イギリスの医療制度の落とし穴とは? ※画像は本文と関係ありません

こんにちは、トイアンナです。以前に貧乏をしていた時期があって、夕飯がもやし→もやし→もやし、と悲しい食生活を送ったことがあります。当時を振り返って思い出すのは、同じくらいお金が無かった友人の言葉。

友人「何があっても健康保険は払い続けろ」
私「どうして? 」
友人「医療費を最大3割負担で済ませてくれる国は日本くらいだ。貧乏な奴は体も壊しやすい。電気やガスを止めてもいいから、健康保険は払え」
私「ふーん」

と、うっすいリアクションを返してしまったくらい、当時は自覚がありませんでした。というのも、10年前にイギリスに住んでいたときは「医療費がタダ」だったからです。イギリスにはNHS(ナショナル・ヘルス・サービス)という国営医療制度があり、未成年の医療は原則無料。大人も薬代だけを負担する仕組みです。

当時未成年だった私は、風邪薬や花粉症の薬はもちろんのこと、ピルの処方すらタダでした。「日本で医者にかかったら有料だしもったいない」とすら思っていたので、日本の健康保険のありがたみもピンとこなかったのです。

大人になってわかる、莫大な医療負担

それから10年。ひょんなことから私は再びイギリスに住むこととなりました。当時は学生でしたが、今度は労働者。税金もフルで支払わねばなりません。もちろんそこには、健康保険料も含まれていました。イギリスに半年以上滞在する人間は年間200ポンド(約2.7万円)を支払わねばなりません。

「それでも十分日本より安いじゃない? 」と、普段から給与明細の健康保険料をきちんと見ていらっしゃる方は気づくでしょう。問題は、この国民健康保険が発揮される機会がほぼない点です。

イギリスに到着してすぐ、気温差もあって私は風邪を引きました。さっそく医者にかかろうと思い、最寄りの国立病院へ電話をしてみます。

私「すみません、風邪を引いてるんで予約したいんですが……」
受付「承知しました。次の空いている予約枠は2週間後です」

……2週間たったら、風邪も治るわ!!

診察料が無料なせいもあってか、イギリスの病院は患者でいっぱいというわけです。人口密度にもよりますが、診察まで2週間、3週間待ちも珍しくありません。仕方なく、多くのイギリス人は市販薬で軽い病気を治します。

思い起こせば、10年前に暮らしていたのは人口5,000人程度の小さな村でした。だから病院もサクっと予約が取れたのでしょう。しかし今住んでいるのは、大都会・ロンドン。患者は列をなしております。風邪だから「大変だね」で済みますが、これが骨折や手術でも待たされるらしいから恐ろしい。

私立病院は初診料だけで4万円!?

イギリスにこれから住む方を脅すようなことを書きましたが、ご安心ください。これは「国立」病院の話です。こんな医療制度だったら平均寿命がどうにかなってしまいます。イギリスには私立病院がたくさんあります。

某私立病院にて。見舞客の私にまでコーヒーとケーキが出てきました

私立なら予約もサクサク取れる上、サービスは日本の病院以上! 知人が入院したときは見舞客の私にまでコーヒーとケーキが出てきました。

「じゃあ全員、私立へ行けばいいじゃん! 」と思いたいところですが、そうは問屋が卸さない。国立病院のアポを断念した私は、今度は日本人医師がいる私立病院へ電話してみました。

私「風邪で診察を受けたいんですが、ざっと料金はおいくらぐらいですか? 」
受付「そうですね。インフルエンザの検査と初診料、お薬代で300ポンド(約4.1万円)もあれば、まず問題ないかと思います」

よっ、よんまんえんっ? 風邪の診察に!? 1回の診察料が年間の健康保険料を超えとるやんけ!!

とはいえ、しつこい咳風邪に襲われていた私は他に選択肢もなく、泣く泣く全額お支払いしました。実際の額は210ポンド(約2.9万円)なので安く済んでよかった! って、ちっとも安くないわっ(涙)。

イギリス人に聞いたところ、私立病院の費用を全額立て替えてくれる就職先もあるようです。実際に、先述の知人は会社から全額入院費を立て替えてもらっていました。海外就職を目指すなら、こういった福利厚生も重要チェック項目ですね……。

入院期間は大手術でも1週間!?

そしてイギリスの医療制度で面白いのが、入院期間。たとえ私立病院でも、日本のように快癒するまで入院させてくれません。以前、別の知人がイギリスで心臓バイパス手術を受けました。ろっ骨を一度開くような大手術にもかかわらず、なんと入院期間は1週間。信頼できる私立病院へ殺到する患者が多いため、長らく入院させてはもらえないのです。無慈悲!

他にも、出産はまさかの「即日退院」です。イギリス王室のキャサリン妃ですら例外はなく、出産後約9時間半で退院したという報道がありました。ひとまず1週間は置いてもらえる日本の病院って、端的に言って最高なのでは……?

それ以来私は、日本の医療制度の良さを宣伝しまくっています。とはいえ、今の制度も高齢者の増加でどこまでもつかは疑問。少しくらい値上げしてもいいから、どうかこのまま3割負担でお願いしますと祈る日々です。

※ポンド・円の換算は当時のレートを採用しています。
※本コラムは個人の体験や取材に基づくものであり、医療的な効果などを示唆・保証するものではありません


著者プロフィール: トイアンナ

外資系企業で約4年勤務。キャリアの一環としての消費者インタビューや、独自取材から500名以上のヒアリングを重ねる。アラサー男女の生き方を考えるブログ「トイアンナのぐだぐだ」は月間50万ページビューを記録。現在もWebを中心に複数媒体でコラムを連載中。