子どもの通う小学校でPTA会長を3年にわたり務めた経験を持つ、フリーライターの杉江松恋さん

子どもが小学校に入学すると、いやがおうにも、お役目が回ってくるPTA。昨今、その組織体制や運営方法にさまざまな批判も挙がっているが、この組織で会長を3年間務めたフリーライター杉江松恋さんが、このほど著書を出版した。その名も『ある日うっかりPTA』(税別1,300円/KADOKAWA)だ。

杉江さんは、なぜ、どんな経緯で、PTA会長の要職を務めることになったのか。そして、保護者会会長が容疑者になった千葉の殺人事件や、男親の活動参加について、どのような考えをお持ちなのか。インタビューで伺った。

PTA、保護者会、父母会の違い

――まず、杉江さんがPTA会長になった経緯を教えてください。

今住んでいる場所に引っ越してきた時、子どものためにも地域に溶け込もうと思い、子どもたちに読み聞かせをする小学校の読書ボランティアに参加していました。実はPTAについては、少年マンガに出てくるような"文句ばかりつけてくるオバサン"といったイメージしかなかったので、はじめは少し距離を置いていたのです。

しかしそのうち、「進行表を読むだけでいいから」と誘われてPTA総会の議長を務めることになったり、小学校の80周年記念式典に出席したりするようになりました。その時は、金髪と革ジャン姿で参加していたのですが……式典は非常に厳かなものだったので、ものすごく場違いでしたね(笑)。

そうやって何回かPTAに接触しているうちに、「PTA会長をやらないか」と連絡をいただきました。しょっちゅう学校に来ている男だと思われていたようです(笑)。

――そもそもPTAは何を目的にしている団体なのでしょう?

ものすごく曖昧なのですが、「Parent」(親)と「Teacher」(教師)の「Association」(団体)であるので、両者が学校についてさまざまなことを協議していく場所とされています。

学校の環境を良くするために、自治体に要望を出していくのもPTAの役割の一つです。小学校のPTAには、市町村単位の上位組織・小学校PTA連合会が存在していて、PTA連合会は各校のPTAを代表して、地方自治体に要求を行います。PTAを父母会の延長と思っている方が多いかもしれませんが、実は官との結びつきが非常に強い組織なんです。

僕は子どもが小学校低学年の頃、学童保育の父母会に参加していたのですが、区が学童の職員を減らそうとする動きなどに、父母会を通して意見を言っていました。その経験がなければ、PTA会長という役職を依頼されてもピンと来なかったかもしれませんね。

PTAの要職が犯罪者予備軍であってもおかしくない

――千葉県我孫子市の女児殺害事件で逮捕された容疑者は、最初「PTA会長」と報道されていましたが、後に「保護者会長」と修正されたようです。この両者の違いを教えていただけますか?

PTAはPTA関連の法律下で運営される組織です。こちらは体制化され、行政と結びついています。それとは別に、学校の中で保護者会として運営される組織があります。PTA連合会のような上位組織とつながることはなく、独自ルールで活動しています。

事件のあった小学校は、報道を見ている限り、PTAの組織を辞めて保護者会になっているのではないでしょうか。そういう例は、他の小学校にもたくさんあります。私立校はPTAの組織に入らず、保護者会として活動している学校が多い印象です。

――保護者会の会長が事件の容疑者となっていることについて、杉江さんはどのような感想を持たれますか?

僕も含めて、完全な善人がPTAの要職に就いていることはまずありません。欠陥のある人間も多いですし、その欠陥が綻びてしまうこともよくあります。

例えば、私が見聞きする限りでいうと、PTA会員同士の人間関係のトラブルは頻繁に起こります。その中で、犯罪につながったケースも知っています。それを人的な資質として見抜き、PTAから排除することはかなり難しいでしょう。こういう言い方をすると誤解を招くかもしれませんが、一定数のPTA会長は"犯罪者予備軍"であってもおかしくないんです。

ならば、PTAや保護者会は不要なのかと言うと、それはまた違う問題です。今回の事件に関しては、彼を保護者会長として推薦してしまった人たち、承認してしまった人たちはとてもつらい思いをしていると思います。責任を感じていると思いますが、未然に防ぐことは難しいと思いますので、ちょっとお気の毒です。

男性保護者がいてほしい場面はたくさんある

また、こういった事件によって、「男性保護者はこういう活動はすべきではない」という風潮ができてしまったら、一種のジェンダー的な差別につながると思います。性別を問わず、祖父母や養父母でも、保護者であれば、自分の子どもがいる場所を良くしたいという活動をする権利が保証されるべきです。

男性保護者がいてほしい場面というのはいろいろあって、例えば運動会のような行事における見回りや、不審者の排除などの仕事は、男性保護者にお願いしていることが多いと思います。ただ、男性保護者に対する偏見があると、そういう仕事が回らなくなりますし、「(PTAの仕事は)女性がするものだ」という反動的な考え方が起こることになるでしょう。

――男性保護者がPTA活動に参加する意義についてはどのようにお考えですか?

企業などで働いている男性保護者の場合、企業以外の縁(リレーション)が全くないというケースが少なくありません。例えば災害が起こった時、非常に個の状態で地域に放り出されることになってしまいます。

――避難所に行ったら、そこにいる全員が知らない人ということもありえますね。

そうです。そうならないためにも、機会を見つけて地域の活動には参加したほうがいいと思います。また、自分の子どもがどういう場所で暮らしているかを知ることも大切だと思いますが、そのためには自分がその場所に行かないと無理ですよね。その両方を考えると、公的な資格であるPTAに参加するメリットは大きいのではないかと僕は思います。

『ある日うっかりPTA』(税別1,300円/KADOKAWA)

「PTAって大変そう」!? PTA会長を実際に3年務めたルポ!!
金髪、ヒゲ、サングラスのフリーライターがひょんなことから、息子が通う公立小学校のPTA会長に就任! 自分には無関係な存在として大した関わりも持ってこなかったPTA。3年の任期を経て今、感じることとは――。
「PTA会長になるのは簡単だ。(中略)なぜならば公立小学校の場合、自分からPTA会長をやりますなんて言い出す人間は皆無だからである。PTA会長に大事な資質。それは、おっちょこちょいであることだ。はい、おっちょこちょいです。私、自分でも自分がおっちょこちょいだと思います。そうじゃなかったら、PTA会長なんてなるわけがないじゃないですか――」(本文より)

聞き手: 大山くまお

ライター・編集。1972年生まれ。1児の父で趣味は子連れ酒。
著書に『「がんばれ! 」でがんばれない人のための"意外"な名言集』(ワニブックス)、『野原ひろしの名言 「クレヨンしんちゃん」に学ぶ幸せの作り方』(双葉社)など。