新商品の健康への効果は?
食・楽・健康協会によれば、低糖質食と低カロリー食を比較すると、低糖質食が最も体重減量や脂質の代謝、血糖値の改善などに効果的なのだという。また、筋肉量や骨密度の減少を防ぎ、ロコモティブ症候群(運動器の障害)や寝たきりの予防にもなるとされる。加えて、カロリーや動物性の脂質は肥満や生活習慣病の原因になるものではない、との研究結果も述べられている。これらは、世界的に権威があるとされる専門誌で発表されているもので、栄養学の“常識”となりつつあるそうだ。
糖質制限食では糖質量を1日あたり60グラム程度に抑える厳しい食事法もあるが、「一般の方にとっては、食事の満足感が少ないため、続きにくい。身体への負担に比して効果も低い。QOL(クオリティ・オブ・ライフ)の面でも問題がある」(山田悟医師)という。協会が「緩やかな糖質制限」を推奨しているのもそのためだ。
では、すき家の新商品の、健康面での効果はどの程度なのだろうか。同社社員15名の食前・食後の血糖値測定結果では、おにぎり2個を食べた人は食前で90ミリグラム・パー・デシリットル(mg/dl)、食後で148mg/dlと、食後血糖値が大きく上昇したという。これに比べ、新商品を食べた人は、ロカボ牛麺で107mg/dlが124mg/dl、ロカボ牛ビビン麺で94mg/dlが108mg/dlなどと、もともとの血糖値が高めであるものの、食後の数値は基準値を下回っていた。基準値は空腹時で70~109mg/dl、食後で140mg/dl未満だ。
食・楽・健康協会によれば、とくに食後の高血糖が肥満や生活習慣病の原因となり、がんとの関係も指摘されているという。食の楽しみは保ったまま、食後の血糖値を低く抑える「ロカボ食」は、体型や健康を気にする人、つまり現代人の多くにとって歓迎すべき食事法だということになる。
メインは牛丼、ただし…
興津社長によると、ロカボ商品のテスト販売では好感触を得たとのことで、すき家としては初の「健康志向メニュー」に期待をかけている。そのことの表れが、価格設定だろう。
新商品は、牛丼(350円)の価格よりは高いものの、同時発売の牛ビビンバ丼(わかめスープ付き580円)と同程度。新しい麺の開発費や認証の取得にかかったコストなどで、価格が多少は上乗せされていてもおかしくないところだが、ロカボ商品が特に高いという感じはしない。まずは既存客が納得できる価格に抑えて認知を高め、さらに客層を広げていく狙いなのかもしれない。興津社長によると、今後もロカボ商品には積極的に取り組んでいく予定だそうだ。
ただし、すき屋のメインストリームはあくまで牛丼であるという。牛丼の主役ともいうべき米は、もともと高炭水化物の食品。糖質を低く抑えるためには、ご飯の量を減らすしかない。牛丼のつゆにも多少は砂糖などが含まれているから、1食40グラムのご飯の量は茶碗に半分ぐらいのイメージだろうか。牛丼の魅力には、そもそもボリューム感が含まれていそう。健康のためとはいえ、量を控えるのは「味気ない」と思う人がほとんどだろう。
ともあれ、食にまつわる業界ではロカボ、あるいは「グルテンフリー」といった言葉がキーワードになりつつある。宅配ピザチェーンがダイエットジムと提携して低糖質メニューを出すなど、この分野における飲食メーカー、中・外食チェーンなどの競走は、すでに始まっているのだ。すき家の参入も当然と言うべきだろう。