ビジネスモデルはどう変わるか

――ビジネス面でみると、既存の銀行や金融機関はベンチャーの競合になるのでしょうか?

Kyash 鷹取氏「かつては『フィンテックベンチャーは(既存の金融機関にとって)敵か味方か』という議論がありました。今は金融機関から出資をしていただき、新しい取り組みも共同で行っています。お互いに足りない部分を補完する関係になって、よい協業ができていけば良いですね。大きく言えば業種では近いですが、力を合わせて機能提供をやっていきたいと考えています」

――では銀行側からはどうですか? 一般的に、銀行ビジネスは法人営業が花形で、リテール部門はそれほど大きくない印象があります。送金は銀行が長らくやってきたビジネスですが、Kyashのようなベンチャーが出てきた場合、『ここは銀行』『ベンチャー』と棲み分けをした上で協業をするのでしょうか?

三井住友銀行 田村氏「消費者からすると、『これしか送金方法がない』と思っていたところが、ベンチャーにより、やりとりの方法が広がっていく。銀行がやれることは少しずつ広がっているので、ほかの業種と組んで何かをやることが増えそうです。まずは、ベンチャーと一緒にやりとりの方法を広げ、パイを大きくしたいですね。また、ベンチャーがやりたいことに(出資などで)銀行が協力して、市場拡大につなげることもあるでしょう」

日本ではデビットカードは普及しない?

――銀行はVisaやJCBなど決済ブランドに基づいたデビットカードを発行しています。海外の場合、クレジットカードは金利が高いリボ払いが基本のため、金利の掛からないデビットカードが併用されています。しかし、日本ではクレジットカードはマンスリークリア(一回払い)が主流であり、デビットカードとの差別化が曖昧です。デビットカードは本当に日本で流行る余地はあるのでしょうか?

三井住友銀行 田村氏「個人的な感想になりますが、ブランドデビットはクレジットカードと同じ印象を持たれており、クレジットカードユーザーの切り替えを促すのは難しいと思います。しかし、クレジットカードが作れない人やお金を管理したいという人にとっては新しい選択肢となっています。金融教育の一環としての使い方もあるのではないでしょうか」

みずほ銀行 辻氏「僕も実はデビットは流行らないと思っていました。あえていえば、クレジットカードを持てない若年層がデビットカードで支払いができること、大人と同じユーザーエクスペリエンスができるというのが売りではないでしょうか。デビットカードのメインストリームは30代・40代ではなく、学生とすることで広がりが持てると思います」

三菱東京UFJ銀行 藤井氏「三菱東京UFJ銀行は銀行業界で最初にVisaデビットカードをスタートしました。現金派やクレジットカードが嫌いな人には、『借金を負ってしまう』『使いすぎるからクレカは嫌だ』という層が一定数います。デビットは、現金感覚で使えるクレジットカードとしてその層に訴求できますし、実際に発行枚数も増えています。ただし、日本はデビットカードの魅力よりも、ポイントバック、キャッシュバックなどクレジットカードのリワードがすごい。くわえて、商業施設におけるハウスカードの発行も多いのです。お得な支払い手段がたくさんある中で、デビットカードが魅力をユーザーに訴え、生き残ることができるのかと思うことはあります」

――皆さんデビットカードをすごくシビアに見ている印象ですね。私の周りでは、「日本はカード決済の割合が低いため、デビットカードを利用するようになる人が沢山いるのではないか」と楽観的な見方が多い感覚でした。

三菱東京UFJ銀行 藤井氏「名誉のために言わせてもらうと、私は結構デビットカードを使っています(笑)。普段の支払いはデビットカード、商業施設で駐車場無料などのサービスがある場合はクレジットカードというように使い分けています」

Kyash 鷹取氏「デビットカードはクレジットカードとセグメントを変えないとユーザーに刺さりきらないと思います。しかし、引き落としのリアルタイム性、家計管理という点では優れた仕組みであり、現金で払っているのと同じように、財布からお金が抜けていく感覚があります。モバイルとともに、デビットカードは新しい種類のカードとしてもっと魅せていけるのではないでしょうか」