商用車の生産性を向上させる可能性も

それは、革命的な開発であると言える。村田氏は「市販車に応用すると言っても、まずはレースで培われた技術として、スポーツカー用にいかしていく道を探るのが順当でしょう。とはいえ、これが量産市販車へ転用できるようになれば、乗用車だけでなく、長距離トラックのような商用車でも活用でき、時間の無駄を省き、物流の効率化の中でもいきる技術となっていくのではないでしょうか」と語るのである。

消費財の乗用車に対し、生産財であるトラックやバスは、運転者は交代しても、クルマは24時間365日稼働することで生産性が高まる。その際、充電に30分もかけていたのでは時間の無駄だ。だが5分で済めば、ディーゼルエンジンに軽油を給油するのと変わらなくなる。

TS050のようなレーシングカーで獲得した技術には、量販車に応用するという道がある

EVの将来性についてはまだ懐疑的な意見もあるが、例えば米国のテスラ「モデルS」は、4ドアセダンの乗用車でありながら、ポルシェのスポーツカー並みの加速を実現している。モーターで駆動するからこそ、乗用車とかスポーツカーといった車種の区別なく、最高の加速性能を獲得できるのである。

それだけの可能性をモーター駆動は秘めており、なおかつ、トヨタがレースで培っている充電性能が満たされれば、エンジン車を選ぶ理由は限定的になっていくだろう。F1ではなく、ル・マンを含む世界耐久選手権に自動車メーカーが参加する意義は、そこにある。

世界的ブランドに必要なものとは

FIA世界耐久選手権(WEC)においてトヨタは、2014年にすでに世界チャンピオンのタイトルを獲得している。だが、ル・マンだけは獲れずにいるのである。昨年は、ゴール3分前まで優勝を確信させる走行を見せながらも、故障で逃している。悲願へ向けた今年の意気込みはさらに増していることだろう。ル・マン優勝を果たしてはじめて、冒頭に紹介した名だたるメーカーと肩を並べることになるからである。

トヨタ・GR統括部長の北澤重久氏

さらに、GR統括部長の北澤重久氏は「伝統のレースに居続けることが大切だ」と語る。例えば今年、ル・マン優勝と世界選手権奪還が達成できたとしても、世界耐久選手権シリーズとル・マンへの挑戦は、来年以降も続けるというのだ。

なぜなら、トヨタ創業者の豊田喜一郎氏が「オートレースと国産自動車工業」という文章で残した言葉である、「日本の自動車製造事業にとって、耐久性や性能試験のため、オートレース(当時は自動車レースをこう呼んだ:筆者注)においてその自動車の性能をありったけ発揮してみて、その優劣を争う所に改良進歩が行われ、モーターファンの興味を沸かすのである」が、現・豊田章男社長の提唱する「もっといいクルマづくり」に直結するからであるという。

技術開発を進め、原価を下げ、いいクルマを売ってもうけるだけでは、世界に誇るブランドとは認められない。その業界、そして社会に、文化的貢献をする無形の活動を持続させてこそ、人々はそこに憧れのブランドの姿を見る。それには無駄とも思えるお金と時間を要するが、それを惜しんでいては、安くていいものを作る製造業者という評価からは脱却できないのである。