若松社長が語る、日本市場におけるGMの強みは、キャデラックが見せる新しい時代のラグジュアリーさと、カマロやコルベットに見られる伝統的スポーツカーの醍醐味である。しかもその両車は、かつてのアメリカ車のような力任せの豪華さや豪快さでなく、例えば、ドイツのニュルブルクリンクで走り込むといった高度な速さや、洗練された快適さを両立させた先進性を備えている。

キャデラック「ATS」と「ATS-V」。インテリアにもデザインコンセプトが息づく

本社も支持するGMジャパンの姿勢

米国のGM本社による投資先を見ても、コネクティビティや自動運転、次世代動力源など、将来へ向けた手が打たれており、フォードがかつて打ち出した、今の欧米市場の交通環境にこだわった商品展開とは明らかに異なる。昨年、若松社長が語った「日本市場での存在感を高めたい」との抱負は、そうしたGM本社の将来戦略に裏付けられたものでもあると言える。

「日本市場での戦略について、10年先の目標を私が示したことに対し、グローバルキャデラックとGMインターナショナルから全面的な支援を得ています」と語った若松社長は、「今日、明日の販売台数も大切ですが、やみくもに数を追うのではなく、この先10年で責任をもって積み上げていく台数の実現へ向け、毎日活動しています」と締め括った。

乗れば分かる魅力がある

我々の身の回りには、クルマ以外の商品でいえば、iPhoneやGoogleを利用し、ラルフローレンやブルックス・ブラザーズ、カルバンクラインといったファッションを身に付け、ナイキやニューバランスなどのシューズを履き、バーニーズ・ニューヨークで買い物をし、スターバックスで一休みするといったように、米国を起点とするブランドが当たり前に存在する。

それであるのに、なぜ日本の輸入車市場は、ドイツ車一辺倒であるのか。

そのあたりを考えてみると、必ずしも国柄を前面に意識させなくても、憧れる魅力を備えたブランドが市場に浸透していく様子が見えてくる。ドイツ車の人気も、必ずしもドイツという国への憧れではなく、それぞれの銘柄が持つ印象や魅力が、消費者を惹き付けているのではないだろうか。ただし、その国の文化や風土がまったく無色透明でいいというわけでもない。そのブランドが生まれた背景は、確かに存在する。

日本市場を的確に分析し、ラインナップを絞り、そして歴史に裏付けられつつも、最新の変革をもってブランドの魅力を高めているキャデラックとシボレーを、消費者に直接訴えかける若松社長の戦略は、まだはじまったばかり。だが、国内の輸入車全体の魅力を拡げる挑戦は、非常に興味深い。“アメ車”と揶揄する言葉で語られた時代はとうの昔に過ぎ去り、ドイツ車一辺倒ともいえる国内輸入車市場に、GMが風穴を開けるときがくるのではないだろうか。

古きよきアメリカ車の魅力も捨てがたいが、GMには“アメ車”のイメージチェンジにもトライしてもらいたい(画像はキャデラックATSクーペ)

まずは、食わず嫌いせず、最新のキャデラックやシボレーに乗ってみることだ。目から鱗が落ちるに違いない。