライブイン」である。ぬいどう食堂と仏ヶ浦ドライブインは、道を隔てて2軒仲良く並んでいる。お店にはそれぞれファンがおり、みんな自分の好きな「かっちゃ」(下北弁でお母さんの意)に会いに、はるばる遠くからやってくる。

車窓から願掛岩が見えてきたら、目的地までもうすぐだ

「ぬいどう食堂」と「仏ヶ浦ドライブイン」は目と鼻の先

まずはぬいどう食堂から入店。「よぐ来たにし~」と、下北弁で人懐っこく話しかけてくるかっちゃが、店主の柳田良子さん(69歳/2017.06取材時)。かっちゃがひとりで切り盛りしており、平日は近所の人の食堂にもなっているのでウニ丼だけでなく、ラーメンやカツ丼など、海鮮に食べ飽きた地元の人にもおいしい食事を提供している。

金魚ねぶたとともに良子かっちゃがお出迎え

店内の模様。団体は必ず事前予約をしないとウニが足りない可能性あり! 気をつけて

どんなに食べてもウニは減らない

早速「ウニ丼」(税込1,500円)を注文。厨房をのぞいてみると、かっちゃが手早くバケツからウニを取り出している。「このウニはねぇ、今朝お父さんが採ってきたウニを私がむいたのよ。ウニ篭漁の時期になったら私も漁に出るんだけどね~」。

なるほど。自分で収穫しているからこんな金額で、こんなぜいたくができるのか。っていうか、69歳が海に行くなんて言ったら、東京だったら総出で止めにいくのに。海の女は逞(たくま)しい……。

採れたて・むきたてなウニがおたまにこんもり

おたまでそんなに!? と言うほど、雑にすくい上げていくウニがプリプリしている。東京で見るウニは溶けていてつぶつぶが分かりづらいが、ここのはウニの身の一粒一粒、しっかりとした形がよく見てとれる。ウニのサイズにもよるが、1杯あたり10個前後のウニが使われている。

まだまだ盛っていく

「昔の人はね~ウニを生で食べる習慣がなかったから、蒸して出してたのよ。そしたらお客さんがもったいないって。それで生で出したら大好評でね~。今じゃオーストラリアから毎年食べに来る外国人がいるぐらいだよ」と、豪快に笑うかっちゃ。

「ウニ丼」(税込1,500円)

「はいどうぞ~」と、出てきたウニ丼がこれ! 米が見えないのが特徴。1,500円おかしいだろ!! と、突っ込みたくなる。スマホと比較しても分かるだろう。米が見えない! 肌感覚としたら米とウニは1:1くらいである。

この大きさ、プライスレス!

早速いただきま~す。豪快にこんな乗せてもウニが減らないのがうれしい。一口食べると甘みが! "海の宝箱や~"(彦麻呂語録より引用)。

「儲(もう)けたいとかじゃないのよ」と、かっちゃが話し出した。「お店を始めてもう40年ぐらいになるんだけどね~。最初はお父さんが出稼ぎに行っちゃってたから『店もやれば? 』と、人に勧められて。子どもを抱っこヒモに入れてお店やってたのよ~。大変だけどこのウニ丼を食べたいってみんな遠くから来てくれるの。佐井村のみんなが幸せになるようにまだ数年は頑張らないと! 」。

この笑顔もまた、プライスレス!

うぅ。ええ話やないの。素敵な笑顔の裏にはドラマがあった。

●information
ぬいどう食堂
店主名前: 柳田良子
住所: 青森県下北郡佐井村大字長後字福浦川目83-1
営業時間: 10:00~16:00
定休日: 11月10日~4月10日は休業、営業期間中は不定休(日曜日も営業)
注意事項:
1.ひとりやっているので、普通に近所にお茶しに行ったり消えてることが多いです。必ず電話してください
2.予約をしてもウニが採れない日はやりません。当日も確認を
3.アクセスは車・バイク以外は厳しいかと思います

さて、向かいの仏ヶ浦ドライブインへ! 徒歩10秒なので男性など胃に余力がある人は、ぬいどう食堂とハシゴしてウニを堪能する人も多いとか。